表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/148


「全部、失くなったよ」

「そっか。気分は?」

「心細い」

「大丈夫。安心して怖がってていい」

「うん。……あのね」

「なに?」

「わたし、護られてた。護るつもりで吐いてた嘘に―――ずっとずっと、護られてた」

「……そっか」

「それが全部失くなった。だから……わたしは今、どんな顔をしていいのかわからない。なんにも持ってなくて……だから、心細い。……ここそろぼそ、かった」

「今は?」

「今も心細いよ。心細くて、不安で、怖くて、さみしくて、悲しくて、辛くて、痛くて―――」

 そして。

「―――愛おしい」

 そう。―――すべてが。

 この世界のすべてが。

 心細くて不安で怖くてさみしくて悲しくて辛くて痛くて、幸せで愛おしい。

「わたしが誰でも。……どんな時に、誰であっても。ずっとずっと、愛おしいの。……ずっとずっと、愛おしかったの。……だって」

 だって。


「わたしはどんな時も、ひとりじゃなかったから」


 どんな時も。どこにいても。自分が、誰であっても。

 声の届く距離。視線が合わさる距離。手を繋げる距離。

 ―――いつだって、誰かがいてくれた。

「……ねえ、オーリ」

「なに?」

「わたしは、わたしを選んだ」

「うん」

「オーリと過ごして、オーリを失って……わたしになった」

「うん」

「―――ねえ、オーリ」

「なに?」

「……ずっとずっと、これからも。どんな時でも、どこにいても。わたしが、どんなわたしになっても。……愛してる。ずっとずっと、愛してるの」

「うん」

 あたたかさが全身に広がって、

「うん」

 頬をやわらかく撫でられて、

「うん。―――識ってる」

 ―――心がすべて、満たされた。

 涙が零れて―――ふは、と微笑う。

「うん。―――識ってるのを、識ってる」

「上等」

「―――ねえ、オーリ」

「なに」

「これは夢?」

「夢だよ。―――それの何が問題?」

「そうだね。……そうだね」

 微笑い合う。見えない顔と顔を合わせて、見えない灰色とその奥の青色の眼を覗き込んで―――心を、ぜんぶ込めて。

「ミユキ。―――愛してる。また会おう」

「オーリ。―――愛してる。また会おう」

 踵を返して―――一歩、二歩。

 繋いだ手だけがのび、そして、温度を残すようにそっと離れた。

 指先が最後に、微かに触れ合う。

「またな」

「またね」

 振り返らず、前も後ろも向かず、軽く眼を閉じて。

 歩き出す。

 さあ。

 行こう。




また再会出来ると信じて過ごしている。

いつかまた会おう。また会おう。

あなたにたくさんの話をしよう。

夜のほとりのあとの話をしよう。




 これからの話を、しようか。

あなたの不在に耐え切れなくなったわたしが―――どこに行き、どんなわたしになったかの話をしようか。

わたしもまだ見ぬ、これからのわたしの話をしようか。


 嘘と詐欺のあとに、見付けたものの話をしようか。


痛みも傷も痕も想い出も、全部ぜんぶわたしのものだ。




―――その傷を、痛みを愛そう。




〈 嘘と詐欺のあとに 嘘と詐欺の先に 〉





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ