チーズは反則だろう
「うーむ。本格的な梅雨入りの前に登山をと思ったが、やはり頂上近くになるとまだ肌寒いな!」
「雨衣はちゃんと持ってきているか? 濡れたら……おまえなら大丈夫か」
例によって暇を持て余し山に登りたくなったグライオスさんと、休日がかちあってしまいまたしても付き合うことになったマカミさん。
カガトくんがグライオスさんのペースに付き合わされたら途中でへばるからね。仕方ないね。
なお濡れてもグライオスさんなら大丈夫かと諦めていますが、暖かいから大丈夫だろうと油断して濡れた服を着替えなかったせいで、低体温症になったり遭難したりといった事故は割と起きているので、雨衣と着替えは防水処置を施した上でちゃんと持っていきましょう。
「ふー。登り切った後の飯がまた格別というものよ」
「それは確かに。やってみたかったことがあるのだが、家では怒られそうなのでこんなものを持ってきたのだが」
「なんだその双子のようなフライパンは?」
言いながらマカミさんがリュックから取り出したのはホットサンドメーカー。
本来はその名の通りホットサンドを作るためのものですが、小さめのフライパンとしても使えるのでキャンプなどでも割と有用です。
「ほう。ではサンドイッチを焼くのか? いやそれくらいではリィンベルたちも怒らぬと思うが」
「さらにここに鶏肉豚肉にウィンナーや厚切りベーコン。チーズなどがある」
「き、貴様まさか!?」
「ひたすら! 焼いて! 食う!」
そう宣言し、小型コンロを使いホットサンドメーカーで肉を挟んで焼いては食うという暴挙に出るマカミさん。
「何故わざわざホットサンドメーカーで肉を?」と思う人もいるでしょうが、ほぼ密閉状態で蒸し焼きに近い形になる上に両面を焼きやすいので、火が通りやすく手早くかつ簡単に美味しく肉を焼くことができるのです。
つまりこのホットサンドメーカーはホットサンドメーカーなのに、マカミさんの手に渡った時点で今後サンドイッチではなく肉ばかり焼くことになることが決定しました。
「最初はシンプルに塩コショウだ!」
「ぐぬう。確かにシンプルでありながら肉のうまみが凝縮され肉汁も溢れんばかりだ。酒を持って来ればよかったか」
「登山中に酒はダメだろう」
そう言いながらも、山頂で肉をひたすら焼くという飯テロを続行するマカミさんとおこぼれにあずかるグライオスさん。
今日も日本は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「ねーツクヨミー」
「買いませんよ」
例によって影響されやすいアマテラス様のお願いを、聞く前にぶった切るツクヨミ様。
流石長い付き合いだけあり聞かなくても何を言うか分かるようです。
「……何で!? パンの中にチーズ挟んで焼いてとろっとろになったのとかツクヨミも食べてみたいでしょ!?」
「食べてはみたいですが、別に普通のフライパンでもできますし、姉上二、三回やったら飽きるでしょう」
「今回は十回くらいは飽きない自信がある!」
「どんな後ろ向きな自信ですか」
それなりに飽きっぽいことは自覚しているらしいアマテラス様。
なおホットサンドメーカー自体は、直火式ならものにもよりますが大体三千円前後と割とお手頃な値段です。
「ほら安いし」
「安くても余計なものが台所に増えるとトヨウケヒメが困るでしょう」
「トヨちゃんなら順応して使いこなすと思うけど」
「それは……そうですが」
ホットサンドメーカーも使いこなす流石のトヨウケヒメ様。
しかし肝心のアマテラス様が飽きることは確定事項として話が進んでいます。
なおホットサンドメーカーは前述した肉以外にも、ワッフルやホットケーキなどのお菓子を焼くのにも適しています。
というか中に入って挟めるものなら大雑把に焼いても大体形になります。
つまり大雑把なアマテラス様向きな調理器具なのです。
「それを認めると何かを失う気がする」
「そんな矜持が残っていたんですか」
飽きっぽいことは自覚しても大雑把なのは否定したいらしいアマテラス様。
太陽だからね。仕方ないね。
今日も高天原は平和です。