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どうせみんなおっさんになる

「ふう。結局無難にネクタイにしてしまったが、アダチ閣下は気に入ってくださるだろうか」


 安達家の居間にて。

 父の日に安達くんに贈るプレゼントを用意し終え、ちょっと緊張気味なローマンさん。


 何せ相手は慕ってはいるものの実父でもない赤の他人なので、父の日にかこつけてプレゼントを渡すというのは中々勇気がいります。

 それでも実行するのが最近成長を見せ始めたローマンさんの心意気です。


「……」


 一方何だか不満そうな目でローマンさんを見ているグライオスさん。

 先ほどからアピールするようにコップの中の氷をカランカランならしています。


「……何か御用ですか陛下」


 そしてその構ってオーラに負けて話しかけるローマンさん。

 自国の前皇帝だからね。仕方ないね。


「いや。用というか納得いかんのだがな。おぬしがアダチを父のように慕っているというのは見て分かった」

「はい。それが何か」

「アダチの前に国の父とも言えるわしを何故父と慕わんのだ!?」


 安達家特有の寂しがり屋のおっさんの嫉妬発動。

 一体誰得なのでしょうか。


「ハハッ。面白いジョークですね陛下」

「言い方!? 言い方がデンケンっぽいぞ! そばに居るわけでもないのに似てきおってからに!」

「そりゃ親子だから似るでしょう」


 どうやらグライオスさんのあしらい方を覚え始めたらしいローマンさん。

 でも調子に乗ると拉致られて稽古という名のしごきを受けるので、力関係はあまり変わってません。


「しかし陛下も常時そんな感じで父上と上手くやれていたんですか?」

「上手くやれていたとも。……いや、というよりも。デンケンのやつはわしに大して忠誠心など抱いておらんかったと思うぞ」

「……は?」


 父親に忠誠心がなかったと言われて呆気にとられるローマンさんと、何やら昔を思い出しているのか懐かしむような顔をするグライオスさん。


「その点インハルトの奴は分かりにくいようで分かりやすい。あれはわしが間違いそうになったら不興を買うのも覚悟で小言を言うし強引にでも正しに来る。確かに鬱陶しくもあるが、ああいうのが一人は居らんと困る」

「はあ。確かにあの方は自分にも他人にも厳しい人ですからね」

「だがデンケンは違う。アレは最初からわしという人間への理解を諦めていた。例えるならば嵐が来る前に水の流れや人の位置を調整しておき、嵐が去ればその後始末をする。

 嵐への対処と誘導はするが、わしという嵐には近付こうとしなかった。他の連中はインハルトが恐いと言っていたし実際恐かったが、わしはわしを個人として見ずどう利用するかとしか考えていなかったおぬしの父の方が数倍恐いし油断できんと思っておった」

「そこまでですか」


 自分の父がインハルト侯より恐かったと言われても実感がわかないローマンさん。

 でも実際身内の自分でもちょっと何考えているか分からないところがあるので、他人からすればなおさらなのかもしれないと納得してしまいます。


「しかしならば何故父上をそばに置いたのですか?」

「やつがわしを利用したように、わしもやつを利用できると思ったからに決まっておろう」

「ええ……そんなことで信頼関係とか築けるのですか?」

「おうとも。むしろ忠義だけで仕えている人間など信用できるものか。利があるから従うというのなら利を与え続ける限りは裏切らぬということ。結局のところ、おぬしの父もわしに求めたのはインハルトと同じ。

 国を繋ぎ止める王であれ。ただそれだけのことよ」

「……」


 グライオスさんの言葉に呆気にとられたように目を見開くローマンさん。

 国の支配者たることを「ただそれだけ」と言ってのける姿。

 今更ながら、やはり目の前の男は大国を纏め上げるだけの器を持った英雄だと実感したのです。


「なるほど。きっと父は陛下のことを理解できずとも国をまとめられるのは陛下しか居ないと実感していたのですね」

「見直したか?」

「はい。やはり貴方は偉大な皇帝だ」


 ローマンさんの言葉にゆっくりと頷くグライオスさん。

 そして徐に口を開くと。


「というわけでわしを父と慕う気になったか?」

「いえ別に」


 あっさりとローマンさんに切り捨てられました。

 今日も日本は平和です。



 一方高天原。


「父の日だからお父さん強襲しようと思うんだけど」

「私の知ってる父の日と違う」


 いきなりイザナギ様襲撃計画を発表するアマテラス様とつっこむツクヨミ様。

 イザナミ様相手と違って逃げに徹すると分かっているイザナギ様相手だとアマテラス様強気です。


「いや、そんなやる気満々で行っても父上逃げるでしょう」

「そこで囮にスサノオを正面から行かせて私たちは裏に回ります」

「本気だ!?」


 まさかのスサノオ様を使った囮作戦に「え? マジでやる気なの?」と引き気味なツクヨミ様。

 何がアマテラス様をそこまでさせるのでしょうか。


「別にそこまでしなくても。プレゼントを渡したいだけなら送れば素直に受け取ると思いますよ」

「素直に受け取るなら素直に会ってくれてもいいじゃん!」

「いや私に言われましても」


 多分こういう問答をするのが面倒だから逃げるんだろうなと、実はちょっとイザナギ様のことを理解しているツクヨミ様。

 イザナギ様は静かに暮らしたい。


「ふっふっふ。見てなよ。ついでにお母さんの前に突き出してやるんだから」

「……」


 調子に乗るアマテラス様を見て「あ、これ失敗するな」と確信するツクヨミ様。

 ちなみに案の定失敗してアマテラス様はそのままスサノオ様に捕獲されていじめられました。


 今日も高天原は平和です。

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