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一日目~夕暮編~

コツコツと校舎の中を二つの足音が響く。ひとつはボクの、もうひとつは柊のだ。ボクたちは、2人で他愛もない話をしながら校舎内を見て回った。


「やっぱさっき見て回った通りだな。何の変哲もない学校って感じだ。」


「そうだね。教室の配置とかが私たちの高校とは全然違うから、迷いそうになっちゃうけどねー」


普通ならこの異常な校舎内で他愛もない話をしながら歩くなんてことは無いだろう。今は何も起こっていないけど、もしかしたら次の瞬間には殺人が起きるかもしれないんだ。ボクたちは殺されてもおかしくないという恐怖から無理をしていつも通りを演じていた。傍から見ればボクたちのそんな様子は酷く滑稽に見えるだろうが、はっきりいってボクたちはそんなことを気にする余裕すらもなかったと思う。


一階から2階、3階と順に校舎を見て回った。回っていくにつれてお互い、口数は減り、3階の教室を回り終わる頃には2人とも無言だった。そのせいで、足音が余計にコツコツと響く。窓からは夕日が差し込んでいて、廊下は見事な橙に染まっていた。

夕日の差し込む廊下を2人で並んで、靴音を響かせて歩く。まるで昔見たある映画みたいだな……なんて柄にもなくセンチメンタルな気分に浸っていると突然柊が立ち止った


「ねぇケイ君。ちょっとお話があるの。いいかな?」


「ん?どうした?ひいら……えっ!?」


ボクは思わず上ずった情けない声をあげていた。というのも、ボクの胸に柊が突然飛び込んできたのだ。えっ!?なんで柊が!?どういうことだよ?おいおいどうしたらいいんだボクは?あまりに突然の出来事だったので思考が追いつかない。ボクはただその場で固まるばかりだった。


「ねぇケイ君……」


柊の声でボクは我に返った。今気づいたのだが柊の目には涙が溜まっていた。


「私、怖いよ、ケイ君……」


いつもは何があっても気丈に振る舞う柊が泣くなんて異常だった。こんなとき一体なんて言葉をボクは柊にかけてやればいいんだろうか?


「どうしたんだ?柊?いったい何が怖いんだよ?」


できるだけ優しく、柊の不安をできるだけ和らげるようにそう訊き返した。


「ケイ君は……怖く…ないの?死んじゃう………かも…しれないんだよ?あの中の誰かに…………殺されちゃう……かも…しれないんだよ!?」


「まだ死ぬとか殺されるとか決まったわけじゃないだろ?きっとどうにかして帰れる方法が―――」


「帰る方法なんて散々探しても手掛かりもみつからないじゃん…」


柊のもっともな言葉にボクは何も言えなくなる。廊下には柊のすすり泣く声だけが響いている。ボクは次、どんなふうに柊に声をかければいいんだ?そんなことを考えていると柊がまた口を開いた。


「ケイ君は……怖くない?」


「そりゃ…ボクだって死ぬのは、殺されるなんて言われたら怖いよ。怖いに決まってる。」


ボクは自分の正直な気持ちを答えた。しかし、柊はなぜかフルフルと首を横に振った。


「でもね、ケイ君。私ね、自分が死ぬよりもっともっと怖いことがあるんだ。」


ボクは柊の真剣なようすに何も言えず、固唾を飲んで柊の言葉を聞いていた。

「あのね、ケイ君。私、自分が死ぬよりも……ケイ君が死んじゃう方がずっと怖い。だって私……ずっと前から……その………ケイ君のことが……大好き…だから」



ボクは言葉が出なかった。突然柊にそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。こんな時どうしたら…とボクの思考回路は短絡寸前だった。柊に何か言い返そうにも、えっと…という声しか口から出なかった。


そのままの状態でどれくらいたっただろう。ふいに柊がボクからパッと離れた。その顔はさっきのように泣き顔ではなくすっかりいつもの柊に戻っていた。


「あのさ、ケイ君。私ちょっとおトイレ行ってくるね。さっきのは忘れちゃっていいからね!」


そう言って柊は走って行ってしまった。


結局ボクは、柊に何も返事ができないままだった。


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