【65】クロ殿下とタイタン祭壇
俺たちはリディア司祭の話を聞ききつつお茶を出してもらった。でもさっきから気になっていることがある。ここが大鬼族の地とは。
「ここは大鬼族が昔治めていたの?」
「その、一部よ」
「クロ、クォーツ地方は昔大鬼族と勇者の決戦場だったって言ったろう?それはねエストレラのあるこの世界の北方域が大鬼族の治める土地だったからだよ。……まぁ、伝説だけど」
「マジで!?」
伝説上の種族……目の前にも一人いるけど、彼らがが納めていた土地!?
「他にも南方を治めていたという伝承も残っているわね」
「そういえば南方には魔人族とそっくりな魔族がいるよね」
リディア司祭様とヴェイセルの話に驚く。……あ、でも魔人族って昔、南方から渡って来たって言われてたような気がする。まさか同じ祖先を持つのか!?
「精霊様たちがいなくなって、大鬼族も鬼族もすっかり伝説上の種族となってしまった。ここも忘れられた祭壇と呼ばれている。けれど私たちが忘れなければ、祈り続ければ……きっといつかまた姿を現してくださると信じてる」
切ないけどいい話だな。
「俺も会ってみたいです。その、精霊様たちに」
「クロ殿下!早速今の御言葉を領内全域に!」
「や……やめてくださああぁぁぁぁぁいっっ!!!」
な、何で!?何で領内全域放送!?
「クロ、大人気だねぇ」
「リディア司祭、それよりもふたりを」
そうだ。脱線しすぎた。まさかの自由人クォーツ公爵に助けられた。
「えぇ。おふたりともお名前は?」
「いつきです」
「……たつき」
お兄さんの名前はたつきさんというのか。
「こっちへいらっしゃい。エストレラは今真冬だから温かいお洋服用意しなくちゃ。いつきくんにはもっふもふの超かわいいお洋服用意してあげるねっ!」
……司祭様?目が輝いているんだけど。
「わかっていらっしゃる!司祭殿!是非、ふわもこ半ズボンにタイツをください!!!」
うおおぉぉぉぉいっっ!!!何を言い出す剣聖!いつきならきっと似合うと思うけど……けどね!?
「大丈夫、リディア司祭は単なるかわいいもの好きだから」
クォーツ公爵、それはフォローですか?
「さて、彼らは司祭に任せれば大丈夫だろうし、そうだクロ殿下。これをあげよう」
唐突にクォーツ公爵がサンバイザーの上に乗せていたグラサンを差し出してくる。
「それはどんな魔法も跳ね返し、魔眼の効果を防ぐ。また装着するとかけた本人の魔眼の効果も抑えるという優れモノだよっ!」
まぁ魔法や魔眼を跳ね返したり防いでくれるのはとってもありがたいが……俺は魔眼持ってないしグラサンか。
「もちろん、アーサーで実戦したから効果は保証するよっ!」
そういえばアーサーさんって魔眼保持者だったっけ。でも実践の【せん】の字が【戦】になってるんだけど。稀代の天才ウィザードと最恐アーサーさんで対決したの?何かすごい恐ろしい戦いになる気がするんだが気のせいだろうか。まぁ持っていて損はないだろうから、もらっておこう。何かの役に立つかもしれない。
「さてソード、そろそろ」
「わかった」
ずっとだんまりだった竜人族の男性……ソードさんというのか。クォーツ公爵がソードさんに声をかけると立ち上がる。
「じゃ、またね~~」
そしてクォーツ公爵とソードさんはさくっとゲートを出して去って行ってしまった。ちょ……っ!クォーツ公爵!?
「ちょっとヴェイセル、クォーツ公爵帰っちゃったけど!?」
「ずばり……ピンクふわもこ!」
「あら、やだ……剣聖殿もわかっていらっしゃるわね。さすがだわ」
何の話してんだこいつら。
「おーい、戻って来ーい」
「クロ、ここは任せなさい」
その声に振り向くとそこにはエル兄さんがいた。
「エル兄さん何でここに!?本物!?」
「本物だよ?俺の偽物がいるとしたら、それはたぶんフブキさまとのひと違い」
まぁ、そうだよね!?たまに祭壇でフブキさまと双子ごっことかしてるからね!?
「父さんに場所聞いて転移してきたんだよ」
あぁ、それで。でもそれにしても早くない?たまたま執務とかがなかったんだろうか。
「ヴェル」
「ん?」
続いてエル兄さんがヴェイセルを呼ぶ。
「一週間の音信不通についてちょっとお兄ちゃんと話そうね?」
「え?」
「あらエル殿下!?きゃぁ、やっぱりイケメン!いつもテレビ見てます!」
司祭様……やっぱりミーハー?そういえばエル兄さんもよくクォーツ地方で仕事してるし、クォーツローカルによく出てるからだろうか。
「いつも応援ありがとうございます」
王子スマイルのエル兄さん。そしてクォーツ一族のスマイルを浮かべ、ヴェイセルを祭壇の隅に連行していく。俺は司祭様に促され、いつきやたつきさんとともにクッキーまでもらってしまった。
――――そしてリディア司祭様が早速服を用意してくれてピンクのふわもふ帽子とおそろいのルームウェアに半ズボン、そして白タイツ。かわいいもこもこルームシューズまで穿いたいつきをお披露目してくれた。
「クロ、どう?」
「に……似合うよ」
うん、めちゃくちゃかわいい。いつきったら女の子みたいだ。実は女の子っていう裏設定とか……?
「いつきくん、男の子だよ?」
知ってるよ、ヴェイセル!ロリショタスコープを持ったヴェイセルが言うなら間違いない。
※※※
――――あの一件の数日後、俺はヴェイセルと再びタイタン領を訪れていた。
「たつきさんは?」
「お外でまきわり」
窓の外を見ると、巨人族や通常サイズの人族の人たちと防寒具に身を包み、巻き割をしているたつきさんがいた。角が隠れていると頬の刺青以外、人族との違いがあまりないな。でもタイタン領の人たちは割と刺青を彫っていたりするのでぶっちゃけ違いは分からない。
「温泉とかは入れるのかな?」
「温泉は、皆で入るよ?」
といつき。うん、皆で入った方が楽しいもんな。
「民族的な刺青は大丈夫だよ?」
とヴェイセル。……まぁそうだよね。いつきの場合産まれつきだし。それで温泉を一緒に入れないとかヤダよな。
「いつき、今度ラズーリの温泉行こうよ。個室露天だから角を他人に見られることないし」
「……うん!」
「クロと……ショタっ子たちがふたりで入浴とか……うぐっ!鼻血が……っ」
「ヴェイセルは、見張りで外に待機」
「うぇっ!?でも、中の警備だって……」
「紅消が一緒に入るよ」
「そんなぁー」
まずはその鼻血を止めておけ。