揚げても美味しい
「勝った!」
「何がですか」
帰ってくるなりテイクアウトしてきたらしい牛丼かつ丼を両手に掲げながら何か言ってるマカミさんとつっこむカガトくん。
安達家に慣れてきてツッコミ役が板についています。
「売り切れ直前のをぎりぎり買えたとかですか?」
「その買ったではない。俺は勝利してきた」
「はあ。何に?」
「急にアダチに呼び出され何事かと思ったら、新大陸が見つかったので調査隊に俺も加えたいとフィッツガルドの皇帝から要請されたらしい。だが断固拒否してきた」
「マジで!?」
皇帝陛下の要請を迷うことなく蹴ってきたというマカミさんに割と本気で驚くカガトくん。
確かにもし頼まれたのがカガトくんだったらストレスが限界に達してぶちギレ無い限り、グダグダ言ってる間に押し込まれています。
「よく通りましたね」
「そもそも俺が行くにしても転移魔術を発動できるようになってからでいいだろう」
「ああ。それは確かに」
カガトくんが悩みまくった末に完成させた転移魔術は、目印となるアンカーを置いておけばどこでも発動できるようになっています。
つまり最初からマカミさんが調査隊に付いて行かなくても、その調査隊にアンカー持たせとけば後からすぐに追いつけるのです。
「あれ? じゃあ別に自分が居た大陸かもしれないのに、帰りたくないとかいうわけではないんですよね」
「ああ。皆がどうしているか気にはなる」
「じゃあ別に最初から付いて行っても良かったんじゃ」
「食料が限られ満足に肉も食えない航海を数ヶ月も続けるなど嫌だ」
「嫌だて」
牛丼かつ丼かっこみながら言うマカミさんに、やっぱこの家の人全員強いなと改めて感心するやら呆れるやらなカガトくん。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「そういえば何で神へのお供えと言えばお酒やお餅なの?」
「本当に今更な疑問ですね」
主神自ら鏡開く気満々で木槌を構えるアマテラス様と、叩かれた餅の破片が飛び散っても大丈夫なよう紙をひくツクヨミ様。
鏡開きは地域によって違いがありますが、大体は十一日か二十日あたりに行います。
一部地域ではなんと四日という三が日明けに早々に鏡開くところも。
「そもそも米自体が神の宿る特別な食べ物とされていましたからね。そこから手間をかけて作る餅やお酒を供えるようになったとされています」
「へー美味しいからじゃなかったんだ」
「いえ確かに美味しいですが」
ちなみに神様のお酒好きについては「御神酒の上がらぬ神はなし」という言葉もあるほどで、酒飲みに「神様だって飲むんだしいいじゃん」と酒を飲む言い訳として利用されたほどです。
でも神様はともかく人間は結構簡単に体を壊すので飲み過ぎは駄目です。
「どうせなら一緒にきな粉とか餡子供えてほしいなあ」
「それならいっそ調理済みのものでいいのでは」
お供えに対して更なるグレードアップを望む神々。
ちなみに鏡餅は暖房器具が優秀だったせいかあまり乾燥しておらず、いくら叩いても砕けないのでトヨウケヒメ様に回収されて水かけて電子レンジでチンされました。
そしてその傍にはやわらかくなった鏡餅を手で引きちぎりながら「なんか違う……」としょっぱい顔をしたアマテラス様の姿が!
今日も高天原は平和です。