釣った魚が予想外にでかくて暴れて大パニック
「朝釣りに行くぞ」
「いきなり何だ貴様」
まだ日も登っていない時刻から安達家の玄関で何やら話し合っているのは、元皇帝なグライオスさんと吸血鬼なグラウゼさんです
グラウゼさんはいつもの吸血鬼風貴族メンスタイルですが、グライオスさんは完全に休日に釣りにいく親父スタイルです。
面倒くさくても救命胴衣はちゃんとつけましょう。
「ほれ。先日わし免許をとっただろう」
「ああ。試験に二度落ちたらしいな」
「……おまえさん普段興味なさげなふりして何故そういうことはちゃんと聞いとるんだ」
実はこいつわしのこと好きなのかとか思ってるグライオスさんですが、実際にはグラウゼさんに妙に懐いてるヤヨイさんが世間話で言っちゃっただけです。
猫好きに悪い人はいない(愛誤除)。
「それに釣りならば猫娘を連れて行けばいいだろう」
「昨日の夜唐突に思いついたのだ。叩き起こして連れて行くわけにもいくまい。その点おまえさんはホレ、こうして起きておる」
「徹夜させる気か貴様」
「もう夜は明けるから徹夜ではないな」
「鬼か貴様」
ああ言えばこういうグライオスさんに疲れたようにため息をつくグラウゼさん。
実を言うとこういう無茶ぶりは慣れているのです。主に先代魔王のせいで。
「それにしても貴様もう車を買ったのか。たまに国から依頼を受ける以外にろくに収入もないというのに」
「おお。そこはローンとやらを組んでだな」
「よく信用されたな」
異世界から来た無職のおっさんとかいう信用以前の存在。
でもバックには総理大臣な安達くんがいるのである意味これ以上にないくらい信用できます。
「それにだな。異世界との行き来が可能になればわしの仕事も増えるだろうさ」
「小僧には手を出すなと言われていなかったか?」
「おお! ローマンの坊主も言うようになっただろう。しかしわしは息子に玉座を譲ったが何もせず傍観するほど老いてはおらん。なによりアダチが奮闘しているのを横目に何もせずにいるというのも……なあ?」
「知らんわ」
恥ずかしそうにはにかんだ笑みを浮かべるグライオスさんに、気味が悪いと言わんばかりの視線を向けながら日焼け止めを塗るグラウゼさん。
どうやら何だかんだと言いつつも付き合うようです。
「そら。おまえさんの分のライフジャケットだ」
「いらん。落ちるわけないだろう私が」
「確かに」
何せグラウゼさんは魔術とか使わなくても吸血鬼としての能力でノータイムで飛べます。
アマテラス様に完封されたりフェリータさんに魔術で負けたりと残念に見えますが、仮にも魔王の腹心だったのですから基本スペックは高いのです。
「そういえば吸血鬼は流水も駄目だというが海は大丈夫なのか?」
「気付かず誘ったのか貴様」
そんなことを言いあいながらまだ暗い外へと出かけていくおっさん二人。
今日も日本は平和です。
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一方高天原。
「釣りに行こう!」
「はいはい、行ってらっしゃい」
唐突に何か言い始めたアマテラス様についにつっこみを放棄したツクヨミ様。
このままでは話が進みません。
「……」
「無言で釣り竿の持ち手でこめかみをえぐるように押すのはやめてください」
「トヨちゃーん! ツクヨミがいじめるー!」
「だからトヨウケヒメを巻き込まないでくださいよ!?」
危害を加えておきながらぬけぬけといじめられたと言い張る主神。
お姉ちゃんから弟へのいじめはいじめじゃないので仕方ありません。
「それで、何故唐突に釣りなんですか」
「ぶちを見返してやろうと思って」
「同レベルで張り合ってどうすんですか」
ちなみにぶちというのはアマテラス様が拾ってきたブサ可愛い猫です。
高天原にいる動物狩って食ってたら神獣化するんじゃないかとか言われていましたが、なっても特に問題ないのでスルーしましょう。
「だってあの子本当に私におすそわけし始めたんだよ!」
「よかったですね飼い主と見なされてて」
「それ以前の問題!?」
ちなみにツクヨミ様のところにもおすそわけは一度来ましたが、そんなことはしなくていいですよとツクヨミ様が一言いうと納得した様子で去っていきました。
このままではぶちの中で完全にツクヨミ様が飼い主になってしまいます。
「それに堪え性のない姉上に釣りが向いてるとは思えないのですが」
「そ、そんなことないもん! ツクヨミの馬鹿!」
「なら思い出したようにこめかみをえぐるのをやめてください」
拗ねた様子で再び釣り竿の柄でこめかみぐりぐりするアマテラス様と、まったく堪えた様子もなく冷静に言うツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。