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写真

トレーラの前の持ち主、ベリンダがやってきた。惜しむ時間と華やぐ声が混ざった。

十七 写真に入る

 ジューンが紙皿を持ってきたので、ベリンダの出発は少し延びた。

アルミ箔をめくると、切り分けられたケーキがあった。


端が一つ欠けていた。

ロイが切ったのだとジューンが言い、ベリンダは、彼にやらせたの、と笑った。

エリコも、あの人はね、と言って笑った。

私はロイが何を苦手にしているのかまだ知らなかったが、紙皿を受け取るには笑う必要があった。

 みんなで外へ椅子を出して座っていた。

午後の光が弱くなり、家の影の端だけがはっきりしていた。

ベリンダは椅子を動かして体半分ほどを日向へ向けた。

エリコが自分の椅子も動かしたので、私は後ろへ引いた。


 足元の砂利が鳴った。

その音の間に、女たちの話題は一つ先へ進んでいた。

知らない人の名前が続いた。

膝を悪くした人がいて、家を売った人がいた。

同じ人のことなのか、私は途中でわからなくなった。

エリコはときどき日本語で補ったが

私へ説明しているうちにジューンが続きを話し、両方を聞こうとする彼女の声だけが少し大きくなった。


「いいよ、あとで」


 私が言うと、エリコは説明をやめた。

それで助かったようには見えなかった。


 ベリンダの皿には、甘い上掛けの砂糖の部分が残っていた。

ジューンがそれを見て何か言うと、ベリンダは肩をすくめた。

二人が笑い、今度はエリコが、何、と訊いた。


「前からよ」

 ベリンダは言った。


「ハリーが上ばかり剥がして食べるから、私は下を食べてたの。

今でも上を剥がして取っておくのよね」


 彼女はフォークで白い塊を押した。柔らかいものが、紙皿の上で形を変えた。

 エリコが、自分の分と取り替えるかと訊いた。

ベリンダは首を振った。

私は彼が甘いものを好きだったことを知っているつもりになっていた。

生きていた時の彼とは一度も会っていなかったのに。


 ジューンが立った。

帰りに車を見てもらうというベリンダのため、ロイを呼んでくるといった。

エリコも紙皿を集めて家へ入った。ベリンダの皿だけが、その膝に残った。


「長く、こちらに?」

 彼女が私に訊いた。


 私は帰りの便を一週間延ばそうとしていることを話した。

日本から返事が来て、仕事の予定は動かせそうだった。

航空券はまだ変更していない。

そこまで説明する英語が出てこず、一週間、と二度言った。


「一週間」

 彼女も繰り返した。


それが長いのか短いのか、表情からは読めなかった。


「エリィは、ここを出たがってる?」

「西へ行ってみようと」

「そう」


 ベリンダは片足を前へ伸ばした。靴の踵を砂利へ少し埋めた。


「私はここを出るとき、冷蔵庫を切りたかったの」


 私は最初、冷蔵庫を処分する話だと思った

。訊き返すと、彼女は指でスイッチを押す真似をした。


「音がしてると、何か入っていると思うでしょう。

買わなくちゃ、って。卵とか、ミルクとか」


 そこで彼女は私を見た。

私がどこまでわかったか、確かめたようだった。

「でも切ると、臭くなるから」

 私は口の端を少し上げて頷いた。

ハリーのために動いていた冷蔵庫。

そういう話なら、私にも続きが想像できた。

卵やミルクは、どうなんだろう。

買い物は一人になってもする。


「エリィが使ってくれて、よかった」

 ベリンダは言った。家のドアは開いていた。


「大事に使ってるみたいですよ」

私が答えると、彼女は少し首を傾けた。

私の英語のせいかもしれなかった。

私は、大事に、という別の言い方を探したが、その前にエリコが水を持って出てきた。


「ノートの写真、撮った?」

 私はエリコに訊いた。


「まだ」


 ベリンダはバッグからノートを出した。

エリコが受け取り、ページを開いて膝に置いた。

風が吹いて、何枚かページが戻った。

私が押さえようとすると、彼女は手首で紙を止めた。


「大丈夫」

 数枚撮って返した。

ベリンダはそのまましまった。


 車が来て、ロイがタイヤを見た。

問題はなさそうだった。

ベリンダは礼を言い、そこで急に、自分の携帯を私へ渡した。


「お写真、お願いできる?」


 私は家の前へ回った。

ベリンダはエリコを呼び、皆が並んだ。

二人の間は、人が一人入れるほど空いていた。

私は画面の中で、その隙間をどうしようかと思った。


「もう少し、近くに」


 言うと、エリコが動いた。

ベリンダは動かなかった。

二人の肩が近づき、ベリンダの指がエリコの肘に触れた。

笑顔が揃うのを待っているうちに、どちらの顔も少し固くなった。

私は二枚撮った。


 ジューンが、あなたも、と私に手招きした。

私は携帯を彼女へ渡した。

エリコの横へ立とうとすると、今度はベリンダが場所を空けたので、私は二人の間へ入ることになった。

 エリコの腕が私の背に回った。

ベリンダの袖も反対側の腕に触れた。

二人とも、画面に向かっていた。


 ジューンが撮り終えても、エリコの手はすぐに離れなかった

。腰のあたりの服を掴んでいる。

私がそちらを見ると、彼女はベリンダに何かを話しかけ、その途中で手を下ろした。


 あとで送る、とベリンダは言った。エリコは郵便ではなくメールでいいと念を押した。

二人は「どっちもメールよね」とおかしがって笑った。


私は自分の写った写真をまだ見ていなかった。見せてほしいと言う前に、携帯は彼女のバッグの、ノートと同じ側へ入った。


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