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アンドロメダと天の川  作者: 津辻真咲
10/18

人類の働く男子

10.人類の働く男子



――すごいG。

冬華は、思わず目を強く閉じた。

――やはり、見つかっている。追いかけてきた。

諒は、次第に距離を縮めてくる警察機械たちに焦りを感じた。警察機械たちのサイレンが大音量で鳴りつづける。

――逃がすまじ。

濠洲敬治が睨む。警察機械の簡易警備機械は、的確に後を追いかけてきた。

 轟音がした。

「すみませんが、機体当たっていますよ!!」

「分かってる!!」

側壁に簡易機械の機体がこすれていく。黙人までも声を大きくしていた。

――やっぱり、無理ですかね。

リーテ・ィュの操縦の腕に、黙人は少し困った。

「リーテ」

「何!?」

「俺が代わる」

諒は、リーテ・ィュの左肩に右手を置く。

「え!? 何で!?」

「情報屋に弟子入りしていた時がある」

 ……。

「先に言えよー!!」

「他に手は?」

諒は真顔で言う。威圧感が漂っている。

「分かった。代わるよ」

リーテ・ィュは、その雰囲気にのまれてハンドルを明け渡した。



――あ。

「見えた!! 生命体エリアへの通路。このまま、人類側へ行こう」

「あぁ、分かった」

サイレンが大きくなってくる。警察機械がだんだん近づいて来ているのだ。

「迫ってきた!!」

冬華は、後ろを振り返る。

「このまま通路のドア突き破るぞ」

「え!?」

諒の言葉に冬華は、驚く。

「俺に捕まれ」

諒は、冬華の体に左手をまわす。彼女をこの簡易機械から振り下ろさせたくなかったのだ。

冬華は、前方のゲートの接近に目をつむった。

次の瞬間、簡易機械はゲートを突き破り、先ほどのエリアへとトンネルを進んでいく。

――壊れるなよ。

諒は、ハンドルをより一層強く握る。

機体が内壁へ擦っていく。

冬華は少し目を開けた。

――あ、追って来ない?

すると、目の前の視界が開けた。

――さっきの生命体エリア。

冬華は吹き抜けを見上げる。

轟音と共に、生命体エリアに突風が吹く。

「ちっ!!」

――ここから先は、別班。

濠洲敬治は、舌打ちをする。彼はアンドロメダ側の担当だったのだ。



高速で白い壁の区切りが後ろへ流れていく。冬華は、それをしばらく見てから、振り返った。

「どうやら、振り切ったみたい」

冬華は表情を明るくする。

「あぁ、そうだな」

「良かった。安心」

諒は、操縦に徹しているので空返事だ。しかし、リーテ・ィュは、微笑んでくれた。視線は進行方向だったが。

すると。

「ぶつかるぞ」

「え?」

諒が危険を知らせた。それを聞いた冬華が進行方向へ振り返る。それと同時に簡易機械は、エリアを区切る巨大なゲートを突き破った。

――人類側の機械エリアへ突入しましたか。

黙人はトハクを抱えて、冷静を保っている。

「どうして無茶するの!!」

冬華は、操縦する諒の横から怒ってきた。

「パスワード知らないし」

諒の方は少し申し訳なく横目で見ていた。



簡易機械は、白い壁の通路を通っていく。そんな中、諒は簡易機械の運転に慣れたのか、壁へ機体が擦れる事はなくなってきていた。

すると、その時。

――しまった。

誰かが通路の角を曲がってきて、姿を現した。

諒は、思わず簡易機械のハンドルをきった。次の瞬間、その簡易機械は対象物を避けて、通路の白い壁へ衝突してしまった。

簡易機械からは白煙が上がる。すると、簡易機械が故障したとみなされ、壁内の簡易清掃機械が現れる。

――そんな。

冬華たちが止める暇もなく、簡易機械が回収されていく。そして、簡易清掃機械は、回収を終えると壁内に戻り、白い壁の中へ消えていった。

「あー、最悪だ」

諒は元に戻った白い壁を見ながら、床に倒れ込んだ。

「みんな大丈夫ですか?」

一方で、冬華は上半身を起こして周りの皆を見た。

「あぁ、僕は何とか」

「私も大丈夫です」

リーテ・ィュと黙人はそれぞれ答えた。

「ん?」

冬華の声に機械の三人は、驚く。

「トハク君!!」

――あ。

少しの沈黙の後、機械たち四人は慌てた。

「大丈夫でしょうか?」

黙人が心配そうにリーテ・ィュを見る。

「大丈夫だよ。僕たちは機械だし、こいつは再起動に時間がかかっているだけだ。衝撃には大丈夫だ」

――良かった。

二人の会話が耳に入っていた冬華は、少し安心したようだった。



「君たち、大丈夫か?」

諒が避けた対象の人物が話しかけてきた。

「あなたは?」

「俺は、このエリアの担当修理員だ」

「修理員!?」

黙人は彼の名乗った修理員の〈員〉という言葉にはっとした。

「何!!」

隣にいたリーテ・ィュも気付いたようだった。

「まさか人類!?」

「そうだけど」

彼は不可解そうに首をかしげた。

「どうしよう、見つかった!!」

「言うな!!」

諒は冬華の口を押える。

「なるほど。あの全システムへの攻撃要請の対象者は君たちか」

「!!」

――最悪だ。

「みんな、逃げろ!!」

諒はひとり盾になろうと構えた。

しかし、人類の彼、湯木解ゆき とけるは意識のないトハクの方を見ていた。彼の状態に気付いたのだ。

「そいつ、意識ないみたいだけど?」

湯木解が尋ねる。

「おい。大丈……」

 ……。

湯木解は、じぃ~っと見つめる冬華たち(=機械の視線)に気付き、そっちを向いて固まった。

「何だよ」

湯木解は、黙って見つめる彼女たちに戸惑っていた。そして機械たち、つまり冬華たちも戸惑っていた。(修理員だから当たり前なのだが)助けてくれようとしている機械以外の人物、しかも人類に。

「あの、頭部に衝撃を受けて、電子回路溶液がかなり」

「え」

「でも、リーテさんたちが治してくれたんです。でも、再起動に時間がかかってしまっているようで」

冬華は少し俯き加減で話していた。

「そうか」

――頭部かぁー。

湯木解は、トハクの頭部へ顔を近づける。すると。

トハクが目を開いた。

「ん?」

湯木解の眉間にしわがよったと思ったら、トハクがいきなり上体を起こす。

「ここどこ?」

ドゴッ。

「!?」

トハクが上体を起こしたら、湯木解の額に彼の頭部がすごい勢いでぶつかってしまった。

「痛ってぇー!!」

「大丈夫ですか!?」

冬華は、彼に寄っていこうとするが。


 しかし、轟音が響く。

「よっ!! 弟子よ。久しぶりぃぃぃー」

今度は、轟音と共に誰かの声が聞こえてきた。そして、それが飛び去る。

実はちょうど起き上がった湯木解の後頭部に情報屋、椎出井新作の簡易機械が突っ込んできて、そのまま飛び去って行ったのだった。

そして、いつも通り名刺が舞う。

「……」

冬華たちは唖然としていた。

「痛ってぇー!! あの情報屋ぁぁぁー!!」

彼は後頭部を手で押さえて立ち上がり、情報屋の飛び去った方へ向かって叫んでいた。

「大丈夫?」

そんな中、冬華はトハクの心配をしていた。

「僕、確か下敷きに……」

 トハクは、冬華と目が合う。が、恥ずかしいのか、顔を赤くする。そんな中。

「おい、氷」

湯木解が諒の方へ振り返る。

「え」

「冷やすんだよ!!」

「持ってない」

湯木解に話しかけられた諒は、きっぱり答えていた。



 白く、静かな廊下にサイレンの微かな音が聞こえて来た。

「警察機械だ!! 行くぞ!!」

諒は皆を急かした。すると、大音量のサイレンが突然、鳴り始めた。簡易機械が壁に衝突したせいで、エリア内の管理システムが反応したのだ。それにより、彼らの位置情報が警察機械に渡ったのだ。

冬華たちは慌てて走り出す。それを湯木解は黙って見つめていた。

「はぁー」

彼は溜め息をつく。すると、電子音が複数回、細かく鳴った。彼が制御棒を伸ばし、警察機械の簡易警備機械たちを停止させたのだ。

――え!?

彼の行動に冬華たちは振り返った。

「一応、大丈夫だけど?」

右手の制御棒を右肩に何回か当てながら、彼はしれっとして言った。

「……」

そんな彼を見て、皆は顔を見合わせた。

「ありがとう」

冬華は戸惑いながら、御礼を言った。

「……」

それを彼は黙って見ていた。



「ところで、君たちは何がしたいんだ?」

湯木解は冬華に尋ねる。

「地球から、円々の機械たちに会いに来たの」

冬華は簡潔に答えた。

「そうか」

湯木解はそう言うと、携帯端末を取り出し検索し始めた。

……。

冬華たちは黙って見ている。すると、諒がトハクへ密かに話しかけた。

「なぁ、トハク」

「はい?」

トハクはきょとんとし、顔を諒の方へ向けた。

「もう一度、情報セクターへ行けないかな?」

「えーっと、そうですね」

トハクが困っていると、リーテ・ィュが小声で参加してきた。

「さっき警察機械がもう来ていたんだよ? もう警察機械でいっぱいなんじゃないかな?」

「一応、情報セクターのコンピュータにアクセス出来れば、警察機械などの情報も手に入れる事が出来るのだけれど」

トハクは俯いていた。

――これは、アンドロメダ側へ不正アクセスを。

諒の思考にそれが横切った。

「情報セクター……ねぇー……」

今までの小声での会話を聞き取れていた湯木解は、諒たちの方を見ていた。

「あの、検索出来ますか?」

トハクはおずおずと話しかけた。すると、湯木解は得た情報を立体映像にして、冬華たちに見せてくれた。

「どうやら、情報セクターには、誰もいないみたいだな」

湯木解は出会って初めて少し口角を上げた。

「ん?」

冬華は画面を覗き込む。

「警察機械はともかく、あの二人はどこに?」

冬華は情報セクターで出会った管理人工知能の二人の事を疑問に思っていた。

「警察機械は警察の指示に従っていると思います。 警察など〈司法〉関係は人類とアンドロメダ生命体が行っているから。情報セクターの二人の事は分からないですが」

トハクは冬華の質問に答えてくれた。

「情報セクターには行けそう?」

「それは、ちょっと」

トハクは諒の問いに困りながら答えた。

「情報セクターへ行くまでに通過しなくてはいけない検問が数ヵ所あり、そこには大量の警察機械がいるので行くと捕まってしまいます」



「失礼」

――ん?

皆、一斉に声のする方へ振り返った。すると、その方向には走ってきた情報セクターの管理人工知能、リーカガとマス・ディーアがいた。

「どうしてここが?」

 冬華は尋ねる。

「情報セクターはこの宇宙コロニーの情報の中枢なので」

リーカガが真顔で答える。

「警察機械にあなたたちの居場所を分からなくさせる為に、宇宙コロニー運用以外のシステムをシャットダウンして来たよ」

マス・ディーアの方は笑顔で答えた。

「話を進めるけど、廃棄待ち置き場へ行くのでしょ?」

 今度は、リーカガ。

「なぜ、分か……」

「監視カメラの映像を片っ端から見ていった」

「そうしたら、あなたたちとある情報屋のやり取りが、記録されていたの」

冬華の疑問に、リーカガとマス・ディーアがそれぞれ答えた。すると。

「で? 手伝うの?」

次の瞬間、二人はその声の主を見て固まった。

 ……。

「人類!!」

――こいつら、うるせー。

人類の彼は呆れた。



警察内。

「大変です!!」

小鳥遊政爾の部下が慌ててやって来た。

「どうした?」

「管理人工知能の二人が情報セクターの任務を今、放棄して行方不明です。しかも、警察の情報基盤をシャットダウンしております」

「何だって!?」


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