パワフルなお婆さんに餅を奪われる
大陸の東に浮かぶ島国ホムラにて。
「突然呼び出して申し訳ないでござる」
「ヤヨイさんがお呼びとあればどこにでも飛んでいきます!」
「いや確かに飛んで(転移)来てるでござるが」
握り拳でなんか力説してるローマンさんとその勢いにちょっとひいてるヤヨイさん。
婚約はしたものの、やはりまだローマンさんのノリには付いていけていないようです。
ちなみに皇帝に「あんま重要な情報知っちゃうとホムラに流しちゃうかもなー」と圧力かけて仕事を減らしたローマンさんでしたが「やれるもんならやってみやがれですわ!」というヴィルヘルミナさんによって元の量に戻されました。
流石元婚約者。ある意味現婚約者より扱い方をよく分かってます。
「しかし内密に話したいというのは一体?」
「……実は拙者も話していいものかどうかわからず。とりあえずはフィッツガルドのローマン殿ではなく、日本に異邦人として迷い込んだ仲間のローマン殿として聞いてほしいのでござるが」
「ほうほう」
それ本当に自分に話していいのかと思ったものの、ダメそうだったら自分が聞かなかったことにすればいいやと先を促すローマンさん。
冷静になったようでいてやはりまだ女性に甘いので、その内また面白いことになりそうです。
「うちの国の人間で一人、海に流されて生存が絶望視されていた人間がいたのでござるが、つい先日大きな船に乗ってひょこっと帰ってきたのでござる」
「……海に流された人間が大きな船に乗って?」
「うむ。どうやら見たこともない地に流れ着いたとのことで、そこで船を用立ててもらったらしく乗組員まで」
「それは興味深いですが、それだけなら私にわざわざ話しませんね」
確かにその見知らぬ地というのが今まで知られていなかった大陸とかなら世紀の大発見ですが、わざわざローマンさん呼びつけて話す意味はありません。
意味がなくても呼びつけられたローマンさんは大喜びするでしょうが今はどうでもいいです。
「その乗組員とやらが拙者たちを見て驚いた様子だった故話を聞いてみたら、かの地には拙者たちのような猫耳ではなく犬耳の人間が居るとのこと」
「犬耳……もしや」
脳内に思い浮かべたマカミさんが「俺は犬ではなく狼だ」とつっこんでくるのを流しながら、実際そうならどうすべきかと考えるローマンさん。
ついにマカミさんが地の文だけではなく他人の脳内にまでつっこみを入れ始めました。
「まあ話を聞くのが手っ取り早いでしょう。マカミさんをこちらに呼び出しましょうか」
「しかしもう年末でござるし警察は忙しいのでは?」
「あ……」
年末年始は人出が多くなり警察も大忙し。もっとも今年はその人出もあまり多くはならなさそうですが。
あとマカミさんの部署どこなんだよとつっこまれそうですが、作者もめんどくさくてふわっとしか考えてないので深く追及してはいけません。
「……もう少し早ければ父に伝言を頼めたのですが」
「いや、お父上にそんなことをやってもらうのは……」
いざとなったら実の父をパシリにするのも躊躇わない効率重視なローマンさん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「年が変わる前に参拝するから幸先詣かあ。時節でこういう新しい参拝方法が出てくるのも面白いねえ」
「まあ今の形式の初詣もここ百年ほどで定着したものですしね」
アマテラス様の言葉にさらっと返すツクヨミ様。
厳密には元旦に参拝する行為自体は存在したのですが、その場合参拝するのは恵方と呼ばれる方角にある神社であり、今のようにどこでもいいから参拝する方式が一般に普及したのが明治時代頃だったそうです。
「まあ参拝に拘って感染拡大したら本末転倒だもんね。それでも年末年始に行く人多そうだけど」
「規制するわけにもいきませんしね。対策をしっかりとしてバカ騒ぎをしなければある程度は大丈夫でしょうが」
「バカ騒ぎをするやつはそんなこと考えないと思う」
ツクヨミ様の言葉を一刀両断するアマテラス様。
でもインフルエンザの患者数は過去数年の平均と比べても1%以下とありえねえほど減っているので、普段から行われている感染症対策に一定の効果があることと、日頃の対策がいかに重要なのかを証明していたりもします。
同時にそこまでインフルエンザが減っているのに感染が広がっていることからその危険性も分かりますが。
「……ということは新年の餅撒きもできない?」
「できないも何も姉上が直接餅撒きに参加する機会などないでしょう」
アマテラス様自らが撒く餅。
すっごいご利益ありそう(小並感
今日も高天原は平和です。