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セイリオスの逃亡 25
戻るか? ゆるやかに微笑ったまま、少女に問うた。―――その問いに、少女は首を横に振る。
「行くところが、あるから」
「―――そうか」
止めることなく、踵を返した。
「じゃあ」
「うん」
少女が進み。オリヴァーが進む。―――森の中と、外に向かって。
歩く。歩く。―――歩き続ける。
朝の森の中。誰かの忘れもののように、白い霧が微かに残る静寂を。
あの日見た、あの霧の白い朝のように。
静寂の中、空気に染み出すように聞こえ出した慟哭を―――心のすべてが叫ぶような泣き声の中を、ただひたすら、あの時の少女のように前だけ見据えて歩き続ける。
静寂の森。
ここは、静か。
だからこそ誰の耳にも届かない。……それは、逃亡の先に少女が漸く自身に赦した、ほんの僅かな休息だったのかもしれない。