食の外交官
「ほう。これがパフェですか。新鮮な果物の数々にふんだんに使われたクリーム。豪華なデザートですねえ」
「おぬしそんなもんよく食いきれるなあ」
都内のとあるレストランにて。
相変わらず興味あるもん食いまくってるデンケンさんと、付き合わされてるグライオスさん。
今回はグライオスさんがついていますが、それ以外でも手近な日本人に話を聞きまくり美味い店巡りをしていたりします。
「確かに量は多いですがそれほどしつこくもなく。むっ? この層はいちごアイス? 飽きさせませんねえ」
「気に入ったのは結構だがな。おぬし役目が終わったとはいえもう少し外交を意識して動くと思っていたのだが」
「いやいや。これも外交の一部ですよ」
「はあ?」
顔の前で匙を掲げながら得意気に言うデンケンさんに、何言ってんだこいつとばかりに帰すグライオスさん。
ちなみに先ほどからデンケンさんもパフェ食べながらもブラックコーヒーを飲んでるので、いい歳したおっさんがパフェだけ食べ続けるのは地味にキツイようです。
「陛下はその辺り丸投げしてたから意識してなかったでしょうけどね。食は外交の席に置いて交渉を有利に進める要素の一つなんですよ。美味な食事は相手の心すら開くんです」
デンケンさんの言う通り、食による外交というのは古くから行われており、フランスなどは美食外交を得意としているとすら言われています。
そのフランスで名外交官とされたタレーランは、ナポレオンに対し手紙で「外交官ではなく腕のいい料理人を送ってほしい。そうすれば良い条件を取り付けてみせる」とすら述べたそうです。
また現代日本にも外務大臣によって認められた公邸料理人という役職があり、大使館や領事館などで世界の要人相手に料理を振る舞ったりしています。
「しかしそれならおぬしが味見して回るより、あちらから料理人を修行に寄越したほうが早いだろう」
「そりゃあご子息がその辺りの重要性にまだ気付いてないみたいですからね。思い立ったときに少し手伝えるようにしておこうかなという程度の冷や水ですよ」
「それ息子が気付かなかったらおぬしの趣味で終わらぬか?」
「日本の料理の美味しさは知ってるのであと一歩だと思うんですよねえ」
でもそのあと一歩は手伝わねえ自分は隠居してるからあんま干渉する気がないデンケンさん。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「冷静に見るとパフェって量多いよね」
「値段も軽く一食分はしますからね」
トヨウケヒメ様お手製のパフェをほぼ完食しながら何か言ってるアマテラス様と、そこにはつっこまないツクヨミ様。
ちなみにカロリーもあまり運動しない女性の一食の必要カロリーとほぼ同じかちょっと少ない程度だぜ!
「なんでそんなカロリーの塊を生み出しちゃったの。フランスあたり?」
「確かにパフェはフランス語で完璧を意味するパルフェという名前の菓子からきていますが、日本のパフェとフランスのパルフェはほぼ別物ですよ」
「知ってた!」
いい加減日本で魔改造される料理に慣れてきたアマテラス様。
一見本場風な中華料理すら一部は日本人向けの味に調整されてるからね。仕方ないね。
「フランスのパルフェは卵黄やクリームを混ぜ合わせてアイス状にした菓子でそれにソースや果物を添えるので、果物よりアイスが主役といった感じでしょうか。明確な定義があるわけではないので日本のパフェと完全に分けるのは難しいでしょうが」
「ああ。要は日本みたいにもりもりじゃないんだ」
なお日本でも各地にご当地パフェとも言える様々なパフェがありますが、松山では地元民もほとんど知らなかったとんかつパフェなるものがテレビやネット経由で評判になり、現在では名物として定着しちゃったりしています。
「……名前だけ聞くと色物だけど名物になるなら美味しいの?」
「美味しいかどうかは分かりませんが、海外からもとんかつパフェ目当てで来店する客がいるそうですよ」
「どうしてそうなった」
なおとんかつパフェを提供している店では、他にもアブノーマルかつと呼ばれる枠であんチーズかつやらチョコバナナかつといったメニューがあるので、興味がある人は食べてみよう。
今日も高天原は平和です。