3日じゃないのは37年ぶり
「……大豆が食べたいわね」
「は?」
ガルディア王国のお城にて。
通常任務の一つである見回りを行っていたら唐突に何か言い出したオネエに、一緒に居たグレイスが意味が分からず怪訝な顔をしています。
「ダイズとは日本の料理か何かか?」
「いえ豆よ」
「物凄く美味しい豆なのか?」
「美味しいけど物凄くというほどではないわね」
「……寒くなってきたし見回りが終わったらホットチョコレートでも貰ってくるか」
「あらやだ。この子スルーし始めたわ」
もう面倒くさくなったのか「じゃあ何で食いたいんだ」とは聞かずに見回りが終わった後のことを考え始めるグレイス。
割と頻繁にオネエに振り回されているのでスルースキルが身に付くのは仕方ありません。
「大豆が欲しいと聞いて!」
「どこから入ってきた!?」
しかしグレイスがスルーしたのにどこからともなく現れて食いついてくるミィナさん。
流石にこれは職務的にも看過できずグレイスも全力でつっこんでいます。
「え? 私結構頻繁に商談でお邪魔するんで王子様からフリーパス貰ってますよ?」
「いつのまに!?」
ミィナさんが差し出してきた紙を確認したら、間違いなくハインツ王子の字で「この者の入城を許可する」と簡潔に書かれていてそんな話は聞いていないと驚くグレイス。
警備担当に話が伝わってないとか、許可出した王子様本人が後ですっごい怒られるやつです。
「それで大豆でしたね」
「あら。もしかして日本から輸入できるの?」
「いえ。私も知らない内にエルフの人たちがこっちで大豆栽培始めてたんですよね。自分たちで食べるらしくてあんまり量は確保できなかったんですけど、国生さんに融通するくらいなら」
「なんなら相場の倍以上でも出すわよ」
「毎度あり☆ 超特急で持ってきますね」
「……」
商談成立と早速ダッシュで去っていくミィナさん。
たとえ小さな取引でも金払いのいいお客さんは確保しておくに越したことはないので迅速対応です。
「ユキ。私は殿下に話を聞きに行ってくる」
「お手柔らかにねー」
そしてこっちはこっちで勝手にフリーパスとか作っちゃってた王子様を問い質すために歩き出すグレイス。
表情には出てないけどかなりお怒りだと感じて止めないオネエですが、多分王子様からすればご褒美なので問題ありません。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「あれ? 節分って2月3日か4日じゃなかったっけ?」
「3日限定なのは去年までですよ」
月が替わるのでカレンダーをべりっとはがしたものの、節分の位置が思っていたのと違い首を傾げるアマテラス様。
ツクヨミ様はそれに答えながら剥がされたカレンダーを丁寧に丸めてしまいこんでいます。
ちなみに4日が節分というのはアマテラス様のボケではなく、1985年以前には4日が節分の年もありました。
つまり大多数のナウなヤングの読者には関係ありません。
「節分というのは立春の前日ですが、立春というのは黄経315度を基準としているので徐々にズレが生じます。ズレ自体は閏年などで調整されるため年を4で割った数の余りの数字を基準にして割り出すこともできますが、その中でも200年に一度の4で割り切れても……」
「ツクヨミそんな説明私が理解できると思う?」
「そんな難しくないんだから聞き終わる前に諦めないでください」
説明の中に数字が出て来た時点で理解を諦めたアマテラス様。
一部の人にとって数字は子守歌なので仕方ありません。
「要は公転周期によって立春がズレるので節分もズレます。節分が2月2日になるのは124年ぶりですね」
「へー久しぶりなんだね」
約百年前を久しぶりとか言っちゃう神様ムーブ。
ちなみに計算上は2100年までは2日か3日が節分で、2101年からは3日か4日が節分になります。
でもこれ読んでる読者はほぼ全滅してるだろうからやはり関係ありません。
「うっかり大豆とか恵方巻の特価タイミング逃す店とか出ないのかな」
「姉上だってカレンダー見れば気付いたのですから気付くでしょう」
アマテラス様を基準に持ってくるという高いんだか低いんだか分からないハードル。
今日も高天原は平和です。
今日も高天原は平和です。