「全部、失くなったよ」
「そっか。気分は?」
「心細い」
「大丈夫。安心して怖がってていい」
「うん。……あのね」
「なに?」
「わたし、護られてた。護るつもりで吐いてた嘘に―――ずっとずっと、護られてた」
「……そっか」
「それが全部失くなった。だから……わたしは今、どんな顔をしていいのかわからない。なんにも持ってなくて……だから、心細い。……ここそろぼそ、かった」
「今は?」
「今も心細いよ。心細くて、不安で、怖くて、さみしくて、悲しくて、辛くて、痛くて―――」
そして。
「―――愛おしい」
そう。―――すべてが。
この世界のすべてが。
心細くて不安で怖くてさみしくて悲しくて辛くて痛くて、幸せで愛おしい。
「わたしが誰でも。……どんな時に、誰であっても。ずっとずっと、愛おしいの。……ずっとずっと、愛おしかったの。……だって」
だって。
「わたしはどんな時も、ひとりじゃなかったから」
どんな時も。どこにいても。自分が、誰であっても。
声の届く距離。視線が合わさる距離。手を繋げる距離。
―――いつだって、誰かがいてくれた。
「……ねえ、オーリ」
「なに?」
「わたしは、わたしを選んだ」
「うん」
「オーリと過ごして、オーリを失って……わたしになった」
「うん」
「―――ねえ、オーリ」
「なに?」
「……ずっとずっと、これからも。どんな時でも、どこにいても。わたしが、どんなわたしになっても。……愛してる。ずっとずっと、愛してるの」
「うん」
あたたかさが全身に広がって、
「うん」
頬をやわらかく撫でられて、
「うん。―――識ってる」
―――心がすべて、満たされた。
涙が零れて―――ふは、と微笑う。
「うん。―――識ってるのを、識ってる」
「上等」
「―――ねえ、オーリ」
「なに」
「これは夢?」
「夢だよ。―――それの何が問題?」
「そうだね。……そうだね」
微笑い合う。見えない顔と顔を合わせて、見えない灰色とその奥の青色の眼を覗き込んで―――心を、ぜんぶ込めて。
「ミユキ。―――愛してる。また会おう」
「オーリ。―――愛してる。また会おう」
踵を返して―――一歩、二歩。
繋いだ手だけがのび、そして、温度を残すようにそっと離れた。
指先が最後に、微かに触れ合う。
「またな」
「またね」
振り返らず、前も後ろも向かず、軽く眼を閉じて。
歩き出す。
さあ。
行こう。
また再会出来ると信じて過ごしている。
いつかまた会おう。また会おう。
あなたにたくさんの話をしよう。
夜のほとりのあとの話をしよう。
これからの話を、しようか。
あなたの不在に耐え切れなくなったわたしが―――どこに行き、どんなわたしになったかの話をしようか。
わたしもまだ見ぬ、これからのわたしの話をしようか。
嘘と詐欺のあとに、見付けたものの話をしようか。
痛みも傷も痕も想い出も、全部ぜんぶわたしのものだ。
―――その傷を、痛みを愛そう。
〈 嘘と詐欺のあとに 嘘と詐欺の先に 〉