植木鉢から生えてくる猫
「暑いでござる」
冒頭からどっかの太陽神みたいなことを言ってだれているのは、猫耳侍女子高生なヤヨイさんです。
学校から帰ってくるなりタンクトップの短パン姿となり、網戸になった窓のそばに転がっています。
このままでは遅れて帰宅したローマンさんの目にまつげが刺さりかねません。
「まだ六月ですよ。というかヤヨイさんって基本的に寝てますよね」
「拙者半分猫でござる故」
そしてそんなヤヨイさんを見て、麦茶片手に呆れたように言うエルテさん。
確かにヤヨイさんは夏は暑くて転がってるし、冬は炬燵で丸まっています。
しかし猫は一日の三分の二は寝ていると言われているので、基本的に転がっているのも本能みたいなもので仕方がないことなのです。
もっともその大半は浅い眠りであり、常に周囲を警戒し反応できる状態となっています。
つまりヤヨイさんが完全にだらけきっているのは猫関係ありません。
「というか窓際って暑くないんですか?」
「日差しは遮られてるのでそんなに暑くないでござるよ。むしろ風が通っていい感じでござる」
寝転がったまま尻尾をふりふりして答えるヤヨイさん。
ちなみに猫は快適な場所を探すのが上手いと言われ、猫が昼寝している場所を探せば人間もそのおこぼれにあずかることができます。
でも近づきすぎたら「暑苦しいんだよてめぇ」という顔をして逃げるので、パーソナルスペースは大事にしましょう。
「あとはアレでござるな。風鈴があれば完璧。今度の休みに買ってくるでござる」
「わざわざ買ってくるんですね」
基本的にだれているのに、だれるための努力は欠かさないヤヨイさん。
今日も日本は平和です。
・
・
・
一方高天原。
「お手」
「……」
アマテラス様が右手を差し出しますが、その前でおすわりしたまま首を傾げる鼻にぶちがある猫。
猫は犬と違ってあまり芸は覚えないので仕方ありません。
それでも猫のサーカスとかあるので、覚えさせようと思えば覚えますが。
「ほら、カリカリあげるから……って何で食べるだけ食べてどっか行っちゃうの!?」
「猫はそういう生き物でしょう」
マイペースに食うだけ食って去っていく猫を涙目で見送るアマテラス様と、呆れたようにそれを眺めるツクヨミ様。
どうやらアマテラス様が拾ってきた猫は、無事ツクヨミ様の飼育許可を得たようです。
「猫は人間に従うという発想があるかどうかも怪しいですからね。せいぜい仲の良い隣人でしょう」
犬が狩りなどのパートナーとして飼育され始めたのに対し、猫は人間が農業始めたら鼠等の害獣目当てでいつの間にか人のテリトリーで勝手に暮らしていたと言われています。
そして役に立つので人間も受け入れて今の関係になったとも。
つまり人間が人間の都合で連れてきたというよりも、猫が猫の都合であっちから来たようなものなのです。
猫は人ではなく家につくと言われるのもその辺りが理由かもしれません。
ついでに最近の研究で、猫は人間と暮らすようになってからもほとんど遺伝子に変化がないということが分かったそうです。
家畜化されなくとも自分の意思で人間と暮らし始めそのまま馴染んだ。
ある意味強かな生き物と言えるかもしれません。
「でもさあ、こっちも餌あげてるんだしもっと尊重してくれても……」
「足りなければ足りないで自分でとってくるでしょう。大体猫まんまなどと言われてますが、アレ猫には栄養足りませんからね」
「そうなの!?」
最近は家猫ばかりになり家の中だけで暮らす猫が増えましたが、一昔前までは猫は放し飼いが当たり前で自分で鼠やら雀やらを狩っていました。
そしてたまに枕元におすそ分けを置いていき、全国の飼い主を絶叫させていたりします。
「まあつまり猫はそんなに世話を焼かなくても、気ままに生きていけると。姉上におすそ分けを始めたらダメな弟分扱いの合図ですね」
「私そこまでダメじゃないもん!?」
見事なフラグを立てるアマテラス様ですが、翌朝即座に回収され高天原に主神の悲鳴が響き渡るのでした。
今日も高天原は平和です。