竜探索(訳してはいけない)
「やっぱりお供えって言ったら収穫した作物とかじゃねえのか」
「でも相手は竜でしょう? 芋やら麦なんて食べるのかしら」
「でも林檎は食べたんだろ?」
「まあ供物という形なら受け取ってくれるのかしら?」
メルディア王国にて。
夜も更けて人の少なくなった食堂で、オネエと団長の二人が顔を突き合わせて何やら話し合いをしています。
「何をしているんだいあの二人は?」
「王子。何故ここに」
「食後のデザートを食べに」
「王子……いえ、いいです」
何ら恥じ入ることはないとばかりに食堂からかすめてきたプリンを堂々と食べるハインツ王子と、何かを言おうとして諦めたグレイス。
部下のせいかハインツ王子が隣の王様に負けないくらいフランクになってきています。
「それであの二人でしたら、竜王山に住む竜王をどうやって信仰しようかという相談をしています」
「何さらっと神官に絡まれそうなことしてんのあの二人!?」
軽いノリで新興宗教立ち上げようとしている二人につっこむハインツ王子。
オネエはもちろん団長もオネエの奥さんの記憶混じって日本人な価値観に汚染されているので仕方ありません。
「え? だってこっちだって基本は多神教でしょう? いいじゃない神様が一柱増えるくらい」
「神様はそんなにポンポン増えないだろう!?」
『え? そうなの!?』
「声をそろえて!?」
素で驚くオネエと団長にむしろこっちが驚きたいハインツ王子。
日本では現代でも神様増えてるからね。仕方ないね。
「とにかく。やるなとは言わないがあまりことを大きくしないでくれ。そもそも何で竜の親玉を信仰するとかいう話になってるんだ」
「会えば分かるわよ。アレは単なる強い竜とは思えないわ」
「冠するにしても『王』じゃたりないよなあ。それこそ神竜とかそういう類だろアレは」
「……何で二人とも見たことがあるような言い方なんだ?」
「だって見て来たもの」
「条件分かったら案外簡単に会えたな」
「何やってんの君ら!?」
自分の部下が人類が有史以来避けてきた山の主にお散歩感覚で会いに行ったと聞き驚愕するハインツ王子。
その手の学者が聞いたら血眼になって話を聞きに来る案件なのに本人たちにまったく自覚がありません。
「それにメリットあるかもしれないだろ。竜があまり人里におりてこないよう頼めば聞いてくれるかもしれないぞ」
「そんなうまくいくはずが……」
「まあまあ。やるだけやってみるのはいいじゃない」
そうオネエと団長に言われてその場は引き下がったハインツ王子。
結果、竜が竜王山からおりてくる割合が二割ほど減るという、効果あったんだかなかったんだか分からないある意味神頼みらしい結果が出てしまいさらに悩む羽目に。
今日も異世界は平和です。
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一方日本の安達家。
「そういえばあやつは健在だろうか」
「いきなりなんですか」
リビングでごろごろしていたグライオスさんが唐突に呟いたので、無視してもさらに絡んできて鬱陶しいので相手をするローマンさん。
長い付き合いで敬意とか完全に薄れています。
「いや、まだ向こうに居た頃にな。体が鈍るといかんからたまに単身竜王山へ赴いていたのだが」
「軽いノリで何やってんですかアンタ」
「そこでわしは白銀の鱗に金色の鬣を持つ巨大な竜と遭遇したのだ」
「何やってんですかアンタ」
普通に考えれば死亡フラグなことをやらかしているグライオスさんに律儀につっこむローマンさん。
しかし今こうして生きているのでどうにかなったのだろうと軽く考えていたのですが……。
「いやはや強敵であった。十を越えるほど打ち合ったところで剣は爪でへし折られ、素手で挑んだはいいが宝石のような鱗の前では百を越えるほど殴るのが限界であった」
「いや剣が折れた時点で逃げましょうよ!? 何で三桁越えるまで殴り続けてんですか!?」
まさかの大苦戦というか何で生きてるんだという有様に本気でつっこむローマンさん。
グライオスさんだから仕方ありません。
「拳も潰れこうなれば次は足かと考えたのだが」
「いや逃げろよ」
「そこまで来ると奴はわしに興味を無くしたようにそっぽを向き霧のように消えたのだ。いや、今思えば剣が折れた時点でやつは攻撃を止めわしのことなど眼中になかったのだろうなあ」
「そりゃ相手が本気なら死んでたでしょうね」
あまりに無謀な自国の元皇帝によくこの人今まで死ななかったなと呆れるローマンさん。
本人が強い上に運まで良いのだから質が悪いです。
「そしてわしは思ったのだ。いつか奴がわしを敵と認めるほどまでに強くなってみせようと」
「その前にこちらに来て何よりです」
どう考えても全力で死にに行ってたグライオスさんの決意に、この人なら本当にそうなりそうでちょっと怖いと思ったローマンさん。
今日も日本は平和です。