蒸し蒸しするのに大雨で窓が開けられないし開けても大差ない
「……ひょっとして我々にはお盆は関係ないのではないか?」
「今更気付いたのか」
安達家にて。
例によって暇を持て余し魔改造精霊馬を作っていたグライオスさんがハッとしたように言い、それを聞いたリィンベルさんがいちごかき氷を食べながら呆れたように返します。
やっぱりかき氷は下手に本格派なのよりあの嘘くせえ味と匂いが最高ですよね。
「まあ先祖供養なぞ半分以上は生者への気休めなのだから、好きにやればいいじゃろう」
「魔術師のくせになんだその夢のない言い方は。気合を入れればわしらの先祖も世界の壁を越えてやってくるかもしれんだろう!」
「いやまあ確かに魂は肉体よりその手の境界線を越えやすいとはされておるが」
おまえが気合を入れても先祖の動向には何の関係もないだろうとは、もう言うだけ無駄なので言わないリィンベルさん。
むしろ気合で世界を越えて日本に呼びつけられたら、グライオスさんのご先祖様もたまったものではありません。
「大体呼びつけた後にどうやって帰らせるつもりじゃ」
「……いっそ日本の黄泉とやらに入れてもらえばいいのではないか」
「いきなり余所の死者に来られても困るじゃろう」
そういうリィンベルさんですが、この物語の発端を考えたら案外歓迎されるであろう異世界人の黄泉入り。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「長崎あたりでお盆に花火やら爆竹やら鳴らすのって何なの? 先祖含めて陽キャしかいないの?」
「陽キャは関係ありません」
エアコンが導入されたことにより快適になった部屋でゴロゴロ転がってたと思ってたら、唐突に何か言い出したアマテラス様と冷静に返すツクヨミ様。
どうやら毎年バージョンアップするはずだった精霊馬Mkシリーズは無事飽きられて忘れ去られたようです。
よかった。主神直々に人型に創造されたのに即座にカレーの具材にされる犠牲者は存在しなかったんだね。
「元は中国で正月などに爆竹を鳴らしていたものが十七世紀ごろに伝わったものだそうですよ」
「え? お盆関係ないの」
「ないと言えばないですが。中国では爆竹は魔除けの意味があるんですよ」
「えー爆竹に?」
「といっても元は名前の通り竹を焼いたときに爆ぜる音で妖の類が驚いて逃げるというものだったのですが。火薬が発明された後は竹筒に火薬をつめて爆発させたり、竹ではなく紙筒を使うようになり今に至ります」
「ああ。だから爆竹って書くんだ」
ちなみに祝い事で花火や爆竹を鳴らすというのはインドのヒンドゥー教にも見られるのですが、あまりに一斉にやらかすので大気汚染の原因の一つとされ規制がしかれるレベルだそうです。
どんだけぶっぱなしてるんだ。
「まあ普通にうるさくて迷惑だと思っている人も居るので、やる場所や音には注意した方がいいでしょうね」
「だよね」
宗教行事の一種なので許されることは多いですが、だからこそ他人に迷惑をかけないよう心がけましょう。
爆竹の怨霊(誤字)考えたら限りなく不可能な気もしますが。
「じゃあ黄泉に爆竹投げ入れるのもダメなんだね」
「むしろ何でいいと思ったんですか」
イザナミ様が恐いのに軽率に怒られそうなことをするアマテラス様。
今日も高天原は平和です。