スーパーノヴァの幸福 1
眼が醒めたら全身が痛かった。
当たり前だ。
それすらも愛おしく―――思えて、いるのだろうか。
よく、わからないけれど。
「―――君は馬鹿かッ!」
眼を開けた瞬間、サムが叫んだ。
「進むと決めた瞬間死に向かって走り出す奴がいるかッ!」
「いやあ、だって、ああしなきゃあの子が危なかったし……」
「馬鹿かッ!」
「うん……」
「馬鹿だッ!」
「はい……」
ごめんなさい、と、小さく言う。……すぐそばで、威勢のいい大きな笑い声がした。
「相変わらず無茶するねえ!」
「……イジー……!」
痛む身体を堪え両手をのばした。のばした手が、あちこち傷だらけの包帯まみれの手がしっかりとした手に強く強く握られる。
「なんで、どうしてここに?」
「このどこぞの坊ちゃんがあの都市からここまでタクシーで乗りつけたのさあ! 全く、大旅行だったよ! 本当何を考えているのやら!」
あの都市からここまでってほとんどこの大陸の端から端だ―――本当に何を考えているのだろう、この探偵は。ひとのことを言えるのか。
「あんたに会わせたかったんだろうねえ! 最初からそう言ってくれればいいものの、素直じゃない子だよまったく!」
「ふはっ……」
そうか―――そうか。
今ここで、眼を真っ赤にしているひとは―――そうなの、か。
「サムもわたしのこと大好きだねえ……わたしもサムのことまあまあ好きだよいたいっ」
「馬鹿だッ!」
「ごめんなさい、いたいいたいいたい……」
「しかも君、緊急連絡先に僕を指名していただろう! さっきはじめて知ったぞ!」
「いやあ、結構長い間逃亡してたからその間に何度か命の危機もあったし……何かあればサムなら上手いこと後腐れなく処理してくれるだろうなっていたいいたいいたい」
「馬鹿だッ!」
「ごめんなさい、ってば……ねえここ病院だよね? わたしいつ退院出来るの? 早く帰りたいんだけど、退院手続きして来てくれない?」
「しばらく大人しく入院して反省してろッ!」
「えええ……ごめんなさいってば……」
血管がぶち切れそうなほど怒鳴り散らしたサムはイジーに宥められ看護師に鬼のように怒られ、それでもまだ怒りが収まらないまま退院手続きは全くしてくれなかった。全部クリスに丸投げしたらしい。
「人間が小さいわよねえ」
そう言ってクリスはウィンクした。くすくすと笑い、「本当に反省はしてるんだよ」と、我ながら甘えた口調で言う。
クリスの子供である娘さんはそれはそれは可愛らしく、そんな少女にも同意を求めて微笑みかけた。全体的な雰囲気はクリスにそっくりで、でも口元なんかは旦那さんにそっくりらしい。いつか旦那さんにも会ってみたいなと、そう思う。
「脳に異常はなかったから明日には退院出来るわよ。打ち身は当分続くから、きちんと病院に通ってね」
「うわあ、はあい……」
「あなたの身体今痣だらけよ」
「うわあ、怒られる……」
「そうね。―――楽しみね」
クリスが微笑む。―――本当に、幸せそうに。
だからミユキも同じくらい心から微笑んだ。
「うん」