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混戦! ジューズゥ教と脅威の造獣魔法!

「え、と……」


 自分を拘束していた者が倒され、自由になったエイミイが困惑気味に三人の事を見つめる。


「お初にお目にかかります、巫女様」


 浅く頭を下げる、先頭に立つ人影。

 口調こそ落ち着いているが、その姿は幼い少女のものだった。


「私の名前はジルベルト・ブルーナ。ジューズゥ教の者です」


 年はリニスのそばに居るキーリと同じ位で、四本の長いクアッドテールをぶら下げ、年齢にそぐわない、落ち着いた大人びた表情で微笑んでいる。

 手には、一部は金属製だが大部分が木製の長い筒を持っており、彼女の後ろに居る二人も同様の筒を持っていた。


「邪神崇拝のジューズゥ教が、私達に何の用かな~?」


 リニスが作り笑いを浮かべて聞く。

 突然警告も無しに沢山の仲間を吹き飛ばされたのだ。

 内心はらわたが煮えくりかえっている事だろう。


「まぁ、邪神崇拝だなんて酷い言い方」


 そんなリニスに対して、ブルーナが肘まで覆うロンググローブをした手で口元を押さえ、わざとらしく馬鹿にする様な態度をとる。


「ぐあぁ!」


 突如叫び声。

 建物の陰からソッと姿を現したリクレム教の教徒が吹き飛ばされた。

 吹き飛ばしたのはブルーナの左後ろに立つ少女。


「るーちゃん、油断しちゃ駄目だよー。物陰から狙われてたよ?」

「……仮にも上司に対してその呼び方、やめていただけます? それと、今の方はただ様子を見に少し顔を出しただけで、そんな事をするつもりは無かったと思いますわよ?」


 少女は拳士と同じ位の年齢で、髪は長いツインテール。

 印象的なのはその無表情だが、無表情なのに暗いイメージは不思議と無い。

 ブルーナの持つ物と同じ、木製の筒を構えている。

 筒の長さは大体一メートル。

 筒は真っ直ぐでは無く、片方の幅が少しだけ広がり曲がっている。

 拳士がその筒を見て目を細めた。


「銃……?」


 拳士の記憶にある物と比べると、火縄銃の様な旧式の小銃と形が似ている。

 だが、そこから撃ち出された弾は小石だった。

 撃つ時に火薬の音も聞こえない。

 装填するところを見ていると、銃は銃でも銀玉鉄砲の様に、上から小石を一個ずつ入れて撃っている。

 どういう構造かはわからないが、小石が飛ぶ速度を見るに、結構な威力がありそうだ。


「ジゼルちゃん?」


 そこで、小石を撃っているのが自分だけだと気付き、ツインテールの少女が筒を構えたまま、もう一人の少女に呼びかける。


「あ、あの、すみませんアメリーさん。石が詰まっちゃいました……」


 呼びかけられた少女が、筒にある石の投入口を覗きこんで泣きそうな顔をしている。

 髪は長い一本のポニーテール。

 歳は、アメリーと呼ばれたツインテールの少女より少し下に見える。


「そっかぁー……。じゃあ、はい」

「わ、わわっ」


 するとアメリーが、自分がジゼルと呼んだポニーテールの少女に、自分が手に持っていた筒と、小石の入った袋を投げる。


「ジゼルちゃんの『射石筒』と石を私に渡して。そしてジゼルちゃんは、代わりに私のを使って」

「あ、でも、あの……」

「ほら、早く」

「はい。……その、すみません……」

「いーんだよー。ジゼルちゃんのミスは想定してた事だから。気にしないで」

「…………すみません」


 ジゼルが落ち込んだ顔をする。


「……全く。アメリーさんの言い方だと誤解してしまいますわ。いいですか? ジゼルさん。射石筒の石詰まりは、新人なら誰もが経験するミスなんです。慣れない実戦なら緊張感もあって尚更。アメリーさんの想定していた事というのは、そういう意味ですからね? 別にあなたの実力がどうとかいう話では無いんです」

「そうそう。だから気にしないでいいよー」


 アメリーがコクコクと頷きながら言う。


「ブルーナ様、アメリーさん……」

「ほらほら、いいから早く狙ってー」

「あ、は、はい!」


 ジゼルが慌てて筒を構える。

 何だかんだで彼女達は優秀なのだろう。

 こんな雑談をしながらも、ブルーナは物陰から少しでもリクレム教の教徒が姿を現すと、すかさずそこに小石を撃ち込む。 

 アメリーも、ジゼルから受け取った銃を解体し、詰まった石を外すとすぐにまた元に戻し、射撃に参加する。

 ジゼルの用意した石には、弾として使うにはサイズが合わない物が混ざっていたらしく、アメリーはそれを捨てながら撃っている。


「……チッ」


 一切隠れる様子も無く立っているリニスにもその小石は飛んできているのだが、それらはリニスに当たる前に粉々に砕ける。

 何かの魔法の力だろう。

 リニスの近くに居るキーリにも小石は届かない。


「あぁ、そう言えばお話の途中でしたわね」


 不機嫌そうなリニスの顔を見て、ブルーナがふと思い出した様に言う。


「私達は巫女様を迎えに来たんです」

「え、私を?」

「はい、巫女様。あなた様がリクレム教のイカレっぷりに嫌気がさして逃げ出したというのを聞き、でしたら私達のところにと……」

「はぁ? イカレてんのはどっちよ。……つーかそこのツインテール女!」

「?」

「何不思議そうな顔してんのよ! それ撃つのやめろ!」

「やだー」


 リクレム教の教徒達が警戒して隠れたまま出てこなくなり、狙う相手がいなくなったからと、アメリーが射石筒で延々リニスを攻撃し続けていた。


「ウザい!」


 リニスが腕を大きく振ると、それに合わせてジューズゥ教の三人が地面に飛び降りる。

 すると、三人の立っていた建物の屋根が、見えない何かによって破壊された。


「全く……だから貴方達は野蛮だと言うのです」

「ジゼルちゃん、怪我は?」

「はい、大丈夫です!」

「そっか。じゃあ、るーちゃん。私があの女を潰すから、るーちゃん達は巫女様をお願い」


 言うとアメリーが、リニスに向かって射撃筒で小石を撃ちながら接近する。


「だからさっきから何だってのよあんた!」


 一方ブルーナとジゼルは、エイミイの元へと向かう。


「チッ! おいこらぁ! てめぇ!」


 向かう途中、ヴァレルにも小石を飛ばして牽制する。


「俺の事は撃たなくていいのか?」


 エイミイの元へとたどり着いた二人に、小石での牽制のおかげでヴァレルの邪魔が無くなり、自分もエイミイにやっと近寄れた拳士が聞く。


「巫女様を見ればわかります。貴方は敵ではありません」


 そしてブルーナはチラリとエイミイを見ると、クスリと笑う。


「そんな顔をしないで下さい、巫女様」

「え?」

「迎えに来たとはいいましたが、別に私達は無理に貴方様を連れて行こうという訳では無いのです。リクレム教に貴方様が奪われるのを阻止する事が、私達が最優先する目的です。勿論、私達と共に来ていただけるというのなら、それに越した事は無いのですが、望まないのであれば、無理に連れて行こうとしたりはしません」

「で、ですけどブルーナ様、それだとここで一度止めても、いずれまたリクレム教が……」

「では貴方は、安全の為だから、巫女様の為だからと言って、無理やりジューズゥの拠点まで連れて行き閉じ込めてしまえと言うのですか? リクレム教がしたみたいに」

「そ、それは……」


 ジゼルが口をつぐむ。


「そういう訳です、巫女様。私達はリクレム教とは違います」


 ブルーナがニコリと微笑み手を伸ばす。


「何より貴方様の幸せが、私達が第一に優先する事です」

「はっ、言ってくれるじゃない」


 それが聞こえていたのか、リニスが不愉快そうに言う。


「何か私達を勝手な決めつけで悪者扱いしてるけどさー」

「みこさま」


 キーリが泣きそうな顔でエイミイを見つめる。


「みこさまは、嫌だったの? わたし達と一緒に居るの、嫌だったの?」

「……それは…………」


 エイミイがキーリから無意識に視線を逸らしてしまう。


「嫌じゃなかったら逃げないから」

「え?」


 アメリーが辛辣な事を言ってリニスに小石を撃つ。


「巫女様もそこ、子供相手だからって伏せたら話拗れるし、はっきり言わなきゃ駄目だよ」


 リニスがアメリーに腕を振ると、目視は出来ないが何かが放たれたらしく、アメリーが不自然な動きをして回避する。

 すると先ほどの屋根の様に、背後にあった物が破壊され、吹き飛ぶ。


「案外子供だって言えばわかるもんだよ。可哀想だからって大事な事隠したら、そっちの方が可哀想」

「…………そう、かもしれないね」


 エイミイが頷く。


「ねぇ、キーリちゃん。聞いて? 私――」


 エイミイがキーリに、本音を告げようとする。


「こ、こっち来ないで下さい!」

「だったらてめぇも撃つの止めろや!」


 するとその横で、ジゼルがヴァレルに追い掛け回されていた。

 何となく一同の視線がそっちに行ってしまう。


「…………えと、コホン……」


 改める。


「キーリちゃん、あのね?」

「エイミイ危ねぇ!」


 拳士がエイミイを抱きかかえて飛ぶ。


「あちゃー……巫女様大丈夫ー?」


 リニスを狙った小石の一つがリニスに弾かれて、エイミイに向かって飛んできていたのだ。


「あ、あんた巫女様に何やってんのよ!」

「それこっちのセリフだよリクレム教。風の魔法で小石を弾くから、巫女様の方に飛んでっちゃったんじゃん。大人しく当たりなよ」

「はぁぁああ!?」

「あ、あのね!? あのね、聞いて! キーリちゃん!」

「エイミイ、待て。話は後にしろ。今はごちゃごちゃし過ぎてて無理だ」

「拳士君……」

「そうですわね。ここは一旦引きましょう。アメリーさん、ジゼルさん。どうですか? 引けそうですか?」

「む、無理です~!」「無理かも」


 二人はヴァレルとリニスから逃げられない。

 そうやってモタモタしていると、小石で撃たれるのは致命傷にならないらしく、仲間の回復の魔法で意識を取り戻したリクレム教の教徒たちが次々起き上がり、周りを囲みに入る。

 ネタさえわかれば、小石は魔法が使える物は魔法で防ぎ、魔法が使えない者も盾代わりになる物があればそれで防ぐ事が出来るので、射石筒で倒し辛くなっていく。


「マズいなこりゃ……」


 エイミイを抱えた拳士が苦々しい表情になる。

 リクレム教の教徒達だけが相手なら、エイミイを抱いたまま強行突破出来るのだが、ヴァレルが居る。

 彼に背を向けて逃げに徹するのは危険だ。

 それに、強行突破するにしても、ジューズゥ教の三人の面倒まで見ていられない。

 率直に言うと、見捨てる事になるだろう。

 それも後味が悪い。


「兄様ぁーーーー!」


 そこへ、不幸な事に予想外の敵の援軍が。


「おう、フラヴィか!」


 ヴァレルの妹のフラヴィだった。


「兵隊連れて来たよー!」


 いつの間にかいなくなっていた彼女は、外壁の内側に行き、トラブルが起きたと兵達を呼びに行っていたのだった。

 軽く見ただけでも、十人は越えているだろう。


「おいおい、どうすんだよこれ」


 拳士の表情が増々険しくなる。

 ヴァレルの取った行動を考えると、兵達もきっと国の為だとリクレム教の味方をするのだろう。

 そうなると、拳士はかなり困った事になる。

 サヤ達の事だ。

 今ここで拳士が兵達とやりあえば、富裕層のエリアに居るサヤも関係者として逮捕されるかもしれない。

 すると、サヤを富裕層に連れて行ったエリゼ達にも迷惑をかける事になるだろう。


「おい、お前達! 何をやっている!」


 兵達の先頭に立つ、大柄でガタイが良く、ゴツい顔をした兵士が叫んだ。


「あー、私達はですね~……」


 リニスが自分達の立場と目的を説明しようとする。


「言い訳はいい!」

「え?」


 だが、リニスの言葉を聞かず、大柄な兵が兵達に命令をする。


「全員、確保!」


 兵達が一斉にリクレム教の教徒達に襲い掛かる。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと!?」


 リニスが焦る。


「馬っ鹿、ちげぇよおっさん!」 


 ヴァレルも焦る。


「今捕まえるのはこいつらじゃなく!」

「また貴様か、ヴァレル! 今度という今度はコラール家とて容赦はせんぞ!」


 だが、大柄な兵はヴァレルの言い訳を聞かない。

 手に持った巨大な槍をヴァレルの脳天目掛けて振り下ろす。


「クッソがぁぁああ!」


 ヴァレルがジゼルから大柄な兵へと戦う相手を変える。

 だが、まだ安心は出来ない。

 当たり前だが兵達は拳士達を区別したりはせず、拳士やエイミイ、ジューズゥ教の三人の事もリクレム教の教徒達同様捕えようとするのだ。


「チャンスだな」


 しかし、その状況を見て拳士の口角が上がった。

 自分達のみが集中的に狙われる今までの状況に比べれば、ずっと動きやすい。

 混乱に紛れて逃げ出そうとブルーナと目を合わせ、頷き合う。


「逃がさないからね!」


 だがそのアイコンタクトを見て、リニスが叫ぶ。


「な、何だこれは!?」「うわぁぁああ!?」「伏せろ! 全員伏せろ!」


 そして両腕を広げると、一帯を囲む様に風の魔法を放った。


「クソ!」


 逃げ道が塞がれた。

 風で出来た見えない壁。

 ここに何も考えずに突っ込めば、全身が切り裂かれてしまう。


「みんな、みんな!」


 突然の状況に、キーリが狼狽えて叫ぶ。


「キーリ様! 私から離れないで下さい!」

「どうしよう! みんな……どうしよう!」

「大丈夫ですから! 落ち着いて下さい!」

「殺されちゃうの? みんな、殺されちゃうんでしょ?」

「殺……え!?」

「だ、だって、いきょうとの人達は、わたし達を捕まえて殺すって……」

「そ、それはですね?」

「リニス、嫌だよ……わたし、わたし……みんなが……」

「キーリ様…………? ……!? だ、駄目ですキーリ様! それは使っちゃ――」

「だってみんなが、みんなが殺されちゃう!」

「キーリ様!」

「みんなを助けたいの!」


 風の魔法を止め、リニスが慌ててキーリに手を伸ばそうとする。


「キーリさ……キャァァアア!」


 だが、キーリの体から発せられた魔力に吹き飛ばされてしまった。


「な、これは……!?」

「はは、おいおい嘘だろ……?」


 戦っていた大柄な兵とヴァレルの二人が動きを止め、キーリを見て冷や汗を流す。 


「キーリちゃん!」

「おい、これは何だエイミイ? 何が起きようとしてるんだ?」


 キーリの体から放出されている膨大な魔力が冷気へと変わり、辺りを凍らせていく。

 更にその冷気は、キーリの周りで少しずつ何かの形を作っていく。


「『造獣』魔法……」

「何?」


 拳士の横に立ったフラヴィが呟く。


「見てればわかるよ」


 彼女の言う通りだった。

 皆の見ている前で、キーリの周りに集まった冷気が巨大な獣の姿へと変わっていく。

 拳士の知っている生き物で言うと、犬や狼に近いだろうか。

 だが、その顔に犬や狼の様な耳は無く、頭や目、鼻も無い。

 あるのはただ、大きな口だけ。

 体高だけで十メートルはあろうというサイズ。

 それが、一頭だけではなく四頭も生み出されている。

 その身はあくまで冷気で形作られており、明確な肉体がある訳ではない。

 その姿は、獣の体内に含まれる空気中の水分が氷結する事で見えているのだ。

 冷気で作られた獣。

 肉体は無いが獣には質量があるらしく、獣の足元は沈み、更に踏んでいる場所を凍らせていく。


「全員、撤退!」


 リニスが叫ぶ。

 それを聞いてリクレム教の教徒達が、獣を見て呆然としていた兵達を振りほどき、逃げ出す。

 兵達も教徒達より今目の前に居る獣の方が問題だと、それを追おうとしない。


「キーリ様……すみません!」


 リニスがキーリに腕を振る。

 するとキーリのローブがバラバラに切り裂かれた。


「………………」


 キーリが自分の体を見下ろして、次にリニスの事を見ると、ニコリと青白い顔で微笑み、その場に倒れ込んだ。


「…………っ!」


 リニスが辛そうな顔をしながらも、他のリクレム教の教徒達同様、逃げ出す。


「待て! 貴様!」


 大柄な兵が呼ぶが、無視する。

 後には、倒れ込んで気を失っているキーリと、巨大な四頭の冷気の獣が残された。

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