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第50話『|ぼっちエルフ《アリーナ》は転生者に狙われている』(第三者視点)

(第三者視点)


 アリーナが姿を消してから、約三ヶ月の月日が経った。

 世界はアリーナが作り替えた日から変わらず、穏やかで平和な日々が流れている。

 一部の者たちを置き去りにして。


「いつまでそうやってるの?」

「……エルフリアには関係ないでしょ」

「あっそ。じゃあ、ずっとそうやって閉じこもってれば? もう付き合ってられない。私は行くよ」

「エルフリア……!」

「何さ」


 エルフリアが住まう森では、よく似た見た目のエルフリアとシルヴィアが睨み合い、言葉をぶつけあっていた。

 アリーナが消えた日から、一度大喧嘩をして、互いに近すぎず、遠すぎずの距離を保って今日までの日々を過ごしてきた。

 しかし、エルフリアはもう限界であった。


 アリーナの願いが……心の声が聞こえたから、シルヴィアとも仲直りをしようとしたが、シルヴィアは意地を張ってばかりで、本心を語ろうとしない。

 エルフリアが住んでいた洞窟の奥で膝を抱えて俯くばかりだ。

 早くアリーナを探しに行きたいエルフリアにとっては、煩わしいだけの存在であった。


「私は、エルフリアとは違う」

「知ってる」

「アリーナは私を甘やかしてくれない!」

「十分甘やかしてたよ! 私もシルヴィアも!」

「私は魔女だもん! アリーナは私の事なんて……!」

「~~! アリーナの願いは! 封印された魔女を救う事だったんだよ! シルヴィアの事が魔女だって知らなくても! どんな人か知らなくても……助けようとしてたんだよ」

「……エルフリア」


 エルフリアはポロポロと流れる涙を腕で乱暴に拭って、滲んだ視界のまま、迷子の様な瞳で見上げるシルヴィアを睨みつける。

 アリーナと出会う前の自分と同じ姿をしているシルヴィアを。


「これだけの事をやっても、アリーナはシルヴィアを助けたんだ。私も、アリーナに助けられた。だから、行く。アリーナを独りぼっちのままにしたくないから」


 エルフリアは歩き始める。

 アリーナに出会う前は出来なかった。けれど、今は一人で歩く勇気を貰ったから。


 エルフリアはどれだけ困難な道でも進むのだ。

 そして、そんなエルフリアを見て、シルヴィアは慌てた様に洞窟から飛び出した。


「わ、私も一緒に行ってあげるわよ」

「別に頼んでないけど」

「うるさいわね! 行くんでしょ! 早くアリーナの所に行くわよ!」

「だから、それを探しに行くんだって」


 呆れた様にシルヴィアへ言葉を返しながら、エルフリアはシルヴィアと共に転移を行った。

 情報を集めるのなら、冒険者組合と教わったからだ。


 という訳で冒険者組合へ来たエルフリアとシルヴィアであったが、そこでやや驚く様な光景を目撃する。


「なにこれ?」

「アリーナじゃない!」

「お? 何だなんだ。お嬢ちゃん達はアリーナ様の事を知っているのかな」

「……う、うん」


 エルフリアは壁に貼り付けられた捜索願いの張り紙を見ながらシルヴィアと話をしていたのだが。

 不意に死角から知らない冒険者に話しかけられ、警戒しながら少し距離を取る。

 かつてのアリーナと同じ様に、怯えるシルヴィアを背中に庇いながら。


「アリーナ様はなぁ。領主様のご息女様で、我らの姫様であったんだが、世界の危機に立ち向かわれてな。全てを元通りにして、どこかへ消えてしまったという話なんだ」

「……それで、探してるの?」

「そういう事さ。レスター殿下が直々に各領地、そして世界の国々と協力して、探しているという話だぜ」

「そう、なんだ。でも見つかっていない?」

「いや、見つかってはいるみたいなんだが、転移魔法という特殊な魔法で消えてしまうらしくてな。中々難しいようだ」

「そうなんだ。ありがとう」

「いや。いいさ。お嬢ちゃん達もアリーナ様をお見掛けしたら、近くの組合に教えてやってくれ」

「分かった」


 エルフリアは冒険者からの言葉を聞いて、シルヴィアの方を見た。

 シルヴィアは何も言わないまま小さく頷いて、そのまま二人で歩く。


 冒険者組合には珍しい小さな双子の美少女に、冒険者たちの視線を集めながら二人はゆっくりと建物から出て行った。

 そして、人の目が消えた瞬間に二人は森の中の洞窟の前に転移した。

 人と話す事が限界だったのか、エルフリアは両手を地面に付けて、荒い呼吸を繰り返しながら汗を地面にポタポタと落とす。


「だ、大丈夫? エルフリア」

「な……なんとか」


 シルヴィアはエルフリアの背中を心配そうに撫でて、声をかける。

 そんなシルヴィアにエルフリアは安心感を覚えながら、顔を上げて、何とか立ち上がろうとし……自分たちを見ている人の姿に気づいた。


 それは少し前まではよく見ていた姿で。

 アリーナが消えてからはずっと見ていなかった姿だった。


「エルフリアちゃん」

「……クロエ?」

「久しぶりね。元気だった……っていうのは、聞かない方が良さそうね」

「ううん。元気だったよ。でも、今、人がいっぱいいる場所に行っちゃって、ちょっと、疲れちゃっただけ」

「そうなんだ」


 エルフリアの言葉にクロエは目を見開いて驚いた様な表情になった。

 しかし、すぐに母親の様な慈愛に満ちた表情になると、エルフリアに近づいて、目の前でしゃがむ。


「実は、エルフリアちゃんに手伝って貰いたい事があって」

「アリーナのこと?」

「そう。アリーナちゃんの事」

「分かった。手伝う」

「良いの? 内容も聞かないで頷いて」

「良い。クロエはアリーナに酷い事しないから」


 エルフリアはクロエにぎこちない笑みを返しながら汗を拭いつつ立ち上がった。

 そんなエルフリアをシルヴィアは無意識の内に支え、クロエは二人に気を遣いながら少し離れた場所で話し始めた。


「それで、手伝ってほしい事って何?」

「うん。ズバリ! アリーナちゃんを捕まえたいんだ」

「転移で逃げるアリーナを私が捕まえるって感じ?」

「そう。でもエルフリアちゃんだけじゃ、難しいし、私たちも……「大丈夫」え?」

「私だけじゃないから。ね? シルヴィア」

「えっ!? わ、わたし!?」

「そう。アリーナを捕まえるの。協力してくれるでしょ?」

「……で、でも、私は」

「アリーナなら、直接会って話せば許してくれるし、甘えさせてくれるよ」

「やる!」


 エルフリアの言葉に、モジモジした態度を全て捨ててシルヴィアは両手を握りしめながらハッキリと宣言した。

 そんなシルヴィアを見てエルフリアは呆れた様な顔をしていたが、姉妹の様な二人のやり取りを見て、死後の世界から全てを見ていたクロエは安心した様に微笑むのだった。


 そして、遠い空を見て、誰かに聞かせる様に呟く。


「アリーナちゃん。世界は一人で背負う物じゃないよ。この世界に生きる、全ての人で支えていくモノなんだ」



 クロエが、エルフリアとシルヴィアを仲間にしたという報告は、様々な人の手を伝い、ミンスロー家にいるヘンリーの元まで伝わった。

 その報告にヘンリーは口元に笑みを作りながら、隣に座る『妹』に目を向ける。


「どうやらエルフリアは仲間になったようだ」

「えー。すごーい。エルフリアちゃんって、滅多に森から出てこない子でしょう? しかも協力してくれる事なんて殆ど無かったのに」

「まぁ、この世界はゲームの元になった世界かもしれないけど、ゲームの世界じゃ無いからね。そういう事もあるよ」

「アリーナちゃんとエルフリアちゃんがお友達になったって話でしょ?」

「あぁ。とても仲の良いお友達だったよ。だからきっと、アリーナも魔女(エルフ)になってまで助けようとしたのだろう。エルフリアとシルヴィアの二人をね」

「うんうん。ね? 言った通りでしょ? アリーナちゃんは優しい子なんだよ」

「分かっているよ。流石は俺の妹だ。ゲームをやっていた頃から気づいていたなんてな」

「えへへ」

「まぁ、でも。だからこそ迎えに行かなくてはいけないな。俺たちの妹をさ」

「はい! 承知いたしましたであります!」


 ヘンリーたちは椅子から立ち上がると、部屋の外へ向けて歩き出しながら出かける準備を始める。

 アリーナを捕まえる為に必要な最後のピースがおまけ付きで手に入ったのだ。

 一秒でも早くアリーナの元へと向かいたい気持ちがあった。


「でも、大丈夫なの? アリーナちゃん、転移で逃げてるんでしょ?」

「問題はないよ。俺と一緒に戦った仲間も居るし。それに全世界へアリーナの捜索願を出した事で、世界中に居る転生者たちが動き始めるさ」

「アリーナちゃんを狙って?」

「そう。アリーナは人気者だからね。独りぼっちのままにしておきたい奴なんていない」


 どんなゲームであったとしても、この世界を舞台としているのなら、アリーナが活躍していなかった訳が無いから。

 だから、世界中から転生者がアリーナを求めて集まってくるはずだ。

 きっといつまでだって、どこまでだって逃がす事は無いだろう。捕まえるまで。


「まぁ、しかし、どれだけ転生者が集まっても、きっと最後には……」

「エルフリアさんが捕まえる?」

「さて、どうかな? 俺たちも負けてはいられないよ」

「アリーナちゃん捕獲作戦いくぞー! えいえいおー!」


 ヘンリーは転生する事で元気になった妹に微笑みながら、大空の下へと駆けだした。

 誰よりも早く、逃げるあの子を捕まえて、孤独の中から、愛のある世界へと取り戻す為に。



ぼっちエルフ(アリーナ)は転生者に狙われている』


 彼女が誰かと共に生きる世界に帰るまで。

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