第754話 クロ殿下と故宮庭園
故宮庭園と呼ばれる中庭は、
見事に様々な形に整えられた生け垣や、
色とりどりのバラが織りなす見事な庭園だった。
「わぁ・・・すごいね。バラだよ!一面バラ!」
ついついはしゃいでしまった俺なのだが・・・
「随分とテンション上がってんなぁ。
でも、他に客人もいるかもしれないんだから」
と、俺の専属近衛騎士のウォレスに注意されてしまった。
「あっ!そだよね・・・節度・・・節度・・・」
「あぁ、エリック様からの呪文の言葉な」
そうそう、今回の外交クエストを発注してきた、
エリック父さんからの呪文の言葉!!
そして、そんな呪文を唱えていると、
不意に庭園の中に人影を捉えた。
「・・・誰かいる・・・?」
「ん・・・?」
「ちょっと行ってみようよ、ウォレス。人脈づくり、人脈づくり」
これも、エリック父さんからの重要な任務・・・
人脈拡大クエストなんだし!
その人物に近づいて行くと、あることに気が付いた。
このひと・・・たれ耳・・・それも・・・
しっぽからして犬耳族か・・・?
貴族のような上品な出で立ちのその青年は、
こちらの気配に気が付いたのか、ゆっくりと振り向く。
その面差しも、毛並みもユイファちゃんにそっくりだ。
やっぱり・・・このひとは・・・
「失礼ですが・・・あなたがたは・・・」
「・・・っ!えっとクロって言います!こちらはウォレス!」
チタンの精霊・チタニールさんも紹介しようとしたのだけど、
あれ、またいつの間にかどこかに・・・?
「あの・・・あなたは・・・ユイファちゃんのお兄さん・・・?」
「・・・そう・・・ですが・・・妹とお知り合いでしたか」
「あ・・・はい。仲良くしてもらってます。あなたは・・・?」
「・・・フェイラン・・・です」
「フェイランさん。よろしくお願いします」
俺が手を差し出すと、フェイランさんは驚いたような反応をする。
「(えと・・・ダメ・・・だった?」」
俺はとっさにウォレスに確認する。
「(いや・・・そういう慣習は聞いてないぞ)」
「・・・よろしく・・・」
やがて、フェイランさんが俺の手を握って、握手してくれた。
「その・・・この耳を見て・・・何とも思わないんですか・・・?」
へ・・・?フェイランさんの・・・たれ耳?
「とってもふにふにしてそうです!」
「いや、クロ。そこじゃねぇだろ」
「はぅっ!」
ついつい、いつものノリでやってしまった!!
相手はユイファちゃんのお兄さん!
つまりシルヴァリー共和国の象徴王家の王子!!!
お・・・王子にこれはまずいかなぁ・・・
因みに、ふっわもふフラッフィな茶狼族の
我がエストレラ王国第1王子・アスラン兄さんへは、
“ケモ耳ふにふに。ふわもふしっぽふわもふ!”と言っても何ら問題はないけど・・・
・・・ここは外国・・・外国の王子・・・
勝手が違ったかぁ・・・っ!!!
ぐはぁっ!!
「・・・変・・・でしょう?」
「いや、そんなことないですよっ!
俺、エストレラ人なので、たれ耳黒狼族は見慣れてますし、
そんな珍しくもないです」
「・・・エストレラの・・・クロさん・・・?
ひょっとして、クロムウェル殿下・・・?」
「え・・・っ!はう・・・っ!はい・・・」
「・・・挨拶を逸していて、申し訳ない」
「あ、いえ・・・お互い様です。どうぞ、“クロ”と呼んでください」
「では・・・俺のことも“フェイラン”と」
「うん、フェイラン」
「・・・クロ・・・ありがとう・・・この・・・たれ耳のこと・・・」
「ううん、そんな」
「そうですよ~っ!とっても懐かしいです~!
ほ~ら、ふにふにふにふに~~~っ!!!」
ぎぃあああぁぁぁぁぁっっ!!?
チタニールさんんんんんっっ!!?
フェイランと和やかムードになっていたのも束の間、
いつの間にかチタニールさんがフェイランに近づき、
そのたれ耳をふにふにしていた。
どこに行ったのかと思ってたら~~~っ!!
フェイランは、突然のことで見事に硬直している。
「あ・・・あの・・・フェイラン!チタニールさんは精霊で・・・」
「せ・・・精霊さま?」
「チタンの精霊・チタニールですよ?ふにふに。
本名はチタニールフィスクワイツと言います~。ふにふに」
王子相手でもふにふに、ふわもふ。
それが許されるのがこの世界の精霊であるっ!!
やがて、段々と我に還ったフェイランは、チタニールさんのお耳をまじまじと見ていた・・・。
「・・・同じたれ耳の犬耳・・・」
「はい、おそろいです~っ!」
ふふふ、とチタニールさんが微笑む。
と・・・その時だった。
「あ―――――っっ!!クロったらずるいっ!!」
故宮庭園に、お転婆王女の元気な声が響き渡ったのだった。




