材料は猿とか鮭
「歴史に名を残してみませんか?」
「お帰りください」
大陸南部のアルジェント公国のとある都市にて。
いきなり訪ねて来たと思ったら笑顔で詐欺師みたいなこと言い出したローマンさんに、丁寧にドアを開けて帰り道を指し示すカオルさん。
初対面なのですが流石大公さんで鍛えられただけあり、無理難題を言い出す人への対処が容赦ありません。
「新大陸の存在が明らかになりこちらからも人を送ろうと我が国とホムラ国の合同で計画を立ち上げたのですが」
「聞いて?」
「何せ初めての試みの上に何が起きるのか予想もできない航海です。そこで海神の加護があると名高い貴方の力を借りたいと思いまして」
「それ初耳なんだけど!?」
いつの間にか海神の加護があることにされちゃってたカオルさん。
でも実際最初はスサノオ様からいらん加護もらってましたし、ポセイドン様に認められて馬もらってるので案外間違っていません。
「あとこの街に居る人魚さんたちの力も借りられたらなあと。ぶっちゃけ加護とかよりもそっち目当てです」
「それならそうと最初から言ってくださいよ」
確かに海での活動で人魚の支援を受けられるのは心強いですし、この街にはとってきた魚介類を調理するだけで喜んで協力するであろうチョロい人魚が集まっています。
逆に言えばそんなチョロい人魚さんたちを送り出すとか問題が起きる未来しか見えません。
「なので監督役として貴方に」
「なるほど」
まだ行くとも行かせるとも言ってないのに思わず納得してしまったカオルさん。
残念人魚筆頭なディレットさんの保護者やってるのは伊達ではありません。
「あとは万が一に備え海中でも戦闘能力がある人間というのは貴重というか、むしろ海中で戦えるとか人間ですか?」
「最近自信がなくなってきた」
海中での戦いは置いておいても、最近オネエと団長に扱かれて順調に人間卒業を目前にしているカオルさん。
でもドラゴン単騎で狩れてる時点でとっくに卒業しているような気もします。
「長旅になりますからそのドラゴン討伐にも行かなくて済みますよ」
「謹んで承ります」
オネエによってドラゴンにけしかけられるのが余程嫌だったのか、先ほどまでの態度を一変させ即座に了承するカオルさん。
しかし海には海で魔物が居るので、ドラゴン狩るのと大差ない労力を強いられることに気付くのは後の話。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「そういえば日本の人魚のミイラって何であんなに小さいの?」
「日本の人魚は西洋のそれとは別物ですからね」
以前も書きましたが、日本での人魚というのは所謂人面魚に近いものであり、現在のような形で認識され始めたのは江戸時代頃だとされています。
同時に人魚のミイラが大量に発生し始めたのもその頃だったりします。
「そんな発生って湧いて出たみたいな」
「実際湧いて出たようなものでしょう。人魚のミイラはほとんどが偽物だと分かっていますし」
「やだ気軽に夢を壊してきたこの弟」
世間話のようにロマンを粉砕する弟に慄くアマテラス様。
CTスキャンまで撮って偽物判定してるものまであるからね。仕方ないね。
「江戸時代頃に人魚のミイラが大量に出回りましたからね。海外にも輸出されていて現在でもイギリス、オランダ等々各国の博物館に展示されているものもあります」
「世界規模!?」
日本産の人魚のミイラが世界中に広まっていたことに衝撃を受けるアマテラス様。
実際あまりにホイホイ海外でも見つかるので、当時の日本の特産品扱いだったのではという説もあったりします。
「えーそれ買った人たちは人魚のミイラだって信じてたのかなあ」
「どうでしょう。黒船で有名なペリー提督の航海日誌には日本で人魚のミイラが作られていたことが記されていますが、アメリカにある人魚のミイラが購入されたのはそれよりも前なので、まんまと騙された可能性もありますね」
「アメリカにまであるんかい」
ユーラシア大陸内どころかアメリカ大陸にまで進出していた日本産人魚のミイラ。
ちなみにアメリカにある人魚のミイラは六千ドルで購入されたそうです。
ドルをそれぞれの時代の価値に換算するサイトでお尋ねしたところ、現在だと大体十二万ドルくらいになるとか。
これは間違いなく騙されてますわ。
「まあ偽物だと分かっても歴史的資料として現在でも価値は認められているので、買った当人も喜んでいることでしょう」
「いや偽物だと分かってて喜べる金額じゃないでしょ」
ちなみにアメリカの有名アーティストの手によりオーダーメイドで人魚のミイラフィギュアが作られていたりしますが、大体四万円くらいで取引されています。
安いな!(感覚麻痺
今日も高天原は平和です。