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悪役令嬢ですが、攻略対象を全員無視して隣国の王子を奪います  作者: サトー
第二章 隣国の王子と始まる新たな物語
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選ばれなかった未来

無数の光が、東の仙境の空を埋め尽くしていた。


一つ一つの光の中に、異なる未来が映し出されている。


リヴィアがエヴリンと笑っている未来。


アルベルトが王として玉座に座っている未来。


ヴァロリアとエルディアが平和を築いている未来。


そして――。


ルシアンが存在しない未来。


その光景を見た瞬間、リヴィアの胸が締めつけられた。


「……また、この未来」


目の前に映っているのは、王城の中庭だった。


そこにはリヴィアが一人で立っている。


けれど、隣にルシアンはいない。


「違う……」


リヴィアは首を横に振った。


「これは、私の未来じゃない」


黒衣の人物が静かに笑う。


「なぜそう言い切れる?」


「私は、こんな未来を選んでいないからです」


「選んでいない?」


「はい」


リヴィアは青い宝石を握りしめた。


「私は、まだ何も終わらせていません」


黒衣の人物が手を掲げる。


すると無数の未来が一斉に動き始めた。


幸せな未来。


悲しい未来。


戦争に敗れる未来。


平和になる未来。


リヴィアが誰かと結婚する未来。


一人で生きる未来。


そして、そのすべてに共通しているものがあった。


――ルシアンの存在が不安定になっている。


「……どうして」


リヴィアが呟く。


黒衣の人物が答える。


「彼は、この世界の記録から外れた存在だからだ」


「……」


「本来なら、彼が存在する未来は一つも残らないはずだった」


ルシアンが剣を握る。


「それなら、なぜ僕は今ここにいる?」


「お前が、自分の存在を選び続けたからだ」


黒衣の人物はルシアンを見つめた。


「そして、リヴィア・アーデントもまた、お前を選び続けた」


リヴィアの心臓が跳ねる。


「私が……?」


「そうだ」


黒衣の人物が指を動かす。


一つの光が二人の前へ降りてきた。


そこには、第一章で見た地下室。


その次にはアルカディア。


そして三百年前のセラ。


無数の場面が高速で流れていく。


「お前たちが出会うたび、世界の可能性は増えていった」


「お前たちが互いを守るたび、記録は変化した」


「そして今――」


黒い王冠が強く輝いた。


「二人の存在によって、世界そのものが不安定になっている」


リヴィアは唇を噛んだ。


自分たちが未来を変えた。


それは分かっていた。


けれど、その結果として誰かが傷つくのなら。


「……なら、私が離れればいいんですか?」


ルシアンが振り向いた。


「リヴィア」


「私が殿下から離れれば……世界は元に戻るんですか?」


黒衣の人物は答えなかった。


その沈黙が、答えのように感じられた。


リヴィアは目を伏せる。


「……そういうことなんですね」


ルシアンが一歩近づく。


「違う」


「殿下……」


「君が離れる必要はない」


ルシアンはまっすぐ彼女を見る。


「僕がこの世界に存在することが間違いだというなら、僕自身がその間違いを否定する」


「でも……」


「リヴィア」


ルシアンは優しく呼びかけた。


「君は、僕がいない未来を選びたい?」


リヴィアの瞳が揺れる。


答えはすぐに出た。


「……いいえ」


「なら、それで十分だ」


ルシアンは手を差し出した。


「僕も、君がいない未来を選びたくない」


リヴィアはその手を見つめる。


ほんの少し迷ってから――。


そっと、その手を取った。


温かかった。


確かな温度だった。


「……分かりました」


リヴィアは顔を上げた。


「私も、自分で選びます」


黒衣の人物の表情が険しくなる。


「愚かな」


「愚かでも構いません」


リヴィアは一歩前へ出た。


「私は、誰かに用意された未来を選ぶつもりはありません」


「ならば、お前たちは世界そのものを敵に回すことになるぞ」


「それでも」


リヴィアはルシアンの手を握ったまま答えた。


「私たちの未来を、私たちで決めます」


その瞬間。


二人の足元から巨大な魔法陣が広がった。


青い光と銀色の光が混ざり合い、空に浮かんでいた無数の未来を包み込んでいく。


黒衣の人物が叫ぶ。


「やめろ!」


黒い王冠が激しく震えた。


しかし、魔法陣は止まらない。


一つ。


また一つ。


未来を映していた光が黒い鎖から解放されていく。


「これは……」


白蓮が遠くから呟いた。


「可能性そのものを解放している……」


ミレイアも驚いた顔で見つめている。


「母が探していた方法……」


エヴリンが尋ねる。


「どういうこと?」


「未来を一つにするのではなく……」


ミレイアは震える声で答えた。


「すべての可能性を残すんです」


その言葉と同時に、黒い王冠へ亀裂が走った。


パキッ――。


「馬鹿な……!」


黒衣の人物が後退する。


「そんなことをすれば、世界は制御できなくなる!」


リヴィアは首を横に振った。


「未来は、制御するものじゃありません」


そして、ルシアンを見る。


「生きるものです」


ルシアンが微笑んだ。


「その通りだ」


二人の魔力がさらに強くなる。


黒い王冠が砕け始めた。


しかし――。


最後の一片が落ちる直前。


黒衣の人物がリヴィアへ向かって手を伸ばした。


「ならば、最後の鍵だけでも奪う!」


黒い魔力が一直線に飛んでくる。


「リヴィア!」


ルシアンが彼女の前へ飛び出した。


黒い光が彼の身体を包み込む。


「殿下!」


リヴィアが叫ぶ。


ルシアンの身体がぐらりと揺れた。


「……大丈夫」


彼はそう言った。


しかし、その身体の輪郭が――。


少しずつ薄くなっていた。


「嫌……」


リヴィアの顔から血の気が引く。


「嫌です……!」


ルシアンが手を伸ばす。


「リヴィア……」


「消えないで!」


彼女は必死にその手を掴んだ。


けれど。


指先が少しずつ透けていく。


黒衣の人物が笑った。


「見ろ」


「それがお前たちの選択の結末だ」


リヴィアは涙を浮かべながら、ルシアンの手を強く握った。


「……違う」


「何?」


「これは、まだ結末じゃない」


青い宝石が、今までにないほど強く輝いた。


そして。


その光の中から――。


聞き覚えのある声が響いた。


『諦めないで』


リヴィアが顔を上げる。


そこにいたのは――。


三百年前のセラだった。


しかし、その隣には。


青い瞳の青年が立っていた。


彼は静かに微笑み――。


『今度こそ、未来を選んで』


そう告げた。

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