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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
おまけの圭吾編6

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蜘蛛と蝶

 ああ、まただ……


 僕は苛立った。


 もう帰宅してるはずだろう?!



 志鶴はいつもそうだ。

 彼女が学校から帰って来るのを、僕がどれくらい待ってると思っているんだ?

 自慢できる話じゃないが、たぶん志鶴の飼い犬よりも待ち焦がれているさ。

 自信を持って言えるね!


「なら、母屋で待っていればよかったろ?」


 僕は仕事机に頬杖をついて、独り言を言った。


 そうさ。でも、ほんのちょっと期待して何が悪い?

 志鶴に階段を駆け上がって来てほしい。

 僕に会いたかったって言ってほしい。


 今日こそは、って思ってたのにな……


 情けなくもヘコみながら、僕は志鶴を探しに階段を下りた。




 今日の志鶴は、彩名のアトリエにいた。


「ただいま、圭吾さん」


 人の気も知らないで、志鶴は笑顔で僕を迎える。


「どう? どう?」


 『どう?』――って、つけマツゲ?

 ああ、目の回りに何か細工をしたらしい。


「美幸にやってもらったの!」


 僕は笑いを堪えた。


 まるで母親のメイク道具で遊ぶ子供みたいだ。


「かわいいね」


 志鶴の顔がちょっと曇った。

 彼女が聞きたい台詞は知っている。でも、言わない。


 ゆったりと横に座って、志鶴と彩名のお喋りを眺める。


 しばらくしてから、僕は志鶴に微笑みかけた。


「ねえ、志鶴。彩名に見せ終わったなら、上へ行こうよ」


 “Will you walk into my parlour?” said the spider to the fly,-


――『僕の部屋へおいでよ』クモがハエに言ったとさ



 マザーグースだったか? 志鶴はハエと言うより蝶だな。



「ほら、君が見たがっていたDVDが届いてるんだ」


 “And I have many curious things to show you when you’re there.”


――『君が来たら、色んなものを見せてあげるよ』


 志鶴は、無邪気に微笑んで僕について来た。



 階段を上って部屋に入るなり、僕は志鶴を抱きしめる。


 Up jumped the cunning Spider, and fiercely held her fast.


――クモはいきなり飛び上がり、彼女をしっかり捕まえた。



「綺麗だよ」


 耳元で囁くと、志鶴は目を丸くして、それから真っ赤になった。

 志鶴の顎に手をかけて、僕はゆっくりとキスをした。柔らかくて華奢な体から、力が抜けるのが分かった。


――仕留めた


 グッタリともたれかかる志鶴を胸に抱き寄せて、僕はニンマリと笑った。





僕の


僕だけの綺麗な蝶々




明日は、真っ直ぐ僕の元に帰って来るといいな




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