第770話 クロ殿下とスバル殿下のダンジョン探索
―――南部連合王国青嵐県謎の未踏破ダンジョン、なう。
引き続きまさかの横開き・・・
横開き扉を思いっきりスライディングオープンし、
ダンジョンをさっくさく進んでいくと、途端に開けた部屋に出た。
その部屋の天井は高く、壁には巨大な壁画が描かれている。
ダンジョンに刻まれたのは、7匹のモンスターのような画。
なしてか、その内の3匹は・・・傲魔・スイラン、浪魔・ジェルミー、そして小国連合サンダ島で暮らす妖魔・伊夜さんに似ていると感じてしまった。
ちょうど7匹いるし・・・ひょっとして、これは・・・
半鬼半精霊ってこと・・・?
そして、その半鬼半精霊たちを追うように描かれる、
勇者のような恰好をした人間の画と
聖女と思われる人間の少女の画。
そして半鬼半精霊たちの先にいるのは、
まるで彼らが救いを求めるように手を伸ばす、
大鬼の角を持つ少年が描かれている。
「御子さま・・・」
その画を見た瞬間、そうだと思ってしまった。
そして、その御子さまの傍に跪く、大赤鬼と、そのそばに控える大鬼姫。
更に、その御子さまが第一に手を伸ばしているのは・・・多分・・・
「スイラン・・・」
あの耳、角、羽・・・リザードマンのような四肢の半身・・・
間違いなく、あれはスイランだ。
「どうして・・・ここに御子さまと、スイランたちの画があるの・・・?」
「やっぱり、クロも・・・そう思った・・・?」
「うん・・・ヴェイセル・・・」
「・・・ヴェイセルさんたちは、この画の意味がわかるの・・・?
あれは、南部連合王国中の古い遺跡や、ダンジョンに見られる壁画に似ています。
7匹のモンスターに、追うひとびと・・・そして、手を差し伸べる・・・大鬼と思われる存在」
南部連合王国中に・・・あるの・・・?
鬼族系の人族がいる以上、ここには、鬼族も昔住んでいたと思うけど、
混種がいる以上、人間・・・今の人族も住んでいたはずだ。
まさか、この土地で、
スイランたち、半鬼半精霊たちが生み出されたとでも言いたいのだろうか・・・?
この土地で、悲劇が産まれたということなんだろうか・・・?
半鬼半精霊の話をスバルにすると、スバルも沈痛な表情を浮かべていた。
「・・・あり得なくもない・・・だって・・・
こんな壁画が各地に残っているくらいだから・・・
勇者伝承の話を学校で習う場合に、こういう壁画が使われる。
これは、勇者が鬼、大鬼を討伐する画だと習うけれどとてもそうは見えなかった。
まるで、大鬼に救いを求めるようなモンスターたち・・・そんな意味があったなんてね・・・」
確かに、一目見ただけで、そう言う印象を誰でも抱きそうな画だ・・・
「ここに、文字が刻まれてる・・・」
と、カロクさん。
「古代の文字なのだろうが・・・古代語とも違って、俺たちには読めんな」
「でも、カロクさん。これ、この文字に似てるっすよ」
と、リョクタが取り出したのは、
碧狼族なら誰でも持っている“豊饒符”だった。
それなら、もしかしたら・・・
むむむ・・・
難しいけど・・・読める・・・?
『この地に、淫蕩、強欲、虚栄、
憤怒、怠惰、貪食、傲慢を放ち、鬼と大鬼を討たん。
されど悲しみ、怒り、憎しみに支配され、理性と自我を持たぬ化け物たちは、
いつしかかの地を目指し、御子の救いを求めん』
「クロ殿下、今なんて・・・?」
スバルやカロクさん、リョクタたちはきょとんとしていた。
あ・・・豊饒符の時のように、通じてない・・・?
「・・・この地に、淫蕩、強欲、虚栄、
憤怒、怠惰、貪食、傲慢を放ち、鬼と大鬼を討たん。
されど悲しみ、怒り、憎しみに支配され、
理性と自我を持たぬ化け物たちは、
いつしかかの地を目指し、御子の救いを求めん」
紅消が、俺の言った言葉を訳すように述べる。
やっぱり、大鬼族の姿を持つから・・・?
それとも・・・
「紅消も読めるの?」
「いえ・・・ただ、クロ殿下のおっしゃったことは、何となく、わかりました」
本当に、スーパーなお世話係だな。
「この、いんとうだとか、ごうよくってのが、傲魔たちってことかな・・・?」
とスバル。
そう言えば、傲魔の“傲”は、“傲慢”の“傲”だな・・・
スイランは決して傲慢ではないのだが、字的には、そんな気がしてしまった。
「・・・妖魔は・・・淫蕩ってとこかな・・・」
妖艶の“妖”だからかな・・・?まぁ、だらしのない感じではないけど。
「当時の、生み出したひとびとが決めた、一種の呼び名なんだと思うよ。
でも、それが理性と自我に目覚めた彼らには結びつかなかっただけだろうね・・・」
「そっか・・・因みに、ジェルミーはどれだと思う・・・?」
「う~ん・・・虚栄・・・かな・・・
浪魔は、出会った時にほんにんが言ってたように、
あてもなく、中身もなく流離う、彷徨うってイメージだし・・・
中身が無いって意味では・・・それが一番近いかも」
「そして、ほかの半鬼半精霊たちが、強欲、憤怒、怠惰、貪食って呼ばれたんだね」
「そう、あとの3にんは、無事、御子と出会えた」
と、ヴェイセルが告げる。
「・・・俺は御子さまじゃ・・・」
「・・・でも・・・知っている」
ヴェイセルにも・・・わかるのか・・・?
俺の意識の中には、俺と同じ魂を持つ御子さまがいる・・・
だから、俺と出会うことで、
彼ら彼女らは“救い”を得たと思えるのだろうか・・・
俺はどうしてか、救いを一心に求めるような
彼ら彼女らの眼差しから、暫く目を離せなかった・・・。




