第3話 初めての仲間候補
王都地下迷宮、第八層。
「……本当にあるのか?」
ノアは周囲を警戒しながら歩いていた。
《世界書庫》が示した座標は、この先にある。
未発見の神代保管庫。
もし本当なら、とんでもない発見だ。
しかし同時に疑問もある。
「なんで今まで誰も見つけなかったんだ?」
王都地下迷宮は何十年も攻略され続けている。
Sランク冒険者も何度も潜っているはずだ。
それでも見つかっていない。
そんな場所が本当に存在するのか。
【存在します】
突然、頭の中に文字が浮かぶ。
「うおっ!?」
思わず声が出た。
最近は驚くことが多すぎる。
【質問を認識】
【回答します】
「……会話できるのか?」
【可能です】
【ただし権限不足のため回答可能範囲は制限されています】
ノアはしばらく沈黙した。
なんだこれ。
本当に攻略本みたいだ。
「じゃあ聞くけど、なんで誰も見つけられなかった?」
【神代保管庫は認証者のみ認識可能です】
【現在認証者はノア・アルト】
【世界内で一名】
「俺だけ……?」
嫌な予感がした。
唯一という言葉は危険だ。
目立つ。
狙われる。
昨日見た『適合者を狙う勢力』という警告を思い出す。
「……なるべく隠した方が良さそうだな」
【推奨】
【その判断は正しいです】
攻略本に褒められた。
なんとも言えない気分だった。
◇
一時間後。
指定された場所へ到着する。
そこはただの行き止まりだった。
「壁しかないぞ」
【右から三番目の石】
【押してください】
言われるまま押す。
すると。
ゴゴゴゴゴ……!
壁が左右に割れた。
「またかよ!」
昨日と同じだ。
もはや驚きより呆れが勝つ。
その奥には小部屋があった。
中央に置かれている宝箱。
そして――
「……誰だ?」
宝箱の前に少女が倒れていた。
銀色の髪。
長い耳。
十六歳くらいだろうか。
薄汚れたローブを着ている。
意識はない。
だが生きている。
「なんでこんな場所に?」
【個体名:フィリア】
【種族:ハイエルフ】
【状態:魔力枯渇】
【生命維持まで残り約4時間】
「えっ」
ノアは慌てて駆け寄った。
呼吸は弱い。
顔色も悪い。
放置すれば本当に危ない。
「どうすれば助かる?」
【回復ポーションで治療可能】
「持ってない!」
【宝箱内部を確認してください】
「便利すぎるだろ……」
ノアは宝箱を開けた。
中には青い瓶が並んでいる。
【神代回復薬】
【現代ポーションの上位互換】
「都合良すぎないか?」
【偶然です】
「絶対違うだろ」
思わずツッコミを入れながら、少女に薬を飲ませる。
数分後。
少女の顔色がみるみる良くなっていった。
「……う」
長いまつ毛が震える。
ゆっくりと瞳が開いた。
透き通るような蒼い瞳。
思わず見惚れるほど綺麗だった。
「ここは……?」
「大丈夫か?」
少女は数秒固まる。
そして。
「きゃあああああっ!?」
突然飛び退いた。
「えっ!?」
「人間!?」
「えっ!?」
「なんでいるの!?」
「それはこっちの台詞なんだけど!?」
二人とも混乱していた。
◇
数十分後。
ようやく落ち着いた二人は事情を説明し合っていた。
「つまり君は、この隠し部屋を探していた?」
フィリアが首を傾げる。
「ああ」
「でも普通は見つけられないはず」
「まあ……たまたま」
《世界書庫》のことは伏せる。
流石に言えない。
するとフィリアが難しい顔をした。
「変」
「変って」
「とても変」
ひどい。
「私たちエルフでも見つけられない場所なのに」
「私たち?」
「……あ」
フィリアが口を押さえた。
何か失言したらしい。
ノアは深く追及しなかった。
代わりに別のことを聞く。
「君はなんでここに?」
その瞬間。
フィリアの表情が曇った。
「……追われてるの」
「追われてる?」
「うん」
小さく頷く。
「だから隠れてた」
詳しくは話せないらしい。
だが様子を見る限り、嘘ではなさそうだ。
「そうか」
ノアはそれ以上聞かなかった。
誰にだって事情はある。
自分だって追放されたばかりだ。
話したくないことくらいある。
するとフィリアが不思議そうな顔をした。
「聞かないの?」
「無理に聞いても仕方ないだろ」
「変な人」
また言われた。
だが今度は少し笑っていた。
◇
その時だった。
【警告】
突然、世界書庫が反応する。
文字が赤く染まる。
【敵対存在接近】
【推定数:12】
【到達まで3分】
「……!」
ノアの顔色が変わる。
「どうしたの?」
「誰か来る」
「え?」
「かなりまずい」
フィリアも立ち上がった。
直感的に異変を察したらしい。
そして。
遠くから足音が聞こえてきた。
複数。
かなりの人数。
迷宮の静寂を破りながら近づいてくる。
その中に聞き覚えのある声が混じっていた。
「確かにこの辺りだ!」
勇者アレス。
聞き間違えるはずがない。
ノアの表情が険しくなる。
昨日、自分を追放した元仲間たち。
なぜこんな場所にいるのか。
偶然か。
それとも――。
【神代級遺物の反応を追跡しています】
世界書庫が答えを示した。
ノアは舌打ちする。
「最悪だな……」
まだ力もない。
正面から戦えば勝てない。
だが。
フィリアを見捨てる気もなかった。
「走れるか?」
「え?」
「ここから逃げるぞ」
フィリアの瞳が大きく見開かれる。
まるで信じられないものを見るように。
「私を……助けるの?」
「助けるっていうか、一緒に逃げるだけだ」
そう言って手を差し出す。
一瞬だけ迷った後。
フィリアはその手を握った。
そして二人は駆け出す。
知らなかった。
この出会いが。
追放された荷物持ちノアの人生を大きく変え、
やがて世界の運命すら左右することになるとは。
【続く】
早くも仲間候補が現れましたね!
二人の出会いが今後どのような展開を起こすのか、、
乞うご期待ください!




