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アルドラシルの蒼録石  作者: as/d
プロローグ
2/2

託された二人


「お父様!」

「あの鐘を聞いていってしまったかと思ったが、間に合って良かった」


 ハリアがワード国王を見て、勢いよく走って腰に抱きついた。

 愛らしい娘が服に顔を埋めて喜んでいるハリアの頭を撫でている。


「国王様、敵はもう来ているのですか!?」

「あの鐘は民を国から逃がす為にならしてある。敵はまだ来ていない」

「……そうですか」


 リートは安堵はするも、緊張感は解けてはいない。

 敵襲警鐘は敵が攻めてくる他に、自国の騎士団で太刀打ち出来るか分からない敵であるという意味もある。

 太刀打ちできるのであれば、わざわざ国民を逃がす何て事はしないだろう。


「ハリア、抱きつくのはもう止めて離れなさい」

「う、うん」


 優しげな表情はハリアが見たことがない厳かな表情になり、初めて父親を怖くなりたじろいでしまう。

 

「すまないハリア。いつものように愛せる時間がもうないのだ」


 そう言って懐から豪華な箱を取り出して開き、首飾りをハリアの首に掛けた。

 ひんやりとした金属が首に当たり、ハリアは首を縮める。

 

「……お父さんこれは?」

「……『アルドラシルの蒼録石(そうろくせき)』。国の宝であり、私の命でもある」

「えっ!?」


 それが今自分の首に掛かっていることに驚愕してしまうハリアはそんな大事な物をワードではなく私になぜ渡したのか疑問に思った。


「これから話すことは国王としての()()の命令だと聞いて欲しい……いや、聞け」


 凄まじい威圧感を解き放つ、まさに王なのだとと示していた。

 一瞬二人は王が発する風で後ろに吹き飛ばされてしまうと錯覚させるほどの威圧感に固まってしまった。


「この石をセルアルモードにいる我が師、コール・ゼスト・バルガスに渡せ。そして、この石をやつ」


 城が揺れた。



ーーーーー



 総人数800人。

 集められたはいいものの、中央城門にいる戦意のある騎士達は困惑していた。

 騎士団の頂点である総括大臣は突然官舎に訪れて戦意のある者は装備を整えて中央城門前に集合だと言われたものの、これから何が起こるのか察する事は出来なかった。


「ったく、一体何があったんだ? 今日仕事終わったばかりだってのに」

「俺なんて、いざ寝ようって時に起こされたんだぞ? 総括大臣に殺意覚えたわ」


 あちらこちらから騎士達の総括大臣に対しての私憤が溢れ、愚痴が重なりあい辺りが声で煩くなる。

 そんな中、騎士団の先頭に愚痴を溢していた総括大臣が現れる。

 愚痴を溢していた口を強引に閉じ、総括大臣に目をやる騎士達。

 

「貴様らに問おう。国民の為に()()()()勇気ある騎士はここにいるか?」


 響動めきが走る。

 総括大臣は戦うではなく殺されると言った為、疑問が溢れかえっていた。

 

「我々が集まろうと太刀打ち出来ない強敵が我が王国に襲撃しようとしている。もうじき敵襲警鐘は鳴り、国民は他の大臣の元に避難勧告されるだろう。貴殿らは国民の避難に僅かな時間稼ぎをして」

「ふざけるなぁ!」

 

 時間稼ぎと聞いた騎士達の一角から罵声が飛んできた。

 次第にその罵声は伝染し、統率の取れた騎士達は瞬く間に崩壊していった。


「だから私は問うたのだ。()()()()勇気のある騎士はいるのかと……そうではない貴様らは国民と共に逃げるがよい。私は戦い、民を逃がす為に少しの時間でも稼ぐつもりだ。私と共に残りたい者は残れ。強要はしない……去れぃ!」


 ガチャズサと辺りから地面と金属が落ちる音が聞こえる。

 後ろが命を大切にしたい足音の忙しなさが聞こえる。

 __なるほど、平和ボケとは恐ろしいものだ__

 総括大臣は十三年前の戦争を思い出す。

 あの国は一人ひとりが命を大事にしない。

 命を大事にしない武器を持つ人が特攻をしかけ、血を吹き、それでも殺しに来る。

 あの恐怖は今でも体を震わせてしまう。

 

 敵襲警鐘が鳴る。

 その音で我に返った統括大臣は目の前を見ると、驚くことに本当の騎士が残っていた。

 残った騎士は統括大臣にとって共に戦争を知っている古い仲間、その戦争を知らずとも今から行われる自殺行為を理解している若い騎士だった。


「残ったのか」

「お前に勇気がないと思われるのか癪だったからな」

「しかし、お前も優しい奴だ。あんなこと言わずに嘘言えばあいつらも戦ったってのに」


 旧友が統括大臣に笑いながら語りかけてくれる。

 それだけで、統括大臣の心は穏やかになっていた。


「いや、あれは正解だった。絶望を知って統率を崩されるほうが死よりも恐ろしい」

「確かにな。勝てる試合も勝てない」

「しかし、一番驚いているのは君たち若い騎士もいることだ。何故に逃げない?」


 若い騎士達が前に出て、剣先を上に構える。


「俺達は本当の騎士を夢見て騎士団に入りました。国を守りたい。民を守りたい、そんな思想を持って俺達はここに残っています。国民の為に死ねるのであれば本望です」


 その言葉を聞いて、古株の騎士と統括大臣は感涙した。

 若い奴にもこんなことを思っている若者がいたとはと今初めて知ったのだ。

 

「これは心強いな」

「あぁ、こっちまで若くなりそうだ」


 辺りは笑いに包まれた。

 戦うならこれぐらいの気持ちが丁度いい。

 

「おっと、こんなときに笑っては民に示しがつかないな。緊急事態だってのには変わらないのに」

「良いじゃないか。どうせなら笑って死のう。もしかしたら、敵も怯えて逃げるかもしれないしな」

「それはいいな。俺は賛成だ」


 俺も私もと次々に同意が上がる。

 この場にいる騎士達は、今から死ににいこうとする表情ではなかった。

 

「統括大臣! 敵と思わしき姿を確認しました! 動きが速いです!」

「分かった! そこから退避し、王に報告に向かえ!」

「了解です! みなさんもお気をつけて!」

「……と、いうわけだ。俺達が再会する場所はあの世で間違いはない。だが、自殺行為は止めろ。どんな手を使ってでも足止めし、民の逃げる時間を稼ぐのだ!」

「おおおぉぉぉっ!」

「開門!」


 そう、声を上げ若い騎士に開門させる。

 その巨大門は開かれた、と思われた。


 辺り一帯に広がるのは声でもなく扉がゆっくりと開く音でもなく、扉が吹っ飛び地面に落ちた轟音だった。

 落ちた扉の下には赤い液体が広がる。

 開こうとした若い騎士は状況が掴めなかった。

 何故なら、笑いながら死ぬといった皆がもうそこに居なかったのだ。

 そして、生き残った若い騎士を横に、何事もなかったように巨大門を通り過ぎる白いローブの団体。

 若い騎士は先程の笑いが嘘だったのかと夢を見ていたのかと自問自答してしまった。

 若い騎士の下は水を被ったのかと水溜まりが出来ている。

 ガタガタと震え、よく分からない化け物を目にしている気分だった。

 若い騎士を見つけた白いローブの一人がこちらに向かってくる。

 

「く、来るな。来るな!来るな!」


 白いローブに声は届かない。

 歩いてくる白ローブは若い騎士の前まで来て、こう呟いた。


「イェアツイニュに栄光あれ」


 

ーーーーー



「今のは何の音!?」

「奴等が来たか! もう説明している時間がない、こちらに来なさい!」


 ワード王はハリアが寝ているベッドに向かい、二人はワードの後に付いていく。

 ワード王はベッドの枠組みに手をかけ、押し出した。

 押し出したベッドの床にはなにやら取っ手があり、ワードはその床を持ち上げた。

 そこには、人ふたりが並んで歩ける広さの地下階段だった。


「そうだ。もしもの時のために作らせていた。階段を下りると噴水排水路に通じている。そのまま東に向かえば国外に出られる。早く入りなさい! 奴等がここに来る前に!」

「お父さんも一緒に逃げようよ! 」


 ハリアがワードの手を握るが、軽く振り払われる。


「国を統べる王が国を捨てる訳にはいかないのだよ。私はここに残り、少しでも時間を稼ぐ。ハリア、分かってくれ」


 ハリアは目に涙を浮かべている。

 国なんかどうでもいい。

 お父さんと別れたくないと目で訴えていた。

 ハリアの家族は父であるワードしかいなく、母はハリアを生んで直ぐに亡くなっている。

 リートはハリアの気持ちが分からなくはないと同情する。

 なので、どうしたらいいのか困惑していた。


「……リートに命令する。ハリアを無理矢理にでも連れ出せ」

「……分かりました王よ」


 ハリアの手を鷲掴みに、強引に引っ張って階段の入り口に入る。


「お父さん! 嫌だよお父さん! 離してリート! 離して!」


 鷲掴みされている手を振りほどこうにも、鍛練されたリートには通用しなかった。

 それでも、ハリアは父親の服を掴むことを諦めなかった。

 だんだんとリートの心が悲鳴を上げていた。

 優しく、娘の友人として良くしてくれたワードを一緒に逃げたい気持ちはリートにもある。

 しかし、騎士である以上、王の命令に従わなければならない。

 もう我慢の限界だとリートは行動に移した。


「ごめん……ごめん……ごめんっ!」


 リートはハリアの頸動脈だけを締める。

 お父さん、お父さんと嗚咽声のハリアを見てはいられず、リートはぎゅっと目を閉じる。

 声も細くなりゆっくりと瞼を閉じていく彼女は暴れるのを止めて、静かに眠りに落ちた。


「……申し訳ありません王よ」

「……構わない。そしてすまない。君に心を痛めさせてしまった」

「……いえ」


 リートの顔は長期鍛練をしたかのように酷く疲れはてていた。

 それでもリートは彼女を担いで脱出口へ向かう。


「リートよ」

「……はい」

「王ではなく君の友人の娘の父としてお願いする」

「……はい」

「……娘を頼んだ」

「……分かりました、()()()()!」


 後ろを振り向かず、リートは階段を下りていった。

 階段を下りていく姿を見ていたワードは長年出ていなかった涙を流し、姿が見えなくなるまで見届けたあと入り口を閉めた。

 ベッドも元の位置に戻して自室に戻ろうとしたが、扉は吹き飛ぶように開かれる。

 そこには白いローブが数人。

 手には小型のナイフが握られていた。


「やはり、()()だったか」


 ワードは剣を構える。

 そして、白いローブに向かって突き進む。


「石は渡さんぞぉぉ!」


 窓が衝撃を受けて割れ、何か外に放り落ちた。

 それは赤い何かであった。



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