【72】side:ちび殿下との邂逅
――――side:レイヴン
俺は当初の目的だった王都騎士隊本部にやって来た。
入隊書類に必須のステータス(もちろん文字化け)と申し込み書類を提出し俺は試験に臨んだ。
やはり文字化けステータスのせいで書類審査を落とされるかもしれないとも思ったのだが何故だか通っていた。エストレラ国民であるなら、文字化けステータスでもいけるのか……?
続いて一般常識程度の筆記試験、その後は実技試験だ。
俺は筆記試験(名前を呼ばれないというトラブルもあったが)を無事パスし実技に臨んだ。実技試験には貴族出身のホープがいるらしく、皆の注目はそちらに向かっていた。俺は試験を通ればそれでいいので興味はない。実技試験はトーナメント式であった。成績は上の方が入隊には有利だな。
……あれ?俺、呼ばれない?
試験官に尋ねてみると、名前が名簿にあることを確認してくれた。
そしてもうトーナメントは終盤らしく、決勝戦ということで例のあのホープと当たってしまった。
うわ――――……。けど、ここで負けたら実技試験のポイントが……っ。仕方がない。目立つのは嫌だけど影の薄さでそこはごまかせるよね……?
……うん。どれほどの実力なのかはわからないが……念のため本気で行こう!兄さんたち級に強いかもしれないんだから!
――――試験開始の合図が鳴った。
よし……っ!行くぞっ!
俺は持ち前の素早さで相手の懐に入り込み、剣で薙ぎ払う!兄さんたちなら軽く受け止め、次に攻撃をしかけ……。
しかけ……。
しかけ……て来ない?
見るとホープが壁にぶつかり気絶していた。ま、まじで……?
「えっと……勝者……名前何だったかな……?」
おい。もう忘れたのか試験官。
――――夕刻
筆記試験はまずまずだったし、実技試験は飛び入りたいな形だったけど決勝戦に勝ったしな。もしかしたら受かるかも?そんな期待を抱いていた時だった。
「レイヴン・フォン・タイタン!レイヴン・フォン・タイタンはいるか!」
待機室に試験官の大きな声が響く。
「あ、俺ですけど」
「……?……あぁ、君か。ちょっと来なさい」
何だろう?何かあったのか?試験官につれられていく途中、何か鋭い視線を感じた。見てみるとあのホープが俺の方をじっと睨んでる……気がした。
――――
「レイヴン・フォン・タイタン君……だね?」
「はい」
いかにもなお偉いさんが並ぶ部屋に呼び出された俺。これ、明らかに尋問では……?何かやったっけ。決勝戦でホープをぶち飛ばした件か?それとも文字化けステータスの件か?
「実は、君が試験で不正を働いたという密告があった」
はい……?
「君はまんまとエストレラ王都騎士隊に潜入し筆記試験問題を事前に入手し、パスした。そして実技試験においては特殊な魔道具を使い周囲をかく乱させ、あたかも自分が勝利したかのように見せかけた」
……え?
「素直に白状したほうが、身のためだぞ」
いつの間にか俺を屈強な騎士たちが取り囲んでいた。
「どういう……ことでしょう?」
「まだシラを切る気か!ここに証拠もある!」
お偉いさんが見せたのは俺の文字化けステータスだった。
「ステータスを偽装し、我が国にまんまと紛れ込んだ!」
「そ、そんな。それじゃぁ俺がまるで……」
「どこの国のスパイだ。吐け!」
「星の使徒の可能性も……」
す……スパイ!?星の使徒ってのは確かエストレラの影に暗躍すると言われる違法集団では?確か兄さんたちがそんなことを話していたことがあったかも。でもそんな……俺は……っ!
「俺は産まれも育ちもタイタン領です!苗字にだってタイタンが……っ」
「タイタン……?どこだ?それは」
「そんな領聞いたこともない。スパイならせめて実在する領にしておくんだったな」
「尤もそれではすぐに身元が割れるがな……」
な、何を言っている……?いくらエストレラ北端の辺境領だからって、同じく北方区域群に数えられる西部辺境のユキメ領ですらちゃんと知られているのに。
「タイタン領はシュテルン州にある領です!」
タイタン領はシュテルン州を治めるシュテルン公爵とは疎遠だが、行政上はシュテルン州に分類される。
「シュテルン州にそのような領はない。これはシュテルン公爵家からの正式な回答だ」
え……?何で?どうして……。タイタン領はシュテルン公爵家とは疎遠で領主交流もほとんど行っていない。だけどシュテルン州をまとめる総領主だろう?いや、だからか?シュテルン公爵家を長年敬遠してきたタイタン領をシュテルン公爵家が破門したと言うことか?けれどその根本的な原因はシュテルン公爵家にあると学んだ。だからタイタン領はシュテルン公爵家には媚びないと。
その長年のタイタン領の態度がそもそもの原因なのか……?だからこうしてタイタン男爵家子息の俺に報復をしようとでも言うのか。
「このスパイを捕らえろ!」
「拷問して何が何でも吐かせるんだ!」
やばい!つかまったら……何をされるか……っ!
俺は無我夢中で騎士たちの追撃をひらりとかわし、夕闇の中を駆け抜けた。
――――気が付けば俺は城内の暗がりの中にいた。ここはどこだろう。逃げる途中、城にスパイが忍び込んだだのスパイが逃げただのいう声を聞いた。完全に手配されている。早く城を抜け出さないと。でも、どこへ行けばいい……?今更タイタン領に帰ったら、俺が逃げ込んだとしてシュテルン公爵家の報復があるかもしれない。でも帰らなったとしても、何らかの報復があるかもしれない。
なにせタイタン領は長年シュテルン公爵家を無視し、敬遠してきたのだから。今こそ好機と捉えられるかもしれない。
ん……?……何だろう?これはさっきのホープの意殺すような眼光とは違う視線だ。殺意もない、気配がない、感情もない……だけど、いる。
誰だ……?暗闇の中に確かにそれはいた。
「わふたん
「……え?」
足元からかわいらしい声がしたような。
「わふたん」
また……っ!そして俺の足元には狼耳しっぽのパジャマを着たちびっ子がいた。てかわふたんって何だ?
「俺はタイタンだけど」
「たんたん!」
「いや、たいたん」
「たんたん!」
「……分かった分かった。いいよ、たんたんでも」
ぱああぁぁぁっっ!ちびっ子が顔を輝かせる。
「たんたん!」
ちびっ子は嬉しそうにたんたんコールを始めた。あ、でも騒がれたらまずいんじゃぁ……。
「ににさま、たたんたん?」
「たんたん」
「たんたん?」
「たたたんたん」
いつの間にかちびっ子が増えていた。狼耳しっぽパジャマのちびっ子よりも小さな女の子だ。羽耳とふわもふしっぽを持っているから羽耳族だろうか。しかし白っぽい毛並みだし天人族の可能性もある。
『たんたん、たんたん、たんたん!』
「あ……ちょ……っ!静かに……!」
兄妹のように息ぴったりに大合唱を始める。あれ、でもここって城だよな?何故こんなちびっ子たちがいるんだろう。
「ここへ侵入するとは何者ですか」
背筋がぞくりとした。気配が何もなかった。そして感情の起伏さえ感じさせない。しかし背筋が凍るような何かを感じた。俺はゆっくりと背後を向く。
「なんて、冗談ですよ?」
背後には先ほどの緊張感が嘘のように柔和な笑みを浮かべてくる爽やかな男性がいた。先ほどのはこの人が……?とても信じられないけれど、声のトーンは違うが声色は同じだ。
「えっと……貴方は一体……」
「ヨシュア・シュヴァルツと申します」
ヨシュア・シュヴァルツ……どこかで聞いたような。確かテレビで……そうだ……確か平民出身の……。
「お……王配の?」
「おや、ご存じなようで光栄です」
「……てことはこちらは王子殿下、姫殿下でしょうか」
「クロムウェルとイヴです」
「……」
第2王女イヴ姫様か。聞いたことがある。めちゃくちゃかわいいらしいってテレビで話題になっていた。確か天人族と魔人族の血が入っているとか。
そしてクロムウェル殿下。忌み付き王子と呼ばれるがそんな感じは全くないし、なによりこの子はクォーツ地方の……。それを考えたらひどく不名誉な称号だろうな。
「あ、えっと……挨拶もせず失礼いたしました。ヨシュア様、クロムウェル殿下、イヴ姫殿下」
『たーんたん!』
ちびっ子たちが無邪気でかわいい。
「いいのですよ。お気になさらず。レイヴン・フォン・タイタン殿?」
「……っ!」
俺の名前を知っているということは……俺、騎士に引き渡されるんだろうな。他国のスパイとして。それならいっそ人暴れして逃げ出すか……?けれどこの柔和な笑みを浮かべるこの人から逃げられる気はしない。さらにそれ以外にも気配がする。この部屋を囲うように10人といったところか。気配を消し感情を消した得体のしれない集団。
「……分かりました、投降します」
「おや、素直ですね?」
「たんたん!いっちゃやー!」
「たんたんたーん!」
「こらこら、ふたりとも。たんたんはお仕事があるのですよ。紅消、ふたりを頼みます」
「はい」
不意にちびっ子たちの後ろに黒ずくめの少年が舞い降りる。10人の内の一人だ。俺より3~4歳年下だりうか。彼らは一体何者なのだろう。
「ついてきてください」
ヨシュア様は背を向けて俺を先導する。だからといって隙があるわけではないし、先ほど部屋を囲っていた10人の内3名ほどが同行し、道中にも潜んでいることが分かった。ここは大人しく捕まろう。ごめん、タイタン領の皆。
「それではこちらへ」
ヨシュア様が促し小さな別室へ案内すると、そこにいたのは見覚えのある男性だった。
「ま……マティアスさん?」
何故マティアスさんがここに……っ!?




