プロローグ
ーーー深夜の繁華街。
案の定、朝方近くまで営業している居酒屋以外の店はシャッターを降ろしており、歩いている人は殆どいない。
その薄暗い路地裏で、走り抜ける二つの足音が狭い道中で響き渡たっていた。
後ろで走っている男は黒いハーフコートをなびかせ、息を苦しげに吐きながらも走りつづけている。
「……はぁっ、はぁっ、……もう逃げらんねぇーぞっ」
コンクリートの壁で閉ざされた通路の突き当たりまで一人の少女を追い詰めると、男は腰に掛けてあるショルダーから銃を取り出し、学生服を着ている少女に何の躊躇も無く銃口を向けた。
この場合、殺されると考えてもいい筈だが、少女は驚いたり、泣いたりもせず、ただ無表情のまま男の方に向いて立ち尽くしている。
《…我…、ヲ…殺…ス》
虚ろな目の少女から出た言葉は、まるでロボットみたいな機械音に似ている声音。
少女の容姿からして、あまりにも似使わない声だ。
「あぁ、お前を殺す。それが俺達の仕事だからな」
男は人間離れした赤い瞳で少女を冷たく見据える。
《殺…ス、コ…ロス…》
突然、少女は同じ言葉ばかりを繰り返すようになり、暫くすると今更死が怖くなったのか、カタカタと肩が震え始めた。
男は知っている。
少女が死で怯えていない事に。
《アハッ、アハハハッ!!我ガオ前ヲ殺シテヤルーッ!!》
不気味に笑い声を上げた少女の体から黒い人影が天に向けてヌメリと抜け出し、少女は吊り上げられた糸が切れたように地面に倒れた。
「ようやく正体を現しやがったな」
人の形をしている黒い影には白い形の目と口がついていた。
まるで化け物と呼ぶに相応しいそれが不気味に笑う。
《…殺ス…、殺ス…》
「はっ、下級レベルの奴が俺を殺すだと?馬鹿かお前はっ」
鼻笑いして暴言を吐いてやった。
余程の自信があるのか、男は黒い化け物を目の前にしても平然としている。
「来いよゴミ虫」
《ウアアアァァァッ!!》
挑発にまんまと乗っかった化け物は、一歩も動かない男目掛けて飛びかかった。
「簡単に挑発に乗りやがって」
男の持っていた銃に異変が起きた。青白い光が銃口に集まっていき、光は段々と大きくなっていく。そのタイミングですぐ様銃口は化け物の額を捉えた?
「…終わりだ」
化け物との距離が数メートルに迫った瞬間、引き金を引いて一発の弾が発射した。
ーーー普通の弾ではない。青白い光の筋が化け物の額に見事貫通した。
《グッ、グアァァァ!!》
化け物は撃たれた頭を抱え込み、もがき苦しみながら断末魔を上げる。
悲痛な叫び声に思わず耳を塞ぎたくなるほどだ。
「任務完了っと」
慣れたと言わんばかりの男が目を細めて背中を向けると、化け物は体の中から無数の光の筋を放ち、次の瞬間、砂のように塵になり消え去った。
持っていた銃を腰のポケットにしまうと、仕事をやり遂げた男は地面に倒れている少女に近づきそっと抱きかかえた。
ーーーこの少女は被害者。だから危害を加える必要はない。
「さて、こいつを送り届けるとしますか」
気絶している少女の寝顔を見てから、男は夜の闇へとその姿を消していった。




