貧乏が悪いんや
「し、死ぬかと思った」
「おかえりー」
メルディアでの竜の一斉駆除から数日後。
ようやくアルジェント公国の自宅に帰ったカオルさんを出迎えたのは、椅子に座って呑気にムニエル食ってるディレットさんでした。
我が物顔でカオルさんちに居ますが、別に同棲しているとかいうわけではありません。
むしろ勝手に入って来て勝手に飯食って勝手に帰る、半野良のペットみたいなものです。
「あれ、怪我しなかったの? いくらカオルでも竜の大軍相手ならかすり傷くらいはもらってくるかと思ってたんだけど」
「かすり傷どころか腕一本持ってかれかけたよ」
うっかり左手に噛みつかれたことを思い出し、ブルリと震えるカオルさん。
どうやらカオルさんはオネエやマサトくんのようなバグとは違って、あくまでも人間の範疇で強いようです。
……人間って何だっけ?
「それより俺が居ない間ちゃんと飯食ってたか?」
「大丈夫。隣のお婆ちゃんがちゃんと作ってくれたから」
気を取り直して自分が居なかった間のことを聞くカオルさんですが、心配する箇所が完全にオカンです。
「あ、それから見て見てコレ!」
「何だそれ?」
嬉しそうにディレットさんが取り出して見せたのは、銀色の筒状の何か。
何かの容器らしく、取っ手と紐がついています。
「これに入れるとご飯が冷めづらいし水も入らないから、魚捕りに行った時のお弁当に使えないかって大公さんが持ってきてくれたの」
「へえ。どっからそんなもの調達してきたんだあの人」
どうやら人魚との共存を真面目に考えているらしい大公さんのはからいに感心するカオルさん。
「なんかウェッターハーンっていう商家から『お近づきのしるしに』って大量に貰ったらしいわよ」
「狙い撃ちされてんじゃねーか!?」
どう考えても人魚関連の事業を知り食い込む気満々な贈り物に、あの人騙されて変な契約とか結んでないだろうなと心配になるカオルさん。
ちなみに人魚関連のことを嗅ぎつけたのは例によって天然腹黒なミィナさんですが、商談に来たのは養父のほうなのでそんな無茶な契約は結んでいません。
ミィナさんの養父は身寄りのない彼女を引き取るだけあり、地道に頑張り信用第一な健全な商人なのです。
意図せず父娘で飴と鞭をやっているとも言います。
「あとメルディアの王子様が視察に来てた」
「完全に狙われてる!?」
まさかの鬼の居ぬ間を狙ったメルディア主従の連係プレーに叫ぶカオルさん。
しかしこれはオネエの意図したところではなく、完全にハインツ王子の独断です。
オネエはアレでカオルさんのことは気にかけているので、そのカオルさんがお世話になっているアルジェント公国にちょっかい出し過ぎると怒りを買いかねない結構危険な火遊びです。
そういう意味ではカオルさんの重要性を見抜きそうそうに全面降伏し懐に入った大公閣下は正解だったといえます
「でもどのみちこの村を発展させるならお金や物資が必要なんだし、商家や親分の機嫌をとるのは当然なんじゃない?」
「おう。意外におまえそういうところに頭回るんだな」
「って大公さんが言ってた」
「うん。だと思った」
ドヤ顔で言うディレットさんのちょっと湿った頭をなでなでするカオルさん。
素直なあほの子は可愛いものなのです。
「あ、疲れてるならご飯の準備私がしようか?」
「いや、いいから。おまえは座ってろ」
「えー?」
椅子から降りてベダンと這いつくばるように床に着地するディレットさんを、すぐさま抱え上げて椅子に座らせるカオルさん
今日も異世界は平和です。




