悪の組織
漆黒の玉座に深く腰掛け、青年——この組織のボスである男は、手元のホログラムスクリーンを虚ろな目で見つめていた。
画面の向こうでは、純白のドレスを血に染めた少女が、カメラに向かって可憐に微笑んでいる。
彼女の名は『ルミナス』。世間が熱狂する、人類の守護者にして正義の象徴——『魔法少女』だ。
「皆さん、ご安心ください。凶悪な悪の組織は、今日も私が退けました!」
テレビのコメンテーターたちが「流石はルミナス!」と絶賛の声を上げる。だが、男の目は騙せない。画面の隅、瓦礫の陰で、彼女が踏みつけているのは、男の組織の若い構成員の骸だ。その顔は、恐怖と絶望に歪んでいた。
正義の魔法。その実態は、ただの一方的な虐殺だ。
彼女は、戦いという大義名分のもとで人を切り刻むことを心から楽しんでいる、底なしのサイコパスだった。しかし、その圧倒的な美貌と、振りまかれる笑顔、そして絶大な力によって、世界は彼女を盲信する。
結果、彼女に抗う自分たちは『悪の組織』と呼ばれることになった。
「……もう、5年か」
男は小さく呟き、自身の胸元に触れた。そこには、前ボスであった両親の形見のバッジがある。
10年前、突如現れた魔法少女という名の災厄。
5年前、組織の拠点が襲撃され、両親は「正義の執行」の名のもとに、なぶり殺された。当時まだ若かった男は、血の海の中で両親の遺志と、この呪われた組織のボスの座を引き継いだのだ。
世間がどれだけ彼らを悪と指さそうとも、彼らが掲げる真実の旗は一つだけ。
——あの狂った魔法少女の支配から、この世界を、人間を解放すること。
「ボス、次の作戦の準備が整いました」
物陰から、傷だらけの幹部が静かに頭を下げる。
男はゆっくりと玉座から立ち上がり、漆黒のコートを翻した。その瞳には、絶望ではなく、静かな怒りの炎が宿っている。
「始めよう。世界を狂気から目覚めさせる時間だ」
偽りの正義を打ち砕くための、悪の戦いが、再び幕を開ける。
倒されても倒されても、それでも立ち向かい続けなければならない。




