9男女平等という概念で言うならば
「差し入れです。休憩時間にどうぞ」
『いつもありがとうございます!聖女様!』
カナデたちは今、騎士団の詰め所に来ていた。まずは、身近なところから改革を進めていこうと思い、ソフィアがたまに向かう騎士団から始めることにした。ソフィアに頼んで特に用事もないが、騎士団の詰め所を訪れることになったので、手ぶらで行くのも申し訳ないと思った。カナデがソフィアに相談すると、ソフィアにこれを持っていこうと提案されたわけだが。
「これ、どう考えても、ようかんだよね。なぜ、こんなところで日本の和菓子が出てくるのか……」
「ウイロを知らないんですか?もっちりとした触感でおいしいですよ。たくさん用意したので、おひとつ、カナデも食べてみてはどうですか?」
ソフィアが、差し入れの羊かんらしき黒っぽい物体をつま楊枝でさして、まるで恋人同士がする、彼女が彼氏にするあーんという状況になってしまい、カナデは思考を停止させられた。ソフィアは、外ではカナデのことを侍女として扱うと決めたらしく、カナデと呼び捨てにしている。
「いやいや、これはダメですって。私たち、別に恋人同士でもないですし」
「何を言ってるのですか?私たち恋人でも何でもないですよ。あ、もしかして、カナデさんはこういうことをしたことがないのですね。恋人なんか生まれてこのかたいたことがありませんって顔していますからね」
カナデが固まってしまったことをからかうようなソフィアの発言に、ようやくカナデの思考が動き出した。
「相変わらず、ソフィアお嬢様は失礼ですね。わかりました。おいしいというのなら、もらいます!」
パクリとソフィアからの有り難いあーん攻撃を受け止め、もぐもぐと騎士団の差し入れだというウイロを咀嚼する。そして、ごくりと飲み込んで、負け惜しみのようにソフィアに言葉を告げる。カナデもソフィアのことを外ではお嬢様と呼ぶことにしていた。
「ソフィアお嬢様に言われてしまうと、何も反論できません。はい、どうせ、漫画みたいに、恋人いない歴=年齢のアラサー近い女子もどきですから」
それにしても、とカナデは別のことを考える。ウイロと呼んだこの差し入れは、もといた世界で食べたことのあるものとよく似ていた。いや、味も触感もそのままで、むしろ、この世界のものの方がおいしいとさえ思えた。
「これ、絶対、名古屋名物のういろうだよね。なぜ、ここでこんなものが差し入れに選ばれるのか……」
もっちりとした触感に上品なあまさ、羊かんほどの重みはなく、カナデはもといた世界ではすきな和菓子の一つだった。
「カナデは以前にこのお菓子を食べたことがあるようですね。おいしいでしょう?私も好きなんですよ。これ」
ソフィアとカナデは、現在、騎士団の詰め所にいた。そして、この恋人同士の定番は、がっつりと他の人間に見られていた。
ちなみに、カナデが着ていた露出度の高い侍女服は、ソフィアが回収されていた。そのため、カナデは現在、いつものダサい、もといた世界のチェックシャツにパーカー、ジーンズにスニーカーという格好をしていた。侍女ということもあるので、それっぽく見えるようにエプロンを拝借してつけていたが、ダサいことに変わりはなかった。
「せ、聖女様と謎のおとこおんなの絡み……」
「こ、これは新しい扉を開きそうだ」
「どなたにも優しさを発揮する聖女様、感服です……」
はっとカナデは今置かれている状況を確認する。自分たちはいま、騎士団に差し入れを持ってきていたのだった。ソフィアにあーんをされてつい食べてしまったが、これはもともと騎士団にわたすものだった。
「す、すいません。お見苦しいものをお見せしてしまって」
「ソフィアさんに、カナデさん!来てくれたんですね!」
「カナデ?ああ、久しぶりですね。私を覚えていますか?」
「レオナに、イザベラ?」
カナデがソフィアとの羞恥を謝ると、聞き覚えのある声がした。声の主を確認すると、レオナとくそ勇者と一緒に魔王討伐に向かったパーティの一人、イザベラがそこにいた。
「イザベラは、あれから仕事がなくて、放浪としていたところを騎士団の人が目をつけて、今は一レオナと一緒に女性騎士としてこの城で働いているんですよ」
ソフィアがイザベラのことを説明してくれた。それにしてもと、カナデは二人の破廉恥な格好に頭を抱える。
「その格好はいまだに代わることがないのね」
「いや、これはその」
「わかっている。皆まで言う必要はない。その格好を正すために、私はいまこの場にいるのだから」
『この格好がカナデには不満ということか。ふむ、なるほどカナデの考えはわかったが、しかし世の中、そんなものだろう?男と女の性差で服装が違うのは今に始まったことではないだろう?』
『我も女神と同意見だが、なぜそこまでこだわるのだ。面白いと思ってここまで来たが、カナデの真意を聞きたいのう』
二匹の猫たちは、ソフィアの周りをうろつくことを生きがいにしているようだった。ソフィアとカナデが行く先々でまるで、待伏せをしているかのように現れる。そんな女神と悪魔の言葉にカナデは答える。皆が聞いている中での発言だということも考慮して、自分の考えを慎重に述べていく。
「あの、ですね。確かに昔から、男女間に性差があって、服装が違っていたことは事実です。それは歴史を習えばわかることですから。だけど、それはあくまで昔の話です。平安時代や中世ヨーロッパではそれでよかったかもしれません。いや、よくはないと思っている人もいたかも。貴族の女性が十二単に超ロング黒髪だったり、コルセットぎゅうぎゅうに絞められたドレスだったりを着ていた時代も確かにありました」
「カナデさん、いきなり何を」
ソフィアの制止も聞かずに、一気に自分の思いを皆に伝えようとカナデは話を続ける。
「すべて昔の話です。今は男女平等社会を目指している世の中。男女関係なく仕事をしていいことになっていますし、それに伴う給料も同じ、同一労働同一賃金だということです。それなのに、昔のように服装を分けるのはおかしくないかと私は思うのです!」
『ふむ、だか男女がわかりやすく判断できるので、悪くないという意見もあるのでは?』
『それに、女性のこのような服がかわいいというものもおるだろう?』
女神と悪魔のツッコミにも、カナデは冷静に対処する。
「それもありますが、ですが、それも今更古い考えです。同じ仕事をするのに、かたや動きを制限された服装、かたや自由に問題なく動ける恰好、そんな差別が許されていたことが不思議でなりません。私たち女性が意志を持ってしまった以上、男性と同じことをしたいと渇望した以上、そんな制限された服装は撤廃されるべきものとなったのです!」
ふうとカナデはここで一息つく。彼女自身もわかっていた。昔あった、性差による服装の格差は少しずつ縮まっていることに。しかし、まだまだ道半ばのことであり、完全に克服できたとは言えない。これから進むであろう改革だ。
カナデはすでにもといた世界に帰ることは叶わない。事故で命を落としているのだ。女神たちももといた世界にカナデを戻しはしなかった。だからこそ、この世界にいるのだから、この世界の女性だけでも快適に過ごせるように、快適に仕事をできるようにしていきたいと思っていた。
「そ、そんなことを思いながら、私たちの服装に気を配ってくださったのですか……」
「ただの変態だったわけではなかったのね」
レオナとイザベラからの言葉にカナデは苦笑する。わかってもらえてよかったと安堵した。さっそく、自分の考えを聞いてもらったので、騎士団の女性服を変えようと提案しようとしたのだが。
「困りますねえ。やはり、あなたのような下賤の民をこの城に迎え入れるべきではありませんでした。女王の指示を待つことなく、処分した方が良かったですね」
またもや、カナデが嫌いな宰相が現れた。今回は女王を引き連れていた。




