高くなっていく気温に既に挫けそう
「外で花見ができないなら家に花を持って来ればいい」
「まさか桜の枝折ってきてないですよね」
安達家にて。
去年に続いて花見ができないことを嘆いているのかと思えば、なんか言ってるグライオスさんと呆れた様子のエルテさん。
口ではそう言っていますが、流石のグライオスさんもというかグライオスさんだからこそ、そういうマナー違反はしないと思っての確認です。
「世の中には桜の盆栽というのもあってだな。いや去年の内に買っておいたのだが、枯れないかとひやひやしたぞ」
「あーグライオスさんそういうの向いてなさそうですもんね」
どうやらお披露目を楽しみにしていたらしく、うきうきした様子で庭の一角から花の付き始めた盆栽を持ってくるグライオスさん。
桜は大きくなりやすい植物ですが、上手く盆栽にすればそのままの大きさを維持して育てることができます。
ちなみに京都では西暦八百十二年からの桜の開花時期についての記録が残っており、気候変動の研究の参考になるのではと注目が集まっていたりします。
諏訪湖で凍った湖面が山脈のように盛り上がる御神渡りの記録が五百年以上前から残っていたりと、日本人は記録好きです。
「買っておいたということは自分で作ったわけではないんですか?」
「色々と初めてで手探りであったからな。いや売ってくれたところが育て方の指南書までつけてくれて助かった」
どうやら普段は豪快なのに何かを世話する時には慎重になるらしいグライオスさん。
完全に未知の世界だったため当然かもしれませんが。
「ああ。葉が茶色くなっただけで『これ枯れとらんか』と確認に来たり『虫がいるが殺虫剤かけて大丈夫か』と大の男がおろおろと何度も確認に来おったのう」
「もうそれリィンベルさんに任せた方が早かったんじゃ」
「わしがやりたかったのだ!」
リィンベルさんの暴露に呆れたように言うエルテさんと、だってやりたかったんだもんとごねるグライオスさん。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「桜の盆栽……」
「最後までちゃんと面倒を見なさい」
「まだ何も言ってないのに!?」
アマテラス様が呟いただけで途中で飽きるのを前提にした意見を述べるツクヨミ様。
でも枯れなかったとしてもいつの間にか世話をツクヨミ様が代わっている光景がありありと浮かびます。
「でも桜って盆栽にするの難しくないの?」
「難しいですよ。『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』という言葉があるくらい桜は切り口から腐りやすいものですから。桜の枝を折ることが強く非難されるのはその辺りも理由になっているのでしょう」
それでも全く剪定しないわけにはいかないので、活動期で病気が広まりやすいわけでなければ、休眠期で弱ってもいない時期に葉が落ち切ったのを目処に行われるそうです。
と書いといてなんですが、所によって言ってること違うし専門でもないからよくわがんね。
この作品みたいに「こまけぇこたぁいいんだよ!」とノリで済ませられないので、育てたい人はきちんと調べましょう。
「盆栽に仕立てること自体が難しいので、初心者はプロに代行してもらった方が無難でしょうね」
「なんかもう聞いてるだけで初心者が手を出したらアカン感じがするんだけど」
「育てるだけなら基本を押さえておけば大丈夫ですよ。まあその基本の知識が抜けてたり間違ってたりするから初心者は盆栽を枯らすわけですが」
「めんどい」
育ててみる前から話を聞いてるだけで面倒くさくなったアマテラス様。
そもそも生き物の世話をするのが面倒くさいのは当然なので、覚悟してから責任をもって買いましょう。
「サクヤちゃん拝んどいたら元気に育ったりしないかな」
「確かにコノハナサクヤヒメは桜と縁のある神ですが」
コノハナサクヤヒメ様は花のような美しさと儚さを象徴し、桜の種を日本に蒔いたのはコノハナサクヤヒメ様で、桜という名前もコノハナサクヤヒメ様から取られたという説もあります。
しかしはたして桜盆栽育てるところまで面倒を見てくれるのか。
山神としての側面もあるし安産や子育ても司るのでワンチャン?
「むしろちゃんと桜の面倒を見なかったら怒るのでは」
「あ、ありそう」
不貞を疑われた際「貴方の子でなかったら無事に生まれるはずがない」と産屋に火を放ち、炎の中で出産したエピソードのある意外に剛毅なコノハナサクヤヒメ様。
儚さとは一体。
今日も高天原は平和です。