人それぞれです
異世界と言えばモンスターが跋扈し人々は常に脅威に晒されているなんてイメージがありますが、このお話の異世界ではダンジョンとか秘境に行かないとモンスターなんぞ出てきませんし、街道歩いてたらエンカウントすることもたまにしかありません。
人里近くでは軍が定期的に間引きを行っていますし、モンスターが出たと知れれば軍が動かなくても冒険者たちが褒賞目当てに真っ先に狩りに行きます。
なので小さな村とはいえ、帝都のすぐ近くに巨大なモンスターが現れたというのはそれなりに大問題です。
例え現れて三分で一刀両断されたとしても。
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「俺がその場に居ながら、本当に申し訳ありません!」
フィッツガルドの帝都。
皇帝陛下がいつも篭もっている執務室にて、日本人魔術師なカガトくんが日本のリーサルウェポンDOGEZAを発動させていました。
「あはは。ごめんなさい」
そしてその隣で正座はしつつもいつもの笑顔で反省の色零なマサトくん。
心のこもってない謝罪って挑発と同義なんだなあと皇帝陛下も虚ろな目で笑っています。
「貴様はよくやった。よく被害を抑えてくれた」
一人だけ緊張感がない室内にインハルト侯の重低音が響き渡り、皇帝陛下の背筋が伸びてカガトくんが土下座のままビクッと震えました。
短期決戦だったとはいえ、怪獣大戦争が勃発したにもかかわらず村の被害がほぼ無かったのは、カガトくんが結界やら障壁やらをはりまくったおかげです。
チキンなカガトくんの魔術は攻撃より防御に特化しまくっているのです。
「過失があったにせよその功績に比べれば些細なもの。不問ということでよろしいですかな陛下?」
「回りくどいな。許せばいいだろうこれくらい」
「罪は罪です。許されることはあってもなくなることはない。故に過程を省くことはあってはなりません」
「……ということらしい。お互い肝に銘じておこうカガト」
「……はい」
てめえもっとしゃんとしろやと言われ、顔だけ真面目ぶって言う皇帝陛下と心底ビビってるカガトくん。
どうやら皇帝陛下の神経は順調に太くなっているようです。
「……」
そして話が一段落付き、視線が集まるもう一人の日本人。
カガトくんの場合はマサトくんのやらかしを見過ごしたという些細な過失でしたが、こっちは騒ぎの張本人。
本人が解決したとはいえ、騒動を起こし民衆に不安を与えたという意味では罪と功績がつりあっていません。
「あはは。すいません」
「すいません! 本当にすいません!」
流石に空気が悪いと察したのか再び謝るマサトくんと、いたたまれなくて代わりに頭を下げまくるカガトくん。
何だかカガトくんが可哀想になってくる光景です。
「まあマサトについてはいつものことだしなあ。今回も……インハルト?」
罰するにしてもこの勇者様は自分たちに首輪をつけられるような存在ではない。
なのでいつも通り有耶無耶にしようとした皇帝陛下でしたが、そんな皇帝陛下の前へとインハルト侯が歩み出ます。
「……」
そしてそのまま正座しているマサトくんの前に片膝をつくと――。
「……そんなにこの国が憎いか?」
そういつも通りの、重い声でマサトくんへと問いかけました。
「……」
それを聞いたマサトくんもまたいつも通り笑っています。
不自然なまでにいつも通りに笑っています。
「憎いというならば貴様を呼んだ神官共をくれてやる。足りぬというならばこの老骨の首も差し出そう。だからどうかこの国を憎んでも民まで憎んではくれるな」
「……」
そこまで言うと、インハルト侯は立ち上がり無言で執務室を出ていきました。
残されたのは三人の青年。インハルト侯の残していった重い空気に気圧されて誰も言葉を発しません。
「……アハハ。何言ってんだろうねあの人」
しばらくして、マサトくんがいつも通りに笑って言いました。
ただただいつも通りに笑っていました。
罪が許されることはあってもなくなることはない。
それは誰に向けた言葉だったのでしょうか
今日も異世界は平和です。