36呼びだされたら行くしかありません
呼び出しを受けたマリアだったが、体調が急に悪くなったため、生徒会室にはソフィアが代わりに向かうことにした。マリアは激しくせき込んだ後、気を失ってしまった。身体に異常はないか確認したソフィアだが、彼女は気を失っているだけで、それ以外に身体の異常は見られなかった。
「マリアさんがこの状態では、生徒会室には私が向かうしかありませんね」
「私もソフィアさんと一緒に行きます!」
「カナデはお留守番を頼みます。代わりに、エイト君、私と一緒に来てくれますか?」
ソフィア一人では危ないと思ったのか、カナデも一緒に行くと名乗り出たが、ソフィアは断り、代わりにエイトを連れていくと告げた。
「どうして、エイト君なんですか?はっ!もしや、ソフィアさん、エイト君のショタの魅力にはまりましたか。確かにエイト君はかわいいですが、あくまで彼は生徒。生徒に手を出したらはん」
「行きましょう。エイト君。カナデ、マリアさんを頼みましたよ。ブラックにホワイト、あなたたちもカナデのそばにいなさいね」
「カナデさん、少し落ち着いた方が」
「にゃー」
「い、いつの間に。ブラックとホワイトが!」
二匹の猫は、了解したという返事の代わりにニャーと一声鳴いた。そして、カナデたちにしか聞こえない声で、忠告する。
『気をつけろよ。ソフィア。』
『エイト、お主がソフィアを守ってやるのだぞ』
「行ってきます」
「わかりました」
二人は、真剣な面持ちで部屋から出ていった。その場に残されたのは、一気に興奮が冷めたカナデと、二匹の猫とマリアとなった。
「ううん」
二人が出ていった数分後、マリアは目を覚ました。先ほどより少しだけ顔色が良くなったが、それでもまだ通常の顔色とまではいかず、青白い顔をしていた。
「あ、あの突然で申し訳ないけど、あなたのことを教えてくれないかな。私は、最近ここで働くことになったカナデというんだけど、高等部の生徒だよね」
カナデは、マリアの名前しか知らなかった。ソフィアが彼女の名前を呼んでいたのでマリアだという名前を知っただけで、彼女について何も知らなかった。初めて顔を合わせたときは興奮して、何も知ることができなかったので、思い切って聞いてみることにした。
カナデに問いかけられたマリアは、カナデの性別を見た目で判断したのか、声にならない悲鳴を上げて、カナデから遠ざかろうとした。
「危ない!」
マリアは座っていたソファから立ち上がり、後ろに下がったのだが、後ろには本棚があり、ぶつかってしまった。その拍子に本が数冊本棚から落下した。
とっさにカナデが本からマリアを守るために彼女に覆いかぶさる。
『相変わらず、無茶ばかりする』
『我らがいることを忘れておるのか』
「い、いたい……。痛くない?」
カナデは本が背中に当たる衝撃を予測して目をつぶった。しかし、いくらたっても、本が落下してくる気配はない。本棚の方に目を向けると、落下してくるはずの本が宙に浮いていた。そして、その本たちは本棚の所定の位置に戻っていく。
「あ、ありがと。ホワイトにブラック」
お礼を述べたカナデの下で、か細い声が聞こえた。
「く、苦しいです」
苦しいというマリアの声に、慌ててその場から退いたカナデ。目の前には、苦しそうに息をする美少女の姿があった。
「ご、ごめんなさい。つい、反射的に」
「いえ、こちらこそ、ええと、もしかして、女性の方でしたか?」
「まあ、そんなところです」
顔を上げたマリアが、お決まりの性別確認の質問をしてきたので、カナデはあいまいに答えるだけだった。カナデの胸が顔に当たって女性だと判断したのだろう。もうすでに、このくだりは飽きるほど経験してきた。
「女性の方が用務員なんて珍しいです。それに、その格好、男性の作業服ですよね」
「仕事をするうえで支障はないので、この格好で作業をしています」
「うらやましい……」
「何か言いましたか?」
「いえ、そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前はマリア・アナスタシアです。高等部一年です」
カナデの言葉に、マリアがぼそりとつぶやくが、それはカナデに届くことはなかった。マリアは気を取り直し、カナデに自己紹介を始めた。
「高等部一年生なんですね。マリアさんはどうして生徒会室に呼ばれていたのですか?」
カナデの質問に、マリアは自分が生徒会室に呼ばれていたことを思い出す。
「そういえば、私、生徒会室に呼びだされていました。いかなくては!」
突然動き出したことで、立ち眩みを起こしたのか、マリアはふらりとソファに倒れこむ。
「ダメですよ。そんな体調が悪い状態では、とりあえず顔色が良くなるまで、ここで安静にしていた方がいいです。それに、生徒会室なら、ソフィアさんが代わりに行って、用件を聞いてくるみたいですから、心配しなくても」
「ダメです!」
「にゃー」
マリアの思いのほか大きな声にカナデは驚くが、二匹の猫は知らぬ顔で、彼女の膝の上に乗って、毛づくろいを始めた。
「あ、あの私、生徒会室に」
「呼びだした人と、用件に心当たりがあるんですか?」
「それは、ここで言うことはできません。とにかく、生徒会室に行かないと」
『ふむ、女神よ。代わりに様子を見に行ってみるか?』
『仕方ないな。今回は特別だ。われも気になるしな』
二匹の猫が話し合い、納得したのか、その場で煙が上がった。
「けほけほ、いきなりどうしたのよ。ホワイトにブラック」
「今はソフィア・アナスタシアだ」
「まったく、そして、私はカナデだ。不本意だがな」
マリアとカナデの前には、二人にそっくりの女性が立っていた。女神がマリアで、悪魔はカナデの姿になっていた。
「あの、これはいったい」
「では、カナデ、私たちは、ソフィアの様子を見てくることにする。この扉には結界を施しておいた。お主が扉を開けなければ、外からは開けられない仕組みとなっている。絶対に外に出るなよ。それから」
カナデの顔をした女神がすっとマリアの前に跪いて、額に手をかざす。
「お前は、少し休んだ方がいい」
マリアは、女神の言葉に反応して、目がトロンと正気を失い、その後、スースーと眠ってしまった。
「少し、記憶をいじって置いた」
「ううん、目の前にいるのが私の姿だとはわかっていても、あふれ出るキラキラオーラが私を違って見せている」
カナデの言葉を無視して、二人は部屋から出ていった。




