某法王猊下もお気に入り
「ミィナ。相談があるのですけれど」
「何ですか? ヴィルヘルミナさんの頼みなら何でも応えますよ!」
フィッツガルドの帝都にて。
久しぶりの休日にお茶してたら深刻な顔で頼みごとを口にしたヴィルヘルミナさんに、イケメンは嫌いだけど実はヴィルヘルミナさんは大好きなミィナさんが、珍しく打算抜きで嬉しそうに返します。
「ペットボトルという容器に入ったクソ甘いミルクティーを定期的に輸入したいのですけれど」
「何があったんですか」
一部お言葉が乱れているヴィルヘルミナさんを真顔で心配するミィナさん。
きっと日々の公務で疲れてるんです。
「え、あれヴィルヘルミナさんみたいな本格的な紅茶党の人が許容できるものなんですか?」
「確かに甘すぎますわ。甘すぎるけれど。前に仕事で疲れ切っていたときにローマンに『疲れた時は甘いものだよ』と渡されて、飲んでみたら世界が開けたというか」
「ヤベェですね」
色んな意味でヤベェ状態のヴィルヘルミナさんにちょっとひくミィナさん。
ちなみに疲れた時に甘いもので回復するのは一時的なもので、体が急激に上昇した血糖を抑えようとして逆に疲れることもあるのでほどほどにしましょう。
「疲れてる時のドーピング用とかなら素直に渡せませんよう。休んでください」
「ふふ。陛下の顔面に蹴り入れたらクビになれるかしら」
「休んでください」
あ、これ外面保つのに慣れてるだけで実は本格的にヤベェ状態だと気付き、休むように何度も言うミィナさん。
皇帝陛下の顔面に蹴り入れたら普通物理的に首が飛びますが、割と本人が無茶させてる自覚があるので多分逆に謝罪されて終わります。
……大丈夫かこの国。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「甘すぎると思っても、たまにあのクソ甘いお茶飲みたくなる時ってあるよね」
「まあたまになら構いませんが……」
常飲していたら流石に止めるものの、たまにならいいかとのっけから諦めてるツクヨミ様。
アマテラス様甘党だからね。仕方ないね。
「でもああいうのってロイヤルミルクティーっていうし、本場でも飲まれてる物なんじゃないの?」
「ああ。ロイヤルミルクティーという名称は日本生まれで、英国やヨーロッパあたりに元々そんなものは存在しませんよ」
「なん……だと?」
何か本格派っぽい名称のロイヤルミルクティーが本場と全く関係なかったことに衝撃を受けるアマテラス様。
ロイヤルミルクティーは1960年代の日本発祥で、少量のお湯で抽出した紅茶に牛乳を入れるか、牛乳で紅茶を抽出するか、とにかく牛乳の量が多いのが特徴です。
といっても明確な定義というものがないので、メーカーがロイヤルミルクティーと言い張ればそれがロイヤルミルクティーとも言えます。
「え? じゃあイギリス人にロイヤルミルクティーの存在が知られたら、ナポリタンの存在を知ったイタリア人みたいにぶちギレるの?」
「まあイギリス人の一部は怒るかもしれませんが、外国人にも結構人気らしいですよ。甘いロイヤルミルクティー」
「マジで?」
日本の魔改造紅茶が海外に案外受け入れられていたことに驚くアマテラス様。
いやでもアメリカ人とかクソ甘いもの好きそうだし(偏見
「自国では売っていないから、自家製で再現しようとしたけれど上手くいかないと嘆いている人もいましたね」
「そりゃ仮にも専門メーカーが作ったものなんだから、そう簡単に再現はできないだろうけど」
ちなみに自家製ロイヤルミルクティーでイギリス人に「美味い……と言えないこともない」と言わせたという報告もあるので、作り方によっては幅広く受け入れられるかもしれません。
今日も高天原は平和です。