真夏の夜の夢の正確な訳は夏至
「そういえば日本にはミッドサマーデイにあたるものはありませんでしたね」
「そうなのか?」
「んん?」
ケロス共和国のとある農村にて。
夏至のお祭りの準備のために花を飾っていたイネルティアさんの言葉に聞き返すサロスくんと、トマトを両手に持ってかじりながら首を傾げるスクナヒコナ様。
いつも何か野菜食ってんなこの神様。
ミッドサマーデイというのは夏至あるいは夏至祭のことで、特に北欧で盛んであり恋愛や結婚絡みの縁起担ぎも多いそうです。
一部では花輪を女性が川に流し、それを男性がキャッチできればその人と結婚できる、あるいは良い出会いがあるという行事もあるとか。
さらに一部では川に花輪を流し上手く流れたら結婚できるが、途中で止まったら死を意味するというところもあります。
何その理不尽な結果。
「ああ。夏至祭のことか。確かに全国的な祭りはないな」
「何故でしょう? 日本は季節の移り変わりというものを大切にしていると思うのですが」
「さあ。理由は色々あるんだろうが、梅雨の時期だからどのみち日照時間が短いとか、単に農業が忙しい時期で祝ってる暇がないからだとも言われてるな。一応地域によっちゃ夏至にやる祭りや風習もあるし」
例えば夫婦岩で有名な三重の二見興玉神社では、夏至の日の出と共に夫婦岩の前で禊をする行事があったりします。
太陽神信仰の強い土地ならではの行事ですが、例によって感染症対策のために今年は本殿祭のみ行われ、禊行事は中止されるそうです。
おのれ。
「ああ。そういえば田植えの時期ですね。皆手際がよくなってきましたし、今年は早く終わりそうですが」
「それもあって田植えが終わってから祭りをするとこもあるらしいな」
「祭りばっかじゃねえかおまえの国」
そんなことない……こともない。多分。
「あと北の方の国だと白夜になるんで一晩中起きてて祭りやるらしいな」
「白夜?」
「夜が来ないで一日中太陽が出ていることですよ」
「変な世界だな」
「いやこの世界にも多分あるぞ」
「何で??」
白夜の仕組みなんざ知らないので、自分の世界にもあると言われクエスチョンマークが乱舞するサロスくん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「つまり夏至なのに私の印象が薄いのはミズハッチのせいだった?」
「そうねー」
何かショックを受けてるアマテラス様と、一々否定するのも飽きたのか夏至なのに雪〇だいふく食べてるミズハノメ様。
最近では通年販売しているだけでなく夏向けの清涼抹茶味なども売り出されています。
「まあ実際忙しいというのもあると思いますよ。田植えは夏至から半夏生までに終わらせるものとされていますし」
半夏生というのは夏至から数えて十一日目からの五日間のことで、大体七月二日から七夕あたりを指します。
祭りや行事の類も夏至よりも半夏生の方が多く、関西ではタコ食ったり香川ではうどん食ったり福井県では鯖食ったりします。
統一性がないな!
「つまりうどんにタコと鯖を入れればコンプリート?」
「何でそこで全部やろうとするのよ」
アマテラス様の言葉につっこむミズハノメ様ですが、天ぷらにすればうどんに入れても大体イケるような気がします。
セルフサービスのかけうどんは安いのでオプションの天ぷらの方が高くなることもあるぞ!
「うどんの話してたらうどん食べたくなってきた」
「今日の夕食は姉上が久しぶりに食べたいと言い出したラタトゥイユです」
「らた……何?」
アマテラス様の希望をぶったぎるツクヨミ様と、聞いたことがない料理名に戸惑うミズハノメ様。
でも名前が分からないだけで多分食べたことはあるやつです。
「夏野菜贅沢煮込み」
「ツクヨミ」
「大体合ってます」
アマテラス様の大雑把な説明に追加説明を求めるミズハノメ様と、実際大体合ってるのでそう言うしかないツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。