季節の変わり目がロケットダッシュ
「ふっ。懐かしいなこの空気」
「たき火で次々肉を焼いてかっくらうのが?」
新大陸の草原のど真ん中にて。
女子高生なアズサさんが保護されているマカミさんが所属していた人狼族を探すものの、当然そんなすぐに都合よく見つかるわけもなく野営中です。
既に日が暮れて暗い中で、日本から持ち込んだたき火台と網を使って次々と肉を焼くマカミさんと、呆れながらも少しずつ食べるカオルさん。
たき火をするときは周囲に燃え移らないよう細心の注意をはらいましょう。
「いや。流石に肉ばかり食べるわけにもいかないからな。街で買った野菜や穀類、乳製品なども食べるぞ」
「いやそりゃそうでしょうけど」
マカミさんの生態を知らないので、つっこまずに素直に受け入れちゃってるカオルさん。
でも実際遊牧民というのは家畜を飼育してるからと言って肉ばっかり食べているわけではなく、家畜から得られる乳製品なども食べています。
例えばモンゴル人などは日本人と同じ乳糖不耐性であるため、乳をそのまま飲まず、多様な乳製品を生み出す加工技術が発展したそうです。
「そういえばお侍さんたち肉食べちゃダメとかないんですか?」
「何故そのような苦行を?」
「今までも親子丼などを食べていたでござろう」
「うーん。そうだった」
どうやら日本に似てるけど肉食禁止とかはないらしい猫耳侍の皆さん。
仮に在っても魚は食べていいから大丈夫だな!
「いや。別にことさら魚が好きなわけではありませぬが」
「え? 猫耳なのに?」
「カオル殿は猫耳にどんなイメージを持ってるのでござるか」
日本に似てるのに日本人の価値観を粉砕してくる猫耳侍たち。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「そういえば日本って仏教広がっても魚は食べてたけど、精進料理って魚も使わないの?」
「使いませんよ。さらに言えばニンニクやネギ、ニラなども使いません」
寒くなってきたため出された鍋をつつきながら言うアマテラス様と、当然のようにアマテラス様の分の肉をよそうツクヨミ様。
アマテラス様ほっとくと火が通ってないの食べそうだからね。火の通ってない豚肉は危険だからね。
神様なら平気だろうって?
日本の神様わりところっと死ぬから……。
「え? 何でニンニクとネギが?」
「体が元気になるからです」
「何で??」
ツクヨミ様がオブラートに包んで説明したせいで分かってないアマテラス様。
欲望は捨てないといけないからね。仕方ないね。
そしてもしこの場に鍋につられてスサノオ様がいたら、ロリに対しセクハラ発言をかますおっさんというヤバい絵面が生まれるところでした。
「そもそも日本における肉食の禁止の範囲については、時代によって結構な振れ幅があるんですよ。貴族たちの間では敬遠されていても、庶民は普通に食べていたなんてこともあったそうですし」
「あー。そりゃ食べなきゃ死ぬこともあるだろうしね」
なお食べる動物についても足の本数が少ないほど良いとされ、獣よりは鳥、鳥よりは魚が良しとされていました。
そのため魚は普通に食べられることが多かったし、猫たちも必要な栄養を魚で補うため、日本では魚好きというイメージが定着したとされています。
足が多いのがダメならタコとかイカはどうなんだって?
うーん。例外!
そもそも頭足類のそれは腕であるとされますが、他の生物からすれば足だけど慣例的に腕と呼ぶとかで、結局どっちなんだかわがんね。
「ああ。猫って本来肉食だから、ねこまんまでは必要な栄養足りないって前にツクヨミが言ってたような」
「まあ人間が与えるなら魚というだけで、放し飼いなら自分で狩りをしていたでしょうけどね。そもそもがネズミ駆除を期待して連れて来られたわけですし」
連れて来たというか、実は犬と違って人間が飼いならしたわけではなく、ネズミなどの害獣目当てになんかいつの間にか住み着いただけとされている猫。
成り立ちからして犬とは違いフリーダムです。
「つまりぶちが私にいつまでたっても懐かないのは仕方がないことだった?」
「そうですね」
アマテラス様を肯定しながらも、寄って来たぶちを撫でてる裏切りのツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。