無駄に高いのに買ってしまう屋台のドリンクやかき氷
「夏なんだから花火しようぜ」
「花火は冬だろう」
「は?」
ガルディア王国にて。
最近何でもありになってきたミィナさんから仕入れた家庭向け花火を片手に言う王妃様でしたが、王様の反応が予想外で久しぶりに異世界文化ギャップを味わっています。
とはいえ地球でも花火と言えば夏というのは日本独特の感覚で、ヨーロッパあたりでは花火は年越しにあげるものであり夏にはあまり花火イベントはありません。
フランスでは革命記念日の祭りに合わせてあげるそうですが。
「大体暑いのに何故火遊びをせねばならんのだ」
「……確かに」
王様の言葉に納得してしまう王妃様。
もっと頑張れよ日本人!?
「いやいやいや。花火って言うほど暑くないだろ。特に打ち上げ花火とか遥か彼方で炸裂してんだし」
「見てるだけで暑い」
「ええ……」
事実ではなく感覚の話になり一切の反論が無駄になるやつ。
これは説得しても無駄かと諦めかけた王妃様でしたが、ふといいことを思いついたとばかりにニヤリと笑い、わざとらしく王様に背をむけます。
「もういい。分かった。じゃあシーナを誘って二人でやる。あいつ結構日本の文化に染まってるから喜んで付き合ってくれるだろうし」
「仕方ないな。私も同行しよう」
「ふんぬ!」
「何故だ!?」
狙い通りなものの、自分ではなく妹のためなら動く王様が気に入らずアッパーカットを繰り出す王妃様と吹っ飛ぶ王様。
見た目派手ですが、王様の面の皮は厚くノーダメージなのでご安心ください。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「日本はもっとジャンジャン花火打ち上げるべきでは?」
「やりすぎて人が集まりすぎても本末転倒ですからね」
一部地域で花火大会が中止になったことがご不満らしいアマテラス様と、割り切ってるツクヨミ様。
いくら大多数の人がお行儀良くしてても一部の人が暴走するからね。
仕方ないね。
「それでも無観客でとかできないのかなあ」
「競技場みたいに限定された場所に集まるわけではないのですから難しいでしょう。それを見越して日時を公開せずにゲリラ的に花火をあげる催しもあったそうですが」
疫病退散の花火大会と言えば隅田川花火大会であり、江戸時代の大飢饉と疫病による死者の慰霊のために始まったというのを知っている人も多いと思います。
しかし昭和以前にはそのような事実は確認できず、この伝承自体が昭和初期以降に作られたものだとする説も最近は出ていたりします。
「百年近くみんな信じてたんだから事実はともかくそれはそれでよくない?」
「姉上がそれ言っちゃいますか」
信仰される側の神様が何か言ってる。
信仰される側だからこそ言えるのかもしれませんが。
ちなみに一部の地域では、お盆の送り火の代わりに花火を打ち上げるところもあるそうです。
花火をバックに帰っていくご先祖様。
やだ……かっこいい。
「そんな。つまりツクヨミはお母さんを花火につめて黄泉に向けて発射しろと?」
「何故私が発案したみたいな言い方になっているんですか」
イザナミ様に怒られるのに懲りたのか、微妙に責任回避を覚えたらしいアマテラス様。
イザナミ様花火で発射されても空中でUターンして戻ってきそう。
今日も高天原は平和です。