表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/148

セイリオスの逃亡 22


 泣き腫らした顔のオリヴァーと、泣くのを堪え眼を真っ赤に染めた少女が開店前の〈ジミー・ディーズ〉に現れた時、ポーラは何も言わなかった。ただ黙って、出来上がったばかりのパンプキン・スープをこの店で一番大きなマグカップに注ぎ、出してくれた。

「―――オーリの幽霊は、出た?」

 少女の、今は震えてはいない言葉に―――うなずいた。

「ああ」

「そう」

 とん、と、少女が指先で手の甲を軽く叩く。

「マリアがこの街に来てしばらくして、オーリの幽霊が出るようになった」

「ああ」

「マリアと例の従兄弟は現在別れている」

「……そうなのか」

「オリヴァーたちが戦ってくれている間、わたしもいろいろ、調べたんだよ」

 世の中にはそういうのが得意なひねくれ者がいるのだと、少女は言った。

「マリアは愛されていないと生きていけない人間。愛情に縋り生きて来た人間。……けれどその愛情を周囲の誰にも肯定してもらえなかった人間」

「……ああ」

 従兄弟への思い。それは誰にも肯定されなかったのだと、マリアは言っていた。

「従兄弟はどちらでもよかった。別にマリアと付き合おうが付き合わまいが……でも結局、マリアはオーリを振って従兄弟と付き合った」

「ああ」

「マリアがそうなるように仕組んだんだ」

「……どうやって?」

「……これは推理じゃない。推理なんてものじゃない。……心だよ。感情だ。ちぐはぐで、ちっとも論理的なんかじゃなく―――効率的でもない、何でもない。……だからこそ手段を選ばなかった、だけだ」

 マリア・オルティスは。……淡々と、少女が言う。

「ねえ、オリヴァー」

「なんだ?」

「愛情は、どうしたら遺せると思う?」

「……」

「愛情は、どんな形で遺ると思う?」

「……」

「愛情は」

 少女が、微笑った。

「どんな形で、自分のものに出来ると思う?」

 行こうか。―――湯気の残るスープを飲み干し、少女は言った。

「終わらせよう。―――ぜんぶ、終わらせよう」

 それが泣き声のように聞こえたのはたぶん気のせいではないと、……それだけが確かだと、思った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ