カレーのおじ様
「くはー! これは予想以上に辛い!」
「だから初心者は甘口にしておけといったであろうが」
とあるカレー店にて。
水を片手にぎらぎらとした目でカレーを睨めつけているデンケンさんと「え? なんでこいつカレーを親の敵みたいな目で見てんの?」と珍しくひいてるグライオスさん。
料理人にとっては毎日の食事すら勉強の時間なのです。
「いえいえ。辛いですが美味いのも確か。それにこの辛さに米がよく合う。できることなら滞在中に一番辛い物まで食べたいところですが」
「変わりないな貴様は。大体いきなり来て『カレーの専門店に連れていけ』などと。わしが知らなかったらどうするつもりだったのだ」
「またまた。陛下なら日本の様々な場所を探索済みでしょう。インハルトのやつがいくら言っても城を抜け出すのをやめなかったじゃないですか」
「おぬしも止めなかったではないか」
どうやらグライオスさんが頻繁に一人でどっか行ってたのを把握しながら何もしてなかったらしいデンケンさん。
恐い顔のせいで誤解受けまくりな上に唯一の常識人だったインハルト侯の苦労がしのばれます。
「それに陛下に会ってお礼も言いたかったんですよ。うちの息子が良い感じに吹っ切れたのは陛下のおかげでしょう」
「わし一人のせいではないと思うがなあ。しかし最初はおぬしの子供らしくないと思っていたが、やはり根本の考え方は血によるものか。わしの息子ももう少し似てくれていればなあ」
「アレはアレで上手くやっていますよ。大体今の平和な時代に陛下みたいな嵐は必要ありませんって」
「誰が嵐だ」
隠居したとはいえ元主に容赦ないデンケンさん。
でも隠居する前からこんな感じなので問題ありません。
「そもそもおぬし日本との交渉のために派遣されたのではなかったのか?」
「ああ。それ建前で本来の目的八割達成してるんで、残りの期日まで食べまくるつもりですよ」
「いい歳こいて胃に負担をかけるな」
そうは言うものの本人の普段の食生活もあんま自重してないグライオスさん。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「イギリスで日本のカツカレーが人気……だと?」
「色々つっこみどころ満載な現象ですね」
インドに日本式カレーが逆進出かましたと思ったら、そのカレーを伝えた英国にもなんか逆進出していたカレー。
ちなみに今では日本の国民食となっているカレーですが、初めて日本人でカレーライスを食べたとされるアメリカへの留学生は洋食に不慣れだったため、カレールーには手を出さずライスだけ食べたそうです。
……いやそれ食ってないやん!?
「しかしカツカレーという名前は伝わっても中身がおかしな伝わり方をしているらしいですよ。主に使われているのはチキンカツだそうですし」
「えー。うんでもまあチキンカツも美味しいよね」
「あとカツが入ってないのにカツカレーという名で売られているのも確認されています」
「なんで?」
純粋に意味が分からず首を傾げるアマテラス様。
メロンパンにメロン入ってなかったりウグイスパンにウグイス入ってないのとはわけが違います。
「ただの日本米がスシライスという名前で売られたりもしているそうですし、知名度が低いものを有名な料理に結び付けて売っているのではないでしょうか」
「それ逆に日本人や日本に詳しい人が騙されるやつじゃん」
そう言うアマテラス様ですが、日本でもイギリスパンというイギリス人からしたらどういうことだよ案件がゴロゴロしてるので割とお互い様です。
というかそもそも「イギリス」という国名はポルトガル語の「イングレス」やオランダ語の「エゲレス」が変化したものなので実は日本以外では通じません。
じゃあイギリスパンくんはどうすればいいんだよ!?
「カツカレー注文してカツ入ってなかったら私なら激怒するよ」
「姉上がイギリス行ってカレー注文するような事態にまずならないので安心してください」
流石のアマテラス様も気軽にイギリス行ってカレーは食べられない模様。
今日も高天原は平和です。