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竜探索

 春。

 様々な命が冬眠から目覚め草木も茂り始める始まりの季節ですが「四月は残酷な季節」と詠った詩人も居ます。

 実際なんかよく分かんないけど憂鬱だという人も多いらしく、しかもその憂鬱を乗り越えて五月に突入すると五月病が待っています。

 でも多分面倒くさいひとは一年通してずっと面倒くさいままだと思います。


「ほああああぁっ!?」


 そしてそんな春に竜王山の麓で暴れているのは、うみんちゅ系お兄さんなカオルさんです。

 全長十メートルはありそうな巨大な竜の尻尾でかち上げられたと思ったら、そのまま落下の勢いを利用して相手の脳天に銛をぶっ刺しています。


 傍から見ると見事な戦いぶりですが、本人狙ってやってるわけではないので必死です。

 でも普通は必死になっても竜なんぞ狩れないので、カオルさんの身体能力の高さと戦闘センスが並ではないことがよく分かります。


「あらあら。無駄が多いわね」


 一方派手な立ち回りを見せるカオルさんを尻目に、群がってくる竜たちを淡々と処理していくオネエ。

 近づいて拳を振り上げて頭を殴る。

 ね、簡単でしょう?


「みんなー。真似するなよー」

『できません』


 そしてそんな二人の後方で、陣形を組んでちまちまと竜をつっついているグレイス率いる他の騎士。

 気の抜けた声を出していますが、装備は全身甲冑とガチです。

 むしろ前で暴れてる二人が鎧すらつけていない舐めプ状態なのがおかしいのです。


 竜というのは全てではありませんが、一部の種は冬眠します。

 そして春になると起きてくるわけですが、かなり前にオネエが言っていたように、最近は他の魔物が減りすぎたせいで竜の一部が人里までおりてきています。


 魔物を討伐しすぎると竜が人里までおりてくる。

 しかし人に危害を加える魔物を放置しても置けない

 じゃあ竜も討伐すればいいじゃない。


 偉い人というのはこうして現実を無視して無茶ぶりをしてくるのです。


 これに慌てたのは竜が冬眠するまで竜殺しとしてデスマーチ状態だったオネエです。

 あの地獄が再びやってくるのかと。


 せめて竜殺しが他にもいれば。しかし近場で竜を殺せそうなリチャード陛下とかを引っ張り出すわけにもいきません。

 そこまで考えてオネエは気付きました。

 すぐ隣国に竜を殺せそうでしかもこき使えそうな男が居るじゃないかと。


 カオルー! 竜退治しようぜ!

 ごめん。大公さんの手伝いで忙しいんだ。

 大公さんカオル貸してくれたら報酬はずみますよ。

 カオル行っといで。

 オンドゥルルラギッタンディスカー!


 なんてやり取りがあったとかなかったとか。

 なお大公閣下はカオルさんにアトミックドロップをかけられました。


「アハハハハハハッ!」


 そしてオネエやカオルさんよりもさらに前で笑いながら剣を振り回し、次々と竜を解体していく団長。

 バーサーカーです。スプラッタです。

 団長の髪が赤いのは返り血のせいだと言われているのは伊達ではありません。


「グレイス。これ俺たちいるか?」

「言うな」


 三人の暴れっぷりを見て疑問を発する騎士の一人に遠い目で返すグレイス。

 カオルさんも途中からスサノオ様の「窮地でやる気が漲る」いらん加護のせいでバーサクし、結局ほとんどの竜は三人により殲滅されるのでした。


 今日も異世界は平和です。



 一方高天原。


「……スサノオの加護解除するの忘れてましたね」


 カオルさんが陸上でもハッスルしているのを見て、そういえばそんな加護をかけられてたなと思い出したツクヨミ様。

 ツクヨミ様にしては珍しいうっかりです。


「え? 別に解除しなくてもよくない?」


 一方まんじゅうを頬張りながら呑気に言うアマテラス様。

 スクナヒコナ様から「すまん。妖精に饅頭とられた。でもどうせ色んなとこからお供えもらってんだから饅頭一個くらいいいだろ」と言われて無性に食べたくなったのです。

 別に食べたくなかったけど食べられないと分かったら急に食べたくなるものだから仕方ありません。


「いえ。彼の実力に見合う難事ならともかく、そうでないときに発動したら犬死でしょう」

「えー。そういうときに力を発揮させるための加護じゃない?」


 慎重派VS楽観的


 ここに来て姉弟の性格の違いにより意見がぶつかりました。

 肝心の加護をかけたのがスサノオ様なので、三貴子の間では楽観派が優勢です。


「人の意思の力を信じるなればこそ、それを不自然な形で引き出すべきではないでしょう」

「ツクヨミは難しく考えすぎだって」

「姉上は軽く考えすぎです」

「だって……」

「アマテラス様ー。今日のおやつはあんみつですよー」

「わーい。しらたまー!」


 姉弟の議論が白熱し始めたところで介入するトヨウケヒメ様。

 さっき饅頭食べてなかったかって?

 あれはデザートだ!


「それでアマテラス様。ここに追加の餡子があるんですけど、スサノオ様の加護解除してもよろしいですか?」

「え? ああ。いいんじゃない?」

「いいそうですよツクヨミ様」

「……」


 餡子に視線釘付けなアマテラス様と笑顔で言うトヨウケヒメ様。

 自分の意見は通ったものの、色々大丈夫なのかと不安になるツクヨミ様なのでした(今更)。


 今日も高天原は平和です。


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