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悪役令嬢ですが、攻略対象を全員無視して隣国の王子を奪います  作者: サトー
第二章 隣国の王子と始まる新たな物語
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今度こそ、未来を選ぶ

リヴィアは、目の前に現れた二人の姿を見つめていた。


一人は、三百年前のセラ。


そしてもう一人は――。


黒い髪。


深い青色の瞳。


現在のルシアンと同じ、静かな眼差し。


「……あなたは」


リヴィアの声が震える。


青年は答えなかった。


ただ、ルシアンへ視線を向ける。


まるで、長い時間を越えて再会したかのように。


ルシアンもまた、彼を見つめていた。


「……僕に似ている」


『似ているのではありません』


セラが静かに答えた。


『彼の魂の響きが、あなたの中に残っているのです』


ルシアンは眉を寄せる。


「魂の響き……」


『三百年前、彼は世界の修正に抗いました』


セラの周囲に、淡い光が広がる。


そこには三百年前の光景が映し出された。


白い宮殿。


黒い魔法陣。


無数の未来を閉じ込めた巨大な結晶。


そして、その前に立つ青年とセラ。


『私たちは、世界を一つにしようとする者たちと戦いました』


『でも、勝つことはできなかった』


青年がセラの手を握る。


『それでも、彼は最後まで諦めませんでした』


『必ず未来は変えられる』


その言葉が、現在のリヴィアの胸に響いた。


「……三百年前のあなたも、そう言ったんですね」


セラは頷いた。


『はい』


リヴィアは、薄くなっているルシアンを見る。


彼の身体はまだ完全には消えていない。


しかし、輪郭は先ほどよりも薄くなっていた。


「……なら」


リヴィアは青い宝石を握りしめる。


「今度は、私たちが続きをやります」


黒衣の人物が叫ぶ。


「そんなことは許さない!」


黒い魔力が再び放たれた。


だが、その瞬間。


三百年前の青年が一歩前へ出た。


青年の身体から青い光が溢れ出す。


黒い魔力が、その光に触れた瞬間――。


音もなく消滅した。


黒衣の人物が後退する。


「これは……残留記録だと?」


白蓮が静かに答えた。


「違います」


彼女の黄金色の瞳が、黒衣の人物を捉える。


「これは、三百年前に残された『選択』そのものです」


黒衣の人物の表情が歪む。


「選択……?」


「彼らが最後に残した意思」


白蓮が手を掲げる。


「未来を一つに固定するのではなく、可能性そのものを残す」


その言葉に反応するように、空中に浮かんでいた無数の未来が輝き始めた。


そして――。


ルシアンの身体を包んでいた黒い魔力が、少しずつ剥がれていく。


「……リヴィア」


「殿下!」


リヴィアは彼の手を強く握った。


「大丈夫です」


「……うん」


「絶対に、離しません」


ルシアンが少しだけ笑った。


「それなら、僕も離さない」


二人の手が重なる。


その瞬間。


青い宝石とルシアンの王家の紋章から、強烈な光が放たれた。


二つの光が空中で一つになり、巨大な魔法陣へ変わっていく。


魔法陣の中央には、三つの文字が浮かんだ。


『世界』


『存在』


『選択』


リヴィアはその文字を見つめる。


三百年前とは違う。


今の自分たちが選んだ三つの鍵。


世界を受け入れる。


存在を否定しない。


そして――。


自分自身で選択する。


「……行きましょう」


ルシアンが頷く。


「うん」


二人が同時に魔法陣へ手を伸ばした。


光が爆発する。


「ぐっ……!」


黒衣の人物が腕で顔を覆う。


黒い王冠が激しく震えた。


亀裂が広がっていく。


そして――。


パリンッ!


黒い王冠が完全に砕け散った。


黒い魔力が一気に消える。


空を覆っていた暗雲も消え、東の仙境に再び青空が戻った。


黒衣の人物は膝をついた。


「……なぜだ」


震える声だった。


「なぜ、可能性を一つにしない……」


リヴィアは静かに答えた。


「だって、未来は一つじゃないからです」


「……」


「誰かが決めた『正しい未来』だけが、本物じゃありません」


リヴィアはルシアンの手を握る。


「私たちが選んだ未来も、本物です」


黒衣の人物の姿が、黒い霧へ変わっていく。


「まだ……終わっていない……」


その言葉を残して、彼は消えた。


静寂が戻る。


しばらく誰も話さなかった。


やがて、ルシアンが自分の手を見つめる。


先ほどまで薄くなっていた指先が、元に戻っていた。


「……消えていない」


リヴィアの目に涙が浮かぶ。


「はい……」


「僕は、ここにいる」


「……はい」


リヴィアは安心したように微笑んだ。


その瞬間。


自分がまだ彼の手を握っていることに気づく。


「……あ」


慌てて手を離そうとする。


しかし。


ルシアンが、その手を握り返した。


「もう少し、このままでいい?」


「……え?」


「今はまだ、離したくない」


リヴィアの頬が一気に赤くなる。


「そ、それは……」


「嫌?」


リヴィアは答えられない。


少しだけ俯いて――。


「……嫌では、ありません」


小さな声だった。


ルシアンは優しく笑った。


その様子を見ていたエヴリンが、嬉しそうに微笑む。


アルベルトは呆れたように顔を逸らした。


ミレイアは母のペンダントを握りしめる。


「……母さん」


ペンダントの表面に、今まで存在しなかった文字が浮かび上がった。


『記録は完了していない』


ミレイアの表情が変わる。


「……まだ終わってない?」


白蓮もその文字を確認した。


「そうです」


リヴィアとルシアンが振り返る。


「最後の記録は、まだ残っています」


白蓮は宮殿の奥を指差した。


そこには、先ほどまで存在しなかった階段が現れていた。


階段の先には、黄金色の扉。


その扉には――。


見たことのない紋章が刻まれている。


龍。


月。


そして、一本の剣。


白蓮が静かに告げた。


「三百年前の真実は、ここまでではありません」


「この先には――」


彼女は一度、言葉を止める。


「この世界の東方を支配する者たちが隠してきた、もう一つの記録があります」


リヴィアは扉を見つめた。


「……東の仙境の、さらに奥」


「はい」


ルシアンが隣に立つ。


「行こう」


リヴィアは頷いた。


今度は迷わなかった。


自分たちの未来を、自分たちで選ぶために。


二人は並んで、黄金の扉へ向かって歩き始めた。

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