八咫の宅配便
「ヴィルヘルミナさーん!」
「あら?」
有能であれば身分に問わず入学できるある意味カオスなフィッツガルドにある学園。
その学園へ久しぶりに登校したヴィルヘルミナさんに、これまた久しぶりに顔を合わせたミィナさんが駆け寄ってきます。
「お久しぶりです! 会いたかったです!」
「ふふ。私もですわミィナ」
そのままポフンとヴィルヘルミナさんに抱きつき胸に顔をうずめるミィナさん。
身長差があるのでまるで姉妹のようです。
「会議お疲れさまでした。あまり詳しいことは聞いてないですけど、成功したんですよね」
「ええ。もっともガルディアの王妃殿下が本当に優秀な方で、私の出番などありませんでしたけれど」
「あーアサヒさんは色々おかしいですからねー」
何せ一切前知識なしの知り合いも居ない状況から、次々と周囲の人間を陥落し国政をコントロールして見せた内政チートです。
見た目は地味ですが、異世界に来ている日本人の中でも有数のおかしさです。
「それで興味深い話を聞いたんですけど、何でも魔王様が空飛ぶ魔物を使って運送事業を始めるつもりだとか」
「ええ。流石は魔王陛下というべきかしら。人間には出ない発想ですわね」
「その運送事業に我がウェッターハーン商会も一枚噛むために、ヴィルヘルミナさんから口添えをいただけたらなと」
「ミィナ……貴女という子は……」
あまりに堂々とした利権寄越せ発言に、ヴィルヘルミナさんが深々とため息をつきます。
実際皇帝陛下から無駄に信頼され勢いで求婚までされちゃったヴィルヘルミナさんなら、それくらいのねじ込みは可能です。
「はしたないですわよミィナ。そのようなことを憚りなく……」
「もちろんヴィルヘルミナさんの名前は出しません。コネは隠れて使わないと意味ないですよね!」
「ミィナ……」
あの天真爛漫だった少女が黒くなってしまったと、はらはらと涙を零すヴィルヘルミナさん。
でもヴィルヘルミナさんが気付いていなかっただけで、ミィナさんは元から天然系腹黒です。
「それがダメなら加賀さんを貸してくださいな」
「カガトを? 何をするつもりですの?」
「直接魔界に乗り込もうかなと」
「この微妙な時期に何をやらかすつもりなのこの子は!?」
「痛い!?」
まさかの正面突破宣言が飛び出したので、ヴィルヘルミナさんから教育的指導(物理)が入りました。
侯爵令嬢がチョップをかますというレア映像です。
「魔界側から貿易などの相談をしたいと何名か招かれることになりましたから、それで我慢しなさい」
「え? いいんですか?」
「ただし! 私がやるのは参加させるところまでです。実際の交渉は自分の力で何とかしなさい」
「がってん!」
ヴィルヘルミナさんの言葉にガッツポーズで応えるミィナさん。
ちなみにガッツポーズの語源がガ〇ツ石松さんなのは有名な話ですが、じゃあそれ以外にどうやって表現したらいいんだよとなると、英語にすら対応する単語がないので「拳を上げた」に適当な形容詞ぶっこんで対応するというちょっと面倒くさいことになります。
ガ〇ツ石松さんの影響力恐るべし。
「あ、護衛に加賀さん借りていいですか」
「好きになさい」
そして更なる要求に、もう諦めたのか投げやりに主に売られるカガトくん。
今日も異世界は平和です。
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一方高天原。
「……八咫の宅配便」
「!?」
突然放たれたアマテラス様の不穏な呟きに、ヤタガラス様(第一話以来約二年ぶりの登場)がビクッと震えます。
「また思い付きでわけの分からないことを」
「いやでも黒猫が居るんだから黒烏がいてもよくない?」
「烏は元から黒いでしょうが」
呆れたように言うツクヨミ様。その後ろでヤタガラス様が自分は何をやらされるのかと怯えてプルプル震えています。
「ヤタガラスならできる。なんたって私(太陽)の化身なんだから!」
「……と言ってますが?」
自信満々に宣言するアマテラス様ですが、ヤタガラス様はブンブンと首を横に振りまくっています。
そもそもヤタガラス様は一柱しかいないので、運送業とか無茶ぶりです。
「そもそも黒猫だって実際に猫が配達しているわけではないのですから、精々シンボルマークになるだけでしょう」
「それだ!」
ツクヨミ様のつっこみに何かを思いついちゃったアマテラス様。
あーこれはまたろくでもないこと始めるなと思いながらも成り行きを見守るツクヨミ様。
「魔王ちゃんにヤタガラスをイメージキャラクターにしてもらおう。さあ行きなさいヤタガラス!」
「嫌がってるからやめてあげてください」
ヤタガラス様を両手で掴み飛び立たせようとするアマテラス様と、全力で嫌がってるヤタガラス様。
今日も高天原は平和です。