タマ取ったらぁっ
「ほれ。おぬしら。お年玉をやろう」
「わあ。ありがとうございます」
「え……?」
安達家にて。
新年早々グライオスさんからポチ袋を渡され、素直に喜ぶエルテさんと戸惑うカガトくん。
この家に来てから割とグライオスさんに振り回されているのですが、突発的な行動にはまだ慣れないようです。
「いや。俺居候ですし貰うわけにも」
「何を言う。おぬしはこの家の一員でありわしらの家族ではないか」
「いやでもあまり大きなお金は……」
「つべこべ言っとるとおぬしが寝ている間に靴下の中に詰め込むぞ」
「それクリスマスプレゼント!?」
グライオスさんの強硬手段案に思わずつっこんでしまうカガトくん。
ちなみにクリスマスプレゼントを靴下に入れるのは、聖ニコラウスが貧しい家の娘を憐れみ投げ込んだ金貨が偶然靴下に入ったからだとされているので、靴下に現金詰め込むのは案外間違っていません。
「分かりました。ありがたくいただきます」
「おう。全く子供が遠慮などするな」
「いや俺向こうで一応働いてましたし、今更子ども扱いされるのも違和感が」
どうやら異世界でこき使われたせいで、未成年なのに社畜根性が身についてしまったらしいカガトくん。
これも全て皇帝ってやつの仕業なんだ(目の前に父親)。
「じゃあわしからもやろうかの。ほれ」
「私も用意しておりますぞ」
「俺からもだ」
「私も一応用意したー」
「え? ……え?」
そしてカガトくんがグライオスさんからのお年玉を受け取ったのを皮切りに、次々とお年玉を押し付けていく安達家の面々。
そして後で自室で確認してみると、一部の袋から諭吉さんが複数枚出てきて「多すぎだろ!?」と虚空につっこむカガトくんの姿が。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「姉貴。お年玉くれ」
「新年早々何図々しい要求してんのこのおっさん」
ずいっと手のひらを差し出すスサノオ様を見て、自分を棚に上げておっさん呼ばわりするアマテラス様。
でも実際アマテラス様と違ってスサノオ様は既婚者なので、こんなとこで油売ってないで家族にお年玉あげてこいやという立場です。
「というかお年玉って割と最近の習慣だし、私たちもお父さんたちから貰ったことないじゃん」
「だからやってみたいんだろ。親父はこんな理由で行ったら間違いなく逃げるだろうしさあ」
「たまには普通に会いに行けと言っているでしょうが」
スサノオ様の言葉につっこむツクヨミ様。
相変わらずイザナギ様は子供たちが面倒事を持ってくると察したら逃げているようです。
「スサノオ。これをあげましょう」
「これって、雑煮じゃないか」
「お年玉です」
「はあ?」
お雑煮をお年玉と言われて気が抜けたような声を出すスサノオ様。
アマテラス様も意味が分からないのか首を傾げています。
「お年玉というのは元々『年魂』と書く、年神の御魂のことなんですよ。要するに鏡餅です」
「ああ! なるほど。そういうことか」
ツクヨミ様の言葉を聞いてお年玉の意味を理解するスサノオ様。
実際お年玉のルーツは年神の御魂の宿った餅を家長が家族に分け与えるという習慣が元であり、現金を渡すことが一般的になったのは昭和初期以降だとされています。
「そういうことならありがたくいただくしかねえな。うちの雑煮も上手いがここの雑煮も絶品だしな」
「そりゃもちろんトヨちゃんのお雑煮だもん」
「何故姉上が胸をはっているのですか」
スサノオ様にお雑煮の味を褒められて我が事のように威張るアマテラス様。
今日も高天原は平和です。