【73】side:たんたん副隊長
――――side:たんたん
腹をくくってヨシュア様の案内してくれた部屋に入ると、そこには冒険者ギルドで出会った茶狼族の男性マティアスさんがいた。
「よう、レイヴン!探したぜ」
……そうか。きっとマティアスさんも王都騎士隊の一員で俺を探していたのか。
「ま、とりあえず座れ」
「は……はい」
取り調べだろうか。ヨシュア様が軽く一礼して部屋を後にする。しかしその後も俺を監視するかのように気配を殺した何かが潜んでいる。
「王都騎士隊の入隊試験はどうだった?」
「……それはご存じなのではないですか?」
からかわれているんだろうか。
「んー、何かお前指名手配されてたな。王都騎士隊に」
王都騎士隊の一員だとしたらえらく他人行儀な言い方だ。マティアスさんは王都騎士隊の一員ではないのだろうか。
「何やったんだ?」
「……普通に試験を受けて、実技試験の決勝戦で勝っただけです」
「それでスパイ容疑か」
やっぱり知っていたようだ。
「俺はどうなるんですか?」
「んー、それはお前次第だな……」
「そんなこと言われたって、これからどうすればいいかなんて分からないです。俺はどうなってもいいんです。ただ家族やタイタン領の皆には手を出さないでほしいです。皆は何も悪くないんです」
「……んじゃ、とりあえず俺の部下になるか?」
……へ?部下?
「どうだ?エストレラでも花形職だ。悪くないと思うぜ」
花形?マティアスさんって一体……?
「どうする?」
ど、どうするって……まだ具体的な仕事内容とかも聞いていない。
だがその時。
ドドドドドドドドド……っ
ものすごい音が近付いてくる……!?
な……何だ!?外から激しい足音が聞こえてくるっ!!
そして扉が放たれ、王都騎士隊の隊服を来た屈強な騎士たちがなだれ込んできた。
「レイヴン・フォン・タイタンだな!大人しく同行してもらうぞ!」
「レイヴン、お前は王都騎士隊と行きたいか?それとも俺んとこに来るか……?」
「……っ」
ど、どうしよう……絶体絶命だけど、王都騎士隊にスパイとして連れていかれるくらいならいっそ……!
「ま、マティアスさんと行きたいです」
「そうか。それなら……」
マティアスさんが立ち上がり、俺を庇うように立ちはだかる。
「おい、おめぇら。いい加減目ぇさませ」
マティアスさんが手をパシィっと叩くと、マティアスさんから何か覇気のようなものを感じ取る。何かが破られたような気がした。
「……マティアス隊長……殿?」
「何故……我らはここに」
「誰かを探していたような……」
王都騎士隊の隊員たちが首を傾げている。
「オラ、とっとと戻れ。ここは近衛騎士隊の領分だ」
ん、近衛騎士隊?
「は、はい!」
「申し訳ありません!」
王都騎士隊の隊員たちが一斉に退散していく。
「後でお前らんとこの隊長に苦情入れっからな~~」
へらへらと笑いながらマティアスさん……いや隊長が俺を振り返る。
「……と言うわけで入隊試験な!」
はい?いきなり……?
マティアス隊長につれられ演習場にやってきた俺の前には黒髪の魔人族の男が立っている。明らかに強そう。そしてなにより顔が恐い!
「いきなり呼び出したかと思えばなんだこれは。
ただでさえ人手が足りない時に」(くわっ!!!)
渋くて……ドスの効いている声。それだけでもう恐くて、俺もうおうち帰りたい。
ふええぇ……。
「だからこそだよ。ザック!お前のコンビにいいかなってさ~」
こ……コンビ!?この恐い人と!?むりむりむり!!!
「ふん……がっかりさせるなよ」(ギロッ)
「ひいっ!」
そういうとザックさんは足を踏み込み、俺に向かって来る。
うわっ!速いっ!
持ち前の素早さを活かしザックさんの剣戟をかわしていく。
「かわすだけでは俺にはかなわんぞ」
うう……っ!でも、これくらい兄さんたちとの鍛錬に比べれば……っ!ザックさんの剣戟を受けては祓い、攻撃を放っていく。
いつも種族の違いを感じては悔しくて、兄さんたちの鍛錬についてゆけるよう次第に磨いた剣戟だった。
「……っ!ほう、お前面白いな……。だがそれでは彼らには勝てんだろう……?」
……!彼らってザックさんは兄さんたちのことを知っているのか!?俺のタイタン姓を聞けばわかることだが……。次の瞬間ザックさんの放ってきた一撃は受け止めきれず、兄さんたちにいつも負けるときのように俺の体が吹っ飛んだ。
「いっつぅっ!」
「中々、面白かったが……。これくらいならまだぺーぺーだ」
ぺ……っ、ぺーぺーって……確かに実戦経験とかはないけど……っ!しかしその時だった。
「マティアス!お待たせしました~」
その場に似合わないまったりとした声が響く。
マティアス隊長の方を見ると袋にいろいろなものを詰めて持ってくるヨシュア様がいた。
「お!サンキュ!間に合ったか~~」
マティアスさんはそのうちの一つを取ろうとしてヨシュアさんに手を叩かれていた。
「もう、ちゃんと持たないとケガしますよ?」
「あぁ、わっりぃ」
「まぁ、茶狼族はそのバカ力で大体破壊しちゃいますけど……」
「はっはっは!そうか~?それほどでも~」
「褒めてません。……たんたんくん、でしたね?」
あ、いえ……タイタンなんですけど。それはちったい殿下方が大合唱された愛称です。
「こちらをどうぞ」
そう言ってヨシュアさんが差し出してきたのは、
不思議な形をした黒い鉄器……のような見た目の武器だった。そう、武器だ。そう何となくわかった。受け取って手に取ってみると何だかひどくしっくりと来た。
「皆のお古ですけど……まだまだ使えるので、好きなだけどうぞ」
そう言ってヨシュア様が俺に渡してきた袋の中には、明らかに異様な……けれどとってもしっくるする武器の数々が入っていた。
お、お古?皆のって言ってたけど……これ使ってた人たちって何者?
「おい、何でヨシュア様がそんな暗具を大量に持ってきてんだ?」
ザックさんがマティアスさんに毒づいている。……ん?……暗具?それっていわゆる暗殺用の武具のことでは……?何でヨシュア様がそれを持ってきたんだろう。
そういえばさっき部屋の中や道中に潜んでいた連中……気配を消し、感情を消し……まるでエストレラの影に暗躍する部隊・暗部を思い出してしまった。いやいや、まさか……。
「本当はこちらもスカウトしたかったのですが、マティアスの方が先約を交わしていましたから。でももし興味がおありでしたら、いつでも大歓迎です」
にっこり笑うヨシュア様。その、スカウトって……何に?しかしそこを深く突っ込んではいけない気がする。これは……本能的な勘だ。
「んじゃ、それで第2ラウンド!」
「……全く。ほら、タイタン。構えろ」
ザックさんが剣を構える。あ、ザックさん、俺のことタイタンって……。
やっぱり兄さんたちのことも知っていてあの剣戟を……。気を取り直してヨシュア様にもらった暗具を両手に構える。初めて見る武器だったが妙にしっくりくる。そして操り方も戦い方も、自然と身体が知っている……。
俺は素早くザックさんの懐に入り……込めずにかわされ剣戟が迫るが、それをかわして暗具をザックさんめがけて……っ!
微妙にそれた。そらされた。けれどザックさんの頬には赤い血が滴っている。
「……あっ!ごめんなさい!」
「謝るな。敵と対峙した時も謝る気か?」
「いえ、そんなことは……」
「その覚悟があるか?俺たちは王族を守護する最強部隊だ。王族に危害を加える輩には一切の躊躇なく容赦をせず葬り去る。その覚悟があるのか?」
「あ、あります!」
ここまで来て引き下がれるか!ん……あれ?王族?
「ふん……まだまだだがいいだろう」
「よし!んじゃぁ、決まりだ!」
「おめでと~!たんたんくん!」
「あぁ……ハイ」
えっと、ひとまず入隊試験には合格して投獄の危機は去った……のか?
※※※
俺の隣にはマティアス隊長、そしてザックさん。目の前には大勢の騎士たちが整列している。
「んじゃー、皆!新しくザック副隊長の相棒として近衛騎士隊副隊長に任命した、レイヴン・フォン・タイタンだ。よろしくしてやってくれ」
『はっ!!!!!』
ん……?
……副隊長?
ザックさんが副隊長なのはわかったけれど……今、俺のこと副隊長って……しかも近衛騎士隊!
えええええぇぇぇぇ――――っ!!!???
しかも待って。
近衛騎士隊の隊長って確か……マティアス隊長……マティアス……。
「だ……第1王配マティアス様ああぁぁぁ……っ!?」
「ん?んだよ、様なんてつけんなよ。俺たちゃ近衛騎士隊の仲間なんだからよっ!」
いや確かにそうですけど!?
「たんたん」
その時響いたかわいい声に下を見れば。狼耳のほっかむりを被ったちったい殿下がいた。
『……たんたん』
そして入隊したその日に俺の愛称が決まった瞬間であった。
「クロはすっかりたんたんがお気に入りだね」
そしてしれっとちび殿下を迎えに来ていたヨシュア様。
「う、たんたん!仲間、なった!」
「たたんたん?」
するとそこにふわもふ羽耳のちったい姫殿下もやってきて、ちったい殿下にぽむぽむしていた。
「たんたん!」
「たーんたんっ!」
「イヴも気に入ったのだねぇ……」
まぁ警護対象に気に入られるのは……悪いことではないのかな。
こうしていきなり近衛騎士隊副隊長に任じられたのだが、影の薄さは変わらず折り紙付きだった。
「タイタン副隊長」
不意に銀髪の女騎士に呼び止められた。後宮騎士隊に所属しているシルヴィー隊員だったか。
……珍しいな。
普段はマティアス隊長やザック副隊長が知らせなければ、俺がいることに気付く人は少ない。しかもこんな闇にまぎれられそうな暗がりでだ。
「後宮で……」
「はい……?」
「後宮で抜け駆けしましたよね」
「へ……?」
「後宮で!イヴ姫殿下とたわむれていました!」
「は……はい?」
ちびっ子クロムウェル殿下とイヴ姫殿下には会ったけど。たんたん大合唱されたけど。銀髪の女騎士はいつものクールな表情を崩し、顔をぷくぅっとさせている。
「その……あれはクロムウェル殿下と……」
「クロムウェル殿下は特別です!イヴ姫様のににさまなので抜け駆けにはあたりません!」
いや、クロムウェル殿下とただ大合唱してただけと言いたかったのだが。
「今後、後宮騎士隊に内緒で抜け駆けは禁止ですから!」
「え……はい?」
それが後にエストレラの影で暗躍する第3勢力発足のきっかけになろうとは……俺はこの時思いもしなかったのだった。




