25聖女の秘密、そして旅はまだまだ続くようです
聖フローラ共和国について、ソフィアが知っていることといえば、百年に一度、この国を襲う、魔王との戦いの際に活躍する聖女を育てている国ということくらいだった。しかし、魔王を倒すために選ばれた勇者と聖女は異世界から来たという記録が残っているので、聖女を育てるということはおかしな話だとソフィアは子供ながらに思っていた。
「ああ、『聖女』を育てるという意味がわかりました。」
ソフィアは一カ月ほどの旅を得て、聖フローラ共和国に入国した。そこには、目を疑いたくなるような光景が待っていた。女性にとっては、屈辱的光景、男性にとっては天国という性差によって矛盾するこの光景に、ソフィアは目をそらしたくなった。
「目をそらしてはいけませんよ。ここがこれからのあなたの故郷となるのですから。」
「ソフィアさんは、それで具体的にどのようにしていきたいと思いますか。」
ソフィアは昔を思い出していた。家が金に困り、家族に売られ、その後の地獄の途中を思い出している最中に、カナデに話しかけられていると気づいた。ソフィアとカナデが意気投合したその日は、夜通しで話し合ったもので、おかげで今朝は寝不足で頭が重たい。寝不足であるのは、カナデも同様だと思うのだが、なぜか、カナデは元気そうに見えた。ただし、その元気は徹夜明けのテンションなだけかもしれない。
「ええと、何の話をしていたのでしたか。」
「私の話を聞いていなかったでしょう。私たちは同志となりましたが、具体的な目標がまだ定まっていない。そこで、この魔王討伐の旅の道中にでも、決めていきたい。」
「はあ。」
カナデという女は、異世界から来たと言っていたが、そこはもしかしたら、自分が持っている前世の記憶と同じ世界ではないだろうか。ソフィアはカナデとユーリが初対面で話していた、出身地の話は思わず分からないふりをしてしまった。もしかしたら異世界の話を共有できるかもしれなかったが、カナデのあまりの女子力のなさが際立ち、とっさに仲間になりたくないという思いが無意識に働いてしまった。さらには、隣にいた同じく異世界から来たというユーリという男にも同じような思いを抱いた。
「トントン。」
二人の会話は外からの音で中断させられる。
「朝食の準備が整っているそうですよ。すでにユーリ様も他のものも集まり始めています。急いで準備をして、一階に降りてきてください。」
ドアがノックされて、イザベラの声が扉越しに聞こえる。それにハーイと間延びした返事を返したのはカナデ。ソフィアもわかりましたと返事をする。その答えに満足したのか、イザベラはその場を立ち去ったようだ。足音が部屋から遠ざかっていく。
「その話はまたの機会としましょう。私たちが目標を定めても、それに賛同する女性が居なければ意味がありませんから。」
ソフィアは、この話はこれまでだと言外に伝え、朝食に向かうために扉を開けようとする。
「あの。」
「まだ何かあるのですか。」
「ええと、その……。化粧とか髪のセットとか、いろいろ女性には準備が必要かと思うのですが、ソフィアさんはいいのですか。」
ソフィアは苦笑する。これだから、異世界からの住人は扱いに困るのだ。とはいえ、ソフィアも自分と同じ世界観を共有する人間に出会ったのは初めてなので、困るのはこれが初めてであるのだが。
「私は聖女ですので、基本的に派手な化粧などは認められていません。なので、このままですでに準備が完了しているのです。」
「ああ、この世界とはそういうところは便利なものですね。そうでなくても、ソフィアさんくらいの年齢なら、化粧は不要かもしれませんね。私は無理ですけど、いえ、本当は化粧などしたくはないけど、ああ、そういえば私はこの世界に来てから化粧というものをしていなかったことを思い出しました。」
ぶつぶつと独り言をつぶやくカナデという女は、はたから見たらただの不審者にしか見えなかった。
カナデという女は、おかしい。しかし、そんなことを気にしていたら、他の女性陣もおかしい。それに、ソフィア自身もおかしいという自覚がある。
「ああ、そういえば、年を言っていませんでしたが、私はカナデさんより、年上だと思いますよ。何せ、一六歳で聖フローラ共和国に入った時から、この姿のままですから。聖フローラ共和国で過ごしてすでに十五年以上はたっていますから。もともと童顔だったのですが、そのまま年を取らなくなってしまったみたいで、このありさまとなっています。」
「ええええええええ。ロリばばあおおおおおおおお。」
ソフィアは自分の容姿についての簡単な説明をした。実際の年齢を伝えると、大抵は驚かれる。カナデも例外ではなかったが、リアクションが多少大げさだった。そして、驚きの後に続いた言葉は聞き捨てならなくて、思わず反論してしまった。
「そんな下品なことば……。」
「なんだってえええええええええ。」
カナデに続いて、大きな騒音がばたんという音共にやってきた。面倒な男がソフィアたちの部屋に乱入してきた。この旅のリーダー格となる勇者ユーリである。
「朝から大声を出さないでください。お腹がすきました。さっさと一階に行きますよ。」
ソフィアは二人の叫びを寛大な心で聞き流すことに決めた。この二人につき合っていては、自分もおかしくなってしまう。
「おいくそ女。いま、ろりばああって。」
「それが……。」
この二人は似た者同士ということで、はたから見ると、常に痴話げんかをしているようににぎやかだ。指摘すると二人そろって反論するが、その声が見事にハモっていて、見ている分には面白い。しかし、今はただただうるさいだけの騒音機だとソフィアは思った。
「ということで、今日もまた旅を続けるぞ。目指せ、おきな、いやシーロープだ。ていうか。旅を続けていくばくか。いつになっても目的地に近づいていないようだが、本当にこのまま旅を続けて大丈夫なのか。」
朝食を終えて、ユーリの部屋に全員が集合していた。ユーリが部屋の中央にある机に地図を置き、現在地と魔王の居る位置を指さしながら今後の計画を話していた。
「だいじょうぶだよお。いざとなったら、転移装置を使うから。」
「問題ありません。司祭様の話によると、今回の魔王はその場から動かないようだということです。」
エミリアが気楽にさらっと爆弾発言をする。その後のイザベラも大してこの度の心配はしていない様子だった。
「それがあるのは聞いているが、どうして今すぐ使えないんだ。それを使えば、ちゃっちゃと移動出来て、さくっと魔王を倒せるだろうに。」
「それができないんですよ。転移装置は全国各地に設置されているのですが、なぜか作動しない。でも、過去に何度か作動したことがあるので、不備ではないようですが。」
「わたし、それしってる。条件は、魔王が勇者と聖女とあう前に攻めてきたときのみ。」
シーラとルーが転移装置についての補足をする。
「まったく、そういうことなら、今回の魔王は面倒だということだな。とりあえず、旅は継続するか。」
ユーリ一行は旅を続けることになった。旅の道中でのテンプレ騒動がカナデを悩ませることとなり、旅はまだまだ続くのだった。




