今日は何の日
「私は井の中の蛙だった……」
「いきなり何が始まっとるんじゃこの店」
「いつものジュウゾウの病気だよ」
ドワーフ王国にあるとある飲食店にて。
何やら全力で落ち込みながらコップの中身(リンゴ酢)をあおるジュウゾウさんと、驚くドワーフの客と呆れるバーラさん。
最近まかないをほぼ任されるようになったデンケンさんも奥で炒飯作りつつ笑いながら見ています。
「ジュウゾウの故郷がある世界と行き来できるようになったって話は知ってるだろう? それでカレー……つっても材料入れて煮込むだけで完成する簡易的なもんが手に入ったんだけどね」
「それがどうしたんじゃ」
「その簡易的なもんの方が自分が試行錯誤して作ったカレーより美味しいから凹んでんだよ」
「マジか」
衝撃の事実に驚くものの「そのカレー食ってみたい」とはジュウゾウさんに配慮して言わないドワーフ。
ジュウゾウさんが基本的にいい人だけど料理関係では面倒くさいということはドワーフたちの間でも広まっているのです。
「いや私も食べ比べてはみましたけど、店長のカレーの方がさっぱりしていて美味しかったと思うんですけどね」
「それはデンケンさんが向こうの味にまだ慣れてないからですよ。慣れたら『この胃にくるこってり感がたまらないね』とか歳考えずに言い出すんですよ」
「ああこりゃ重症じゃな」
「普段ならデンケンの素性にビビって文句とか言わないしね」
実はまだデンケンさんが偉い人だというのを受け止め切れていなかったジュウゾウさん。
でもそんなの関係ねえという状態になるくらい某メーカーのカレールーの方が美味しかったのがショックだったようです。
「とはいえこっちじゃろくに材料が手に入らなかったんだろ? これからジュウゾウのカレーはもっと美味くなる余地があるってことじゃないか」
「そうじゃなあ。わしも本気のジュウゾウのカレー食いたいなあ」
「……」
バーラさんとドワーフの言葉に無言ですくっと立ち上がるジュウゾウさん。
どうやらやる気スイッチが入ったようです。
「そうですね。元々専門ではない分野でしたし、一朝一夕で専門メーカーの企業努力に勝てるはずがありませんでした」
「落ち込むことも多いけど簡単に立ち直るから楽だね」
「ばね仕掛けみたいな男じゃな」
立ち直った途端割と言いたい放題なドワーフ二人。
でも実際面倒くさい男なので仕方ありません。
「見ていてください。私が本当のカレーというやつを見せてやりますよ!」
「頑張ってください店長!」
やる気をみなぎらせるジュウゾウさんと雑に煽るデンケンさん。
今日も異世界は平和です。
「確かにわしはこっちのこってりした方が好きじゃな」
「私も」
「チクショウ。ドワーフめ!」
平和です。
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一方高天原。
「一月二十二日はカレーの日だと……?」
今までまったく知らなかった新たな記念日の登場に動揺するアマテラス様。
あまりに新しすぎていつ制定されたのか言及されてないことが多いのですが、どうやら2016年に全日本カレー工業協同組合が日本記念日協会に申請を行い受理されたのが始まりのようです。
「つまり22日はカレーフェスティバル」
「トヨウケヒメがそんな最近制定された記念日知ってると思いますか?」
「知ってますよ」
「なんと!?」
姉を嗜めたらまさかのトヨウケヒメ様の返答に珍しく本気で驚くツクヨミ様。
流石食物を司る女神様です。
「去年の二十二日にもカレーをお出ししたのですが」
「ツクヨミ覚えてる?」
「一年前の献立はちょっと」
昨日今日ならともかく、一年前の記念日だとも知らなかった日に食べたものとか流石のツクヨミ様も覚えていません。
「記念日なのでカツとゆで卵もつけて普段より豪華にしたのですが」
「アレか!」
「何で覚えてるんですか」
そしてまさかの言われたら思い出したアマテラス様。
今日も高天原は平和です。