理不尽には理不尽をぶつけよう
「案外スムーズに王に会えましたね」
「いや、会えたけどさあ……」
ようやくたどり着いた新大陸にて。
あっさり王様に会えて拍子抜けしている様子のローマンさんと、当然のようにその場に連れていかれぐったりしているカオルさん。
周りではこの大陸で本格的に調査を行うために船から物資を下ろしているのですが、それを手伝う気力すらないようです。
「あれ本気で言ってるんですかね」
「本気でしょうね。本人は」
しかめっ面で言うカオルさんに真顔で返すローマンさん。
以下王様の発言の一部抜粋。
「異世界から花嫁を召喚したのだが行方不明なのだ。あんなに愛し合っていたというのにいなくなるなど、何者かにさらわれたに違いない。この国での自由な行動を許可する故、調査のついでに探してはくれないか」
「普通に拉致ですよね!? いやガルディアみたいに上手くやってる例はあるけれども!?」
その場で全力でつっこみたかったけど、実際につっこんだら国際問題になりそうだったので今全力でつっこんどくカオルさん。
ちなみにカオルさん自身は知りませんが、彼もどっかの彼氏欲しかった残念人魚に召喚された被害者なのである意味お仲間です。
「相手などよりどりみどりでしょうに未だに執着しているあたり、純愛と言えなくもありませんが、独りよがりで気持ち悪いですね」
「さらりと酷いことを!? い、いやでも本当にガルディアの両陛下みたいに愛し合ってた可能性は……」
「マカミさんの証言によると召喚されたのは女子高生で、強引に迫られたので殴って気絶させた隙に逃げたそうなのですがどう思います?」
「普通に犯罪です」
一応擁護してみたけど、完全にアウトだったこの国の王様の所業にひくカオルさん。
でもここは異世界な上に相手は王様なので、日本の法律をかたっても無力という理不尽。
あと引き合いに出されたガルディアのリチャード陛下ですが、召喚(拉致)はともかくそれ以降はちゃんと段階踏んで王妃様に手を出しています。
というか最初は妹が居なくなったショックで引きこもっていたので、むしろ王妃様が先に手を出しています(物理)。
「ええ……。どうすんですかコレ?」
「我々は必死に探しましたが見つけることはできませんでした。残念でしたね(棒)」
「あ、はい」
そういう方向で行くのだと理解し、とりあえず返事しとくカオルさん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「お、出番か」
「出番ではないので座っててください」
神罰下したほうがいい気配を感じて立ち上がるアマテラス様と、一々こんなことで下すんじゃねえと肩を掴んで着席させるツクヨミ様。
でも割と些細なことでも祟ってくるのが日本の神様だし……。
「そもそもことが起きた時に下さなかったのですから今更でしょう」
「えー。でも元を潰しとかないとまたやらないあの王様?」
「今は私たちが監視していてそう簡単に世界間での召喚はできませんからね。それに知らん顔するのは被害者を日本に戻して安全を確保するまでで、そこから改めてつついていくのでしょう」
「交渉で上手くいかなかったら、今の状態じゃ経済制裁も武力行使もできないんだから無理じゃない?」
「そこはあのオネエさんにでも頼めば、単身でも召喚に必要な資料を全て破棄し、知識のある人間全員をおさえられるのでは」
「やだ力技」
最終兵器オネエ。
でも実際オネエが話を聞いたら義憤に燃えて実行してくれそうです。
「まあ我々も何かするとしたら、被害者が日本に帰ったとあの王が知った後に、どう動くかを見てからではないでしょうか」
「絶対いらんことすると思う」
恐らく読者の八割以上が同意するであろうアマテラス様の予想。
今日も高天原は平和です。