貿易摩擦
「由々しき事態や」
魔王様のおられる魔王城。
その魔王城の会議室にて、幹部クラスの魔族を集めた魔王様が唐突にそんなことを言いました。
「はあ。例の対日本会議で何かありましたか?」
何か深刻そうな顔してるけど、多分くだらないことなんだろうなあと思いながらも一応聞いてみるデュラハンさん。
こういった会議があるたびに、マサトくんたち勇者パーティーに言い訳考えないといけないから疲れているのです。
あまりに急いでいたので「故郷の母が亡くなって」という言い訳を既に三回くらい使っているのですが、未だに誰からもつっこまれていません。
一応シーフなリーゼさんは何かおかしいと気付いているのですが「え? あれ? あ、もしかして家庭環境が複雑で母親が何人も?」と無駄に深読みしちゃってます。
しかし最近は自分があほの子だと気付いているので、余計なことを言わないよう気を遣っているのです。
このままではリーゼさんのデュラハンさんへの認識が凄い可哀想なことになってしまいます。
「各国と貿易することになったんやけど、こっちから輸出できるもんがない」
「ああ」
魔王様の言葉に納得する魔族たち。
一応輸出できそうなものは幾つかあるのですが、人間側が何を輸出されれば喜ぶのかが前例がないので分からないのです。
ちなみに輸入するものは魔王様が独断と偏見で自分が欲しいものに決めました。
「魔界にも人間は少数ですがいるのですから、彼らに聞いてみればいいのでは?」
「でもその人らほとんど魔界育ちやん。うちにあって人間の国にないものなんか分からへんよ」
「魔剣の類でも出せばいいのでは?」
「気軽に兵器輸出すんな!?」
「メガス!?」
相変わらず脳筋なサイクロプスさんに、机を乗り越えフライングニーを放つ魔王様。
魔王様の膝が目に刺さったサイクロプスさんが床をゴロゴロと転がっています。
「友好国ならまだしも、そこから教会あたりに流れたらことですものね。服やアクセサリー類ならまだいいんじゃないかしら」
「アクセー? こっちとセンスが合うかなぁ」
ミラーカさんの提案に懐疑的な魔王様。
さすが魔族と言うべきか、魔界の面々は黒だの赤だのといった色にごてごてとしたベルトやフリルなど、中二病患者が喜びそうな服装が多いのです。
むしろ日本のコスプレ業界に喜ばれそうな輸出品です。
「魔法学園のあるフィッツガルドに魔石を輸出すれば喜ばれるのでは? 数と使用用途を厳密に監視することを受け入れさせる必要はあるでしょうが、研究用の魔石はいくらあっても足りないといわれていますし」
「え? うちって魔石とか取れるん?」
デュラハンさんの提案に驚く魔王様。
そんな中二病魂をくすぐるアイテムがあるなど初耳です。
「元から魔力を多く持つ魔族にとっては使用用途が限られますから。高純度のものは鉱山などから取れますが、その辺の石ころにも微弱な魔力は宿っていますよ」
「マジかい。ここ本当に魔界やったんや」
「今まで何だと思ってたんですか」
デュラハンさんのつっこみはもっともですが、魔界は普通に人間界から船出せば来れるので、日本人な魔王様の認識も仕方ありません。
でも神話とかだと徒歩であの世から帰って来たりする人も居るので、ファンタジー世界では異世界が隣にあるのも当たり前なのです。
「あとは……もうあちらに決めてもらう方が確実で早いのでは? いっそ各国の要人を魔界に招待すれば、友好的なことをアピールできますし、こちらの内情も分かってもらえてよいかと」
「なるほど。でも教会がちょっかい出してこんかなあ?」
大陸一の大国であるフィッツガルドとの同盟は既に公になっているのですが、教会はそれでも自称勇者を量産して魔界に送り込んできています。
しかし最近では、むしろ冒険者たちの目的は魔王様ではなく魔王城のトラップ突破になっています。
現状人間で唯一正面突破を成し遂げたリーゼさんなどは、トップクラスのシーフであると称賛され様々なパーティーや国から引き抜きが来るほどです。
マサトくん?
バグった人間とか引き入れても面倒くさいことになるのは皇帝陛下が証明しています。
「それこそ被害者面してやればいいのよ。『私たちはこんなに人間と友好関係を結ぼうと努力しているのに、神殿の人間たちは魔族を虐げています』って」
「ああ。皇帝あたりが乗ってくれたら面白いことになりそうやな」
「いっそわざと引き入れて暴れさせる手もありますね」
ミラーカさんの提案に乗り、魔族らしく悪だくみを始める魔王様たち。
今日も魔界は平和です。




