朝からからんころんうるさいと思ったら雹が降ってた
「グラウゼー。ちょっと船の上のアンカーの様子見て来てくれん?」
「それは私に死ねと言っているのか」
魔王様の御座す魔王城にて。
何かいきなり呼び出されたと思ったら死刑宣告をされたにもかかわらず、冷静に返すグラウゼさん。
新魔王様がつっこみもできる基本ボケ体質なのを理解しているので、どうせ言葉足らずか何かだろうと詳細を促します。
「いや何か船に乗せたアンカー? に向けて転移魔術使ったら、船じゃなくて離れた海にダイブしたらしいんやけど」
「その程度の事、あの小僧がいなくても他の魔術師に解析させればいいだろう」
「宮廷魔術師とか教授とかに他の研究が忙しいてことごとく断られたらしい」
「国に仕えている自覚はあるのかそいつらは」
吸血鬼から勤務態度を疑問視される魔術師たち。
そんな連中ばかりなので、ほいほいお願い聞いてくれるカガトくんの価値が本人知らんところでうなぎ登りになるのです。
「大方目的座標を最初の一度しか捕捉していないのだろう。アレは元々複雑な術式を、それなりに素養があれば専門の魔術師以外でも使えるように機能を削ぎ落したものだからな。転移中に目標を探知し続ける無駄な魔力を省いたのだろう」
「そんなん些細な量やないん」
「些細なのは確かだが、本来ならば不要な機能なのも間違いない。アンカーという物体を目印にしている以上、その目印が動くことなど想定していなかったのだろう」
つまり日本に帰って連絡取りづらいからと横着せず事前にカガトくんに相談しておけば、海に叩き込まれる憐れな犠牲者は居ませんでした。
カガトくんからすれば休暇中に仕事の電話がかかってくるようなものなので、横着されてラッキーでしたが。
「つまりそのアンカーを捕捉し続けるようにすれば問題ないわけやね」
「それはそうだが。肝心の術式を弄れるようなレベルの魔術師共が仕事をしないのだろう。私が出向いて指南するとしよう」
「……ええの?」
「フィッツガルドとはそれほど因縁もないのでな。世話になった時期も殊更不便はなかったのだし大丈夫だろう」
どうやらカガトくんに転移魔術を教わる間に滞在したフィッツガルドの居心地が結構よかったらしいグラウゼさん。
なお実際に対面で相手していたカガトくんのストレス。
「間違えて転移魔術発動させて海に飛んでいかんようにね」
「私がそんなへまをするわけがないだろう」
勢いで突撃してうっかり日本から帰れなくなった吸血鬼が何か言ってる。
今日も魔界は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「夏も近付く八十八夜~♪」
「野と山に茂った若葉に雹が直撃していますね」
四月に急に暖かくなったと思ったら、今度は寒くなり挙句に雹。
でも一年を通して雹が降りやすいのは五月六月だったりします。
あとアマテラス様が歌っているのは著作権消滅曲なのでご安心ください。
なお著作権的にはグレーだけど念のため書籍では変えられた作者のペンネーム。
何でなろう作家さんたち書籍化したら変な名前やめてしまうん?
「でも八十八夜って何が八十八夜なの?」
「立春から数えて八十八夜ですよ。『八十八夜の忘れ霜』などという言葉があるように、この時期に急激に気温が下がり霜が降りることもあるので、農作物に被害が出るのを警戒する時期でもあります」
「へー。天候に左右されるから農作業って大変だね」
「あと先ほどの歌詞の通り今日から夏が近付き始めます」
「近付くな帰れ」
「農作物のためにも我慢してください」
そもそも他人事のように言ってるけど、アマテラス様(太陽)も絡む事象だろとは思ってもつっこまないツクヨミ様。
毎年の事なのでつっこむだけ無駄だと諦めたともいう。
「今ぐらいの気温なら過ごしやすいのにー。常夏じゃなくて常春とか常秋な気候の場所ってないの」
「季節に合わせて移動でもしないと無理ですね」
「……渡り神?」
「渡らないでください」
暑いのが嫌なあまり渡り鳥よろしく移動しようかと悩み始めるアマテラス様と止めるツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。